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二本の刃 サイドストーリー

第三章 サイドストーリー
二本の刃


教会塔の一室で、タトはライアンと向かい合っていた。

机には、レイのための荷物が並ぶ。衣類、乾燥食料、薬──どれも旅支度の基本だ。


「タト、これまでにどんな危険があったかい?
レイに何を持たせればいいか、教えてほしい」


タトは少し考えてから答えた。


「連峰では森とは違う魔獣が出ます。よく濡れますし、足元やマントはしっかりしたものがいいです。
湿地の寒さも厄介ですね」


「なるほど……あの子は寒がりそうだしね。防寒はしっかりしておこう」


ライアンはメモを取りながら頷いた。


その目が、タトの腰にある刃物に向く。


「それ、ずいぶん使い込んでるね。ずっと、それ一つで?」


「はい…整備はしてきたつもりですが、だいぶ刃が減ってて」


「ちょうどいい。街の工房があるから、手入れしてもらいなさい」


そう言って、ライアンは机の引き出しから厚い革札を取り出した。


「これを見せて“ライアンのツケで”って言えば、名前を書くだけで済むよ。
気に入ったものがあれば、なんでも準備しなさい」


タトは思わず目を見開いた。

「……いいんですか?」


「もちろんだよ。
今までにない旅なんだ。万全に整えておくれよ。
それに君たちは、十分に“信用”を積んでいる」


そう言って、ライアンはお茶目にウインクをした。

その言葉が、じんわりと胸に染みた。


もう、一人きりの旅ではない。
この機会にしっかりと備えよう。


タトは革札を受け取ると、深くうなずいた。



教会を出ると、タトは街の南端にあるという鍛冶屋へ向かった。

裏通りの石畳は細く、軒の低い家々が肩を寄せ合って並んでいる。


角を曲がると、小さな看板が目に入った。


──鍛工房グラフト


木の扉の向こうから、時折カン、カンと金属を打つ音が響く。

その扉を押し開けると、熱気と鉄の匂いが鼻をくすぐった。


「いらっしゃい」


すすけたエプロンの男が顔を出す。

引き締まった顔立ちだが、目元は柔らかく、笑みがにじんでいた。


「お、初めて見る顔だな」


「はい。ライアンさんの紹介できました」


タトは革札を見せる。

「こりゃすごい、塔の札か!あのライアンが!
どれ、何でもどうぞ」

男は人懐っこく笑い、軽く頷いた。


タトは腰の刃物をカウンターに置いていく。

ナタ、小ぶりのナイフ、ピッケル、そして使い古した短刀。


「なるほど……山仕事の道具だな。だが、刃先は森用でも狩猟用でもない」


「何度か魔獣を斬りました」


職人はナタを手に取り、刃紋を確かめる。

「ほう……誰の仕事だい?」


「ルミナリーの鍛冶師です」


職人は眉をわずかに上げ、じっとタトを見つめると黙って頷いた。

「おまえさん、名前は?」

「タトです」

「そうか、タト。俺はグラフトだ。」


差し出された手は、節くれだって分厚く、温かかった。


「さて、こっちも手入れが遅れてるな。
懐のは研がれてる。自分でやったか?」


「はい」


「腕は確かだな。他はしっかり研ぎ直そう。
だが…魔獣相手にこれだけじゃ心許ない」


そう言って、グラフトは奥から一本の刃物を取り出した。


「これはな、木こりが“間に合わなかった”ときのために打ったやつだ。
ナタよりやや長く、腕で振れる重さにしてある。最低限、これくらいは要る」


タトは黙って革巻きの柄を握った。

湿った手でも滑らず、重心が芯から刃先まで通っている。


「……すごい」


グラフトはニッと笑うと頷いた。

「鉈剣だ。塔からの紹介だからな。確かな品だぜ」


「それから、もう一本。古い短刀の代わりに、これなんかどうだ」


グラフトが布を丁寧に外すと、反りのある山刀がギラリと現れた。

鞘からのぞく刃は、風を受けたような滑らかな曲線を描いている。


「重さは抑えてある。打ち込みを誤らなければ、骨でも関節でも通る。
獣の皮を剥ぐにも、身を守るにもちょうどいい」


その山刀は手に馴染み、振ったときの空気の抜けも心地いい。

「気に入ったなら、ナタと短刀は預かっておこう。」

「はい、お願いします」

「よし、タト。
この山刀は風抜(かざぬき)。鉈剣の名前はどうする?」


タトはしばし無言で鞘を見つめ、決意を込めた声で答えた。


「“守鋼”(しゅこう)にします」


「守る鋼か。……いい名だ」


グラフトは口元をほころばせ、鉄筆でそっと柄に刻み始めた。


カリ、カリ—— 

その音は、静かな工房の中で小さく響いた。



タトはその音を聞きながら、工房の窓の向こうに伸びる街路をぼんやりと見ていた。

外では、子どもたちがはしゃぎ、焼き菓子の屋台から香ばしい匂いが流れていた。



新しい刃を受け取ったとき、ちょうどの午後の風が通り抜けた。


タトは静かに息を吸い、二本の刃を腰に収めた。


「ありがとうございました」


「ああ。また来な」


扉を開けた空は、嘘みたいに青かった。


――何があっても、二人を守ろう。


タトは新しい刃を確かめるように握り、
遥か遠くの連峰の影を見つめた。


その眼差しに、いま、迷いはなかった。




(おわり)


本編

二本の刃〜サイドストーリー - 追憶のカケラ|本編のこぼれ話・ミニエピソード・設定 | Tales 物語・小説

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望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡