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これはコミュニケーションですか?はい、これは間違いなくコミュニケーションです ———「Thisコミュニケーション」全巻読了感想。愛すべき唯一無二の怪物、デルウハ殿に捧ぐ

う~~ん久しぶりに感想を書く。
文章を書くというのは当然も当然だが、コミュニケーション手段のひとつだ。自分の中にあるおぼろげな考えをなんとか言語化し、まとめ、形にして、出力する。
そして受け取った人間は、込められた想いをたとえ僅かでも感じ取り、自分の一部にする……
直接言葉を交わすよりもめ~~っちゃくちゃに回りくどく、だが、だからこそ伝えられるものがある。美しきコミュニケーションの形だ。

この「Thisコミュニケーション」という漫画もタイトルを読めば一目瞭然
まさにコミュニケーションすることを題材にしたうるわしき漫画だ。
主人公であるベテラン軍人のデルウハ殿が、気難しくも頼もしき6人の少女たちと、心を通わせていく……そんな漫画。
特筆すべきは、この女の子たちに対するコミュニケーションのやり方だ。
言葉か?文字か?身振り手振りか?触覚を利用した意思疎通か?
当然これらも用いるが、驚くべきことにいっちばん大事なコミュニケーションは、このどれでもない。



では何が一番、彼女らの心を動かすのか……
その答えは実に単純明快。

斧である。

いや、違った。さすがに「斧」は妥当ではない。
表現が正しくない。正確に言おう。
彼女らの心を動かすのは、
斧、ナイフ、ゴルフクラブ、散弾銃、リボルバー、砲弾、未知の化け物!
使えるものは何でも使う、手段を問わぬ「暴力」である!
そしてこの暴力を軸としたコミュニケーションが、
間違いなくデルウハ殿にとって、
そして時に女の子たちにとっても……
最良のコミュニケーション手段となるのだ。

タイトルに一切偽りないのにタイトル詐欺にしか思えないしすっごい刺激に満ちたそんな作品、「Thisコミュニケーション」。
完結したのももう1年以上前になるが、つい先日今更ながらに読み終えた。いや~~~、おもろかったー。
なかなか他の漫画にない栄養素に満ち満ちた作品だった。
という訳で感想を書く。のだ。
手間だがこういうのは新鮮なうちにやっとかないと腐るのだ。保存食の加工と同じだな。




以下詳細な感想、ネタバレ有、要注意。



人によって様々、コミュニケーションのかたち

さてまあ既読の方なら先刻承知のことと思うが、
デルウハ殿による「暴力を用いたコミュニケーション」とは、「暴力をチラつかせて言う事を聞かせる」という暴力団めいたことでは決してない(いやまあ、所長とか神父に対してはこの表現に近い手段を取ることもあるが)。

デルウハ殿のそれはさっきも書いたが実に単純明快。
「邪魔な奴を暴力で消す」。
極まった合理的思考の極致が生み出す、極めて効果的な解決方法である。
……問題の発生源が消えてなくなるんだからそりゃー問題は解決するわな!

そもそも論、殺人という行為自体が話し合う努力とかをまるまる放棄してるんだから、むしろコミュニケーションの真逆、ディスコミュニケーションと言っていい。サイコパス殺人鬼は(モノによるが)相手とのコミュニケーションなんて必要としていないのだ。

だが我らがデルウハ殿は、そんじょそこらのサイコパス殺人鬼とはワケが違う。
彼は殺したいから殺すんじゃあない。それが一番合理的だから殺すのだ。
利益があるんなら殺さない、建設的な話し合いができるんなら殺さない、問題が手っ取り早く解決できるんなら殺さない。
だが、殺した方が早いなら、殺す。ただただそれだけなのだ。
それは趣味でもなければそこに快楽も介在しない。そう、実に合理的で話の通じる……サイコパス殺人鬼なのだ。

われわれは問題解決のためにいくつものコミュニケーションを重ねる。
話し合い、討論し、問題点と利害衝突点を探り、ひたすらに擦り合わせる。
デルウハ殿はその流れの中に、ごくごく自然に「殺人」という手段があるだけなのだ。
もはやそれは、彼にとっては単なるコミュニケーション手段のひとつだと……そう言っていい。

殺人という究極的なディスコミュニケーションが、
彼にすれば話し合いと同列の真っ当なコミュニケーション……
一見相反するこれこそがまさに彼のコミュニケーション、
いわば……Thisコミュニケーションか!

この漫画とは一切関係ないタイトル回収おじさん

 
……共感性羞恥を惹起させてしまいそうなアホなことを抜かしてないで次。

このデルウハ殿の「悪癖」とハントレスの特性とがガッチリ噛み合った結果とんでもない地獄絵図が展開される訳だが、ここではまさに殺人がコミュニケーションの一環として扱われる。
意図せぬ言動で相手を傷付けてしまったから謝る。そして仲直り。
意図せぬ言動で相手を傷付けてしまったから、殺して1時間前の記憶に戻す。そして仲直り(仲直りも何も相手視点仲違いした事実もないが)。
そこに何の違いもありゃしないのだ。こんなエゲつないことある?

心温まるコミュニケーションが行われた一幕。ちょっとナイフ使ってるけど……
実際スランプとトラウマを(物理的に)消去してるんだから有益なカウンセリングではある

こんな、あんまりにもあんまりなコミュニケーション。
こんなものを成立させられるのはまさにデルウハ殿だけであり、
彼の合理性を何より象徴する事象であり、
そして何より、彼を魅力的な存在たらしめているゆえんでもある。
……デルウハ殿の彼女らに対する姿勢って、とても真摯なんだよなぁ。
心情に寄り添い、適切なアドバイスをして、時にカウンセリングもして、
ただ、その延長線上に「殺害」があるだけでさぁ……

 

デルウハ殿というキャラの魅力は、このハントレスたちとの関わり合いの中で発揮され、際立っていく。
だがここで一旦冷静になって、デルウハ殿のことを客観的に考えてみよう。
……私利私欲で人を殺しまわった挙句、年端も行かぬ女の子を何度も殺す サイコパス殺人鬼。
恣意的に抜き出した要素だが、一見するととてもじゃないが人気が出そうにない、読者に嫌われそうなキャラ造形だ。ゴールデンカムイの囚人にこんなクソ野郎居るんじゃねえか?
だが、デルウハ殿が作中最も人気あるキャラなのは人気投票の結果からして客観的な事実といっていいし、私自身もかなーり好きなキャラだ。

デルウハ殿のようなキャラを他の漫画で喩えると?ともし聞かれたならば、私はちょっと返答に窮してしまう。
単なる快楽殺人鬼ではもちろんなく、美学を持った一本芯のある悪党……ともちょっと違う。人の心が分からないサイコパスかというと、共感性の欠け落ちたサイコパスなのは間違いないが、人の心はよっぽどよく理解している(その上で踏みにじることに躊躇いがないだけで)。それに折に付けて見せるそのリアクションはかなり等身大で、けっこう人間くさい。
しかし善人では、決して、決してない。

とてもユニークで、そして危ういバランスの上に成り立つ彼の魅力。
とかくキャラへの悪印象が忌避されがちな昨今の創作界隈において、ここまで名有りキャラをぶっ殺しまくっている主人公は実に特徴的で、魅力的で、
だからこそ唯一無二だ。
……まあ、そんな手広く作品を読んでる訳でもないいちシロウトの感想ではあるけども。

 

傍若無人にして残虐非道、を許容なさしめるもの

ヘイトコントロール、という言葉がある。他人の漫画感想を読もうという人なら知っている方も多いだろうが、つまるところ、読者から各キャラへの 好感度をうまく調整する概念、ひいては技術だ。
これを疎かにしたがためにレギュラーキャラや悪役の魅力が損なわれてしまった、そんな例は枚挙に暇がない。
世界を救う正義の味方が、その裏で私利私欲の為にチンケな盗みを働きまくってたら?とてもじゃないが応援する気になれない。
敵幹部が改心して味方になるというのは古来より続く王道だが、その敵幹部がシャレならん数の人を殺していたら?読者の心情的に到底受け入れられるものではない。
これらは誇張した表現だが、実際のとこ些細な描写ひとつでさえ読者の好感度は細かく上下する。コントロールしきるのはきっととても難しいことだ。

パッと思いつく分かりやすいヘイトコントロールの失敗例。
ヒロインにメシ作らせといてこの言動である。おま……お前マジかぁ……
よりにもよって主人公にかなりのヘイトが向かってしまった。

余談だが、一昔前の漫画だとメイン格のキャラがセクハラまがいのことをするってのもよくあったなあ。ケツ触るとか、女湯覗くとか……
今の時代は窮屈になったとかどうとか、そんな方向にもってく気は毛頭ない。むしろエンタメ性の追求としては当然の流れだと個人的には思ってる。セクハラするカス野郎を好きになるわけあるか!
昔でさえキャラ付けにはなっても読者からの好感にはならなかったものが、キャラ付けにもならなくなったから使われなくなった。それだけの話だ。

閑話休題。
レギュラーキャラへの好印象の維持と、そのためのヘイトコントロール。
これはエンタメにおいて非常に大事なことなのであるが、さて翻って考えてみて、魅力に満ちたる我らが主人公デルウハ殿はどうか。
そうまさに彼は、人類最後の砦である研究所を守るために、あらん限りの 智謀を振り絞り、死力を尽くして戦うヒーロー……

ん?
んん?
こいつホンマ
ホンマこいつ!

えー、そうまさに彼は……
都合が悪ければ即座に殺し、かわいらしい少女も殺しまくり、三食飯を食うという私利私欲の為なら手を汚したなんて負い目すらなく手を汚しまくる、ちょっとドン引くくらいの数を殺してきてそうな……
……ヒーローである。

いやー、清々しいまでの外道である。悪意をもって羅列したらいくらでも偏向報道できてしまいそうだ。
だが私の実感として、そしておそらく多くの読者にとっても、デルウハ殿に対する印象は決して悪くない
いやむしろいいまである。
清々しいまでの外道なのだ。清々しすぎて、いっそ清々しいのだ……いったい何を言ってんだという感じだが、ここまで突き抜けてると非難する気にさえならない!
創作上だと人殺しよりもしみったれた盗みの方が嫌悪感がある、という現象があるが、きっとそういうことなのだ。

人は結局のところ理屈じゃあなく、感情で生きる生き物だ。
やらかした所業の客観的なデカさなんて、究極的にはどうでもいい。
その言動にどれだけ生理的な嫌悪感を覚えるのか。
ただただそれだけが大事な点だと言える。

だからまったくのフィクションとして消化しやすい「人殺し」よりも半端に理解できてしまう「万引き」の方が生々しい嫌悪感を覚えるし、生々しさの極致たる「性犯罪」はもう一発退場即時執行間違いなしのレッドカードを超えたレッドカードだ。
デルウハ殿の「三食飯を食う為に」という私利私欲に満ちた行動原理は一見身近で理解できてしまいそうに見えるが、実際のところ、徹底しすぎてて逆に理解できない。
グルメキャラなら普通この食べ物が好きとか嫌いとか、よりよい物を食べたいがために努力するとかあるだろう!
しかしデルウハ殿はここでも合理的で……三食きっちり、豚のエサでさえなければそれでいいとでもいうような……そんなスタンスなのだ。
……人間らしくない。もはや虫かなんかか?というレベルである。

そしてこの行動原理から繰り出される殺戮劇も、等しく理解の範疇外だ。
人が人を殺したというよりは……デルウハという合理のシステムに、人の形をした天災に……処分されてしまった。とでも言うべき有様だ。そこに良くも悪くも生々しさはなく、判断基準に合致したから消去されたというようなシステマチックさだけがある。
自然災害で大切な身内が亡くなったからといって、自然現象そのものに強い恨みを抱けるだろうか?むしろ災害時の対応をした行政とか、その身内を助けられなかった救助隊とか、そういう「人」に恨みは向く。

デルウハ殿の行動原理と判断基準に人間らしいブレやえこひいきは一切存在しない。ある意味公明正大だ。
そこに一切の生々しさは存在せず、生理的嫌悪感も(もちろん人によるが)生起させない。
デルウハ殿に殺された奴らに対しても憐みは覚えても同情はしない。ウハ殿の定義した殺害ラインはあまりにも厳格だ。厳格に線引きされたラインをわざわざ踏み越えた奴が悪いのだ。意味深な祠を壊した迷惑系Youtuberが祟り神に祟られたって、そんなの自業自得の極みなのだ!
そう、ここに至り、デルウハ殿は「人」から「神」へと成ったのだ……!

……などとアホなことを抜かしてないで。
実際のとこ「神」などではまったくない。
デルウハ殿が人間らしからぬブレなさを見せるのは、あくまで「行動原理」「判断基準」まで。
起きたことへのリアクションやひたすらに悪化する事態への対応に苦心する様なんかには、まさに人間らしいブレと苦悩に満ち満ちている。

物語序盤の好きなところ。
アホっぽいがしかし、こういう状況に自分がなったら(なる訳ないけど)
いかにもやってしまいそうで、共感できてしまう。

この人間らしさと人間らしくなさの同居にこそ、
デルウハ殿の魅力は詰まっている。

中盤の個人的ハイライト。
相手の手管に苦戦させられた怒りで八つ当たりをかまし、
そしてその健闘を称える。
システムらしからぬセンチメンタルさがそこにはある。

……愛されるのも恨まれるのも、その対象が人間であればこそ。
世界観の根幹を成すシステムに、そもヘイトコントロールは無用なのだ。
デルウハ殿はその合理性によって部分的に神に……物語のシステムとなり、
もってヘイトの枷から部分的に解き放たれ、
「少女たちを殺す殺戮者にして少女たちの理解者」という矛盾した、そして独特で魅力的なキャラ造型を成立せしめたのだ……

そして序盤の個人的ハイライト。
まさに彼は悪である。振り下ろすその斧に一切の倫理観は存在しない。
だが美しさがある……合理が生み出す、善悪を超越した機能美が。

読み返してて思ったが、デルウハ殿がハントレスたちを殺すシーンは山ほどあるのに、「斧が顔にぶっ刺さってる」みたいな直接的な絵面はわりと画面に映らないようになってる気がする。デルウハ殿以外に殺されるハントレス、あるいはハントレス以外のデルウハ殿が殺した奴らは結構グロい絵面だったりするんだけどね。
いやー、細かい気遣いが行き届いているというべきか。さすがにモロな表現がされてしまうと、生理的な嫌悪感が生まれてしまう。
これもまたヘイトコントロールの一環というべきだろう。
一方でコピーデルウハ戦後、あんまりにもひどい形でハントレス殺しがバレてしまうあたりからモロ死してる光景が出始めてくる。まーさすがにここまで来たら、もう読者の頭にも「デルウハ殿はそういうもんだしな……」って共通認識とある種の諦めがあるわな。

ここ好き

間違いなく殺人鬼なんだが、もはや見ててある種の爽やかささえ覚える。
こんな殺人鬼、他にいねえわぁ。

まぁそもそもここまで外道要素にフォーカスして話を進めてきたが、デルウハ殿が(飯を食う為といえ)研究所の人らを生かすために働き続けているのも間違いない事実である。
それにヒストリエの記事でも似たようなことを書いたが、基本的に彼には事態の主導権がない。やりたい放題してはいるが同時に到底つり合いが取れないくらいにヒドい目に遭い続けているのだ。
ウハ殿は半分神である!とかなんとかぶち上げたが、そんなんを持ち出すまでもなく、この貢献と犠牲とが彼の魅力を支えていることは間違いない。


さーてここまででもかなり長くなってしまったが、まだもうひと踏ん張り。こんなネットの片隅に投棄された文章を読む人間がどれほどいるか知らんが、まったく読む側も大変なことだ。


システムと化すというこの特長的なヘイトコントロールにはしかし、一つの問題点がある。
それはシステムである以上デルウハ殿の行動は必ず決定されるということ、そしてそれはつまり、その上で成立する話作りをしなければならないということだ……

 

起・承・転・結、の短いサイクルをブン回せ!

……もしもデルウハ殿が、殺す対象を個人的な好悪で変えたとしたら。
もしもその厳格なる「行動原理」「判断基準」に、人間的なブレが生まれてしまったならば。
その時点でデルウハ殿というキャラは崩壊し、積み重ねられたすべては無に帰ってしまうだろう!
あるいは物語の最後の最後にかます演出としてならば有効かもしれないが、いずれにせよ物語のシステムにはもう戻れない
例えば「よみだけは気に入ったから殺さずに記憶をそのままにする」みたいなことを一度でも、たった一度だけでもしてしまったならば、以降のハントレス殺しに嫌~な生々しさが付随しつづけることになるのだ!

ラブコメが不動の人気を持つ一大ジャンルであるように、個人的な好悪は、「キャラ同士の関係性」というものは物語を牽引する大きな原動力だ。私自身にしても別記事で書いたように、「激重感情をぶつけ合うライバル関係」というのがかなーりの好物である。
この漫画も「軍人の男性が6人の少女たちとともに戦う」なんて概要だけを見たら、そこにラブコメ要素を期待しない人間の方が少なかろう。
しかし蓋を開けてみれば、ラブコメどころか両者の関係性は絶えずリセットされ続けている。先ほど謝るのと殺すのとが変わらないと書いたが、実際のとこ、関係性が積み重ならないという大きな違いがそこにはあるのだ。
つまり関係性という巨大なエネルギーを積極利用することなしに読者の関心を惹けるような話作りをしなければならず……事実としてそれは、達成されている。
では一体、何が物語を牽引しているのか……

一瞬だけ存在したラブコメ回、ときめきメモ……「時々メモが来る」。
文字通りの殺し文句ってかガハハハ!
……こいつが言うと洒落ならんわ!!


単行本の作者あとがき(なかがき?)を読ませて頂いていると、映画の話がけっこう出てくる。それもホラーやサスペンスの類が多そうな感じだ。
と言いつつではあるが私はあまり映画の類には触れておらず、申し訳ないことに出てくるタイトルも大半が分からない。しかしそれでも、読んでてホラー映画っぽい演出だな!と感じることはちょくちょくある。

この殺人鬼にしか許されない登場の仕方!くぅ~これこれ!
この直後も含めてかなり好きなシーンである。

そしてそれはきっと、演出だけに留まらない。
この漫画は一話ごと、エピソードごとの起承転結が……特にオチがしっかりつくことが多い印象を受ける。そう、単体で完結しているのだ。
物語の大目標がいい意味で関わらないというか、長期的な「ヒキ」を気にしなくてもいいというか……それゆえのすっきりした読み味がある。
……そう、まるで、短編映画のような。まぎれも無く長期連載形式の作品であるにも関わらず、だ!

全編通して一、二を争うくらい好きなオチ。
独善的すぎるがゆえに誰も救えずにいた吉永だが、最後の最期に、
心の底から救いを求めた一人の人間を救った。
ずーっと彼の人生を歪めていた、その読心能力によって……

この物語を牽引する原動力は、この作品の求心力の根幹を成すものは、
「キャラ同士の関係性」でも「物語全体を貫く大目標」でもない。
条件に合致したら必ず殺すデルウハ殿と、死んだら8時間で復活するハントレスたちという二つのギミック……
この二大ギミックを軸として、短くキレよく繰り返される「起承転結」
この起承転結が、それゆえにばりばりに効いたメリハリこそが、
俺がこの漫画を好きな理由なのだ!

戦いの果てに初めて殺さないことを選んだデルウハ殿。
ここに至るまでの「起承転」もとても刺激的で、論理的で、
そしてこの「結」も、きわめて合理的なものだった。
……いや暴走デルウハ殿こええよ……

そしてこの構造であればこそ、デルウハ殿の特異なキャラ性は維持され……システムとしてデルウハ殿が機能してこそ、この構造は堅牢なものとなる。
鶏が先か卵が先か。
それを明らかにする意味は無いが、いずれにせよこのサスペンス性を中心とした魅力なくしてデルウハ殿は成立せず、デルウハ殿なくしてこの作品の魅力は語れないのだ。

……いやほんと、長期連載なのにキャラの関係や大目標に大きく依ることなく魅力的な話を成立させ続けているのってすごいというか、
この作者さんのネームづくりってすごいうまいよなあ!?絶対頭いいわ!
私にゃその客観的な評価なんてできる訳も無いが、ただただすげえなあと思うばかりだ。

 

かくて悪魔との契約は果たされる

……そして物語は、最終盤に入る。
異次元の彼方に消えたハントレスたち。もはや彼女らが帰還しないことを確認したデルウハ殿は、恐るべき凶行に走る。
「VSアンドレア・デ=ルーハ④」ってそういうことかァ~……たまらんね。
そんでまあこの凶行を目にしても、いまさら私の心に嫌悪感は生まれない。
そりゃあ、そうなるよな。という納得感があるだけだ。
なんてったって彼は……神、いや、悪魔だからだ。

最期に「ダイナマイトという銘柄の煙草」を吸えた所所長。
最初にちょろっと出た要素がキレイに回収されていく、
このまとまりの良さも、なんだか映画的だ。
デルウハ殿の次に好きなキャラだったなあ……

そして7年と11ヵ月と27日間の三食と28日目の朝食をしっかり食い切った彼は、美しい山々を前にして、第一話と同じ行為を行う。
と思ったら最後の最後で、あの彼女たちが帰ってくる……

……結局のところ、ハントレスたちがデルウハ殿の心理を完全に理解することは、ついぞなかった。
デルウハ殿が殺害を忌避するようなことは……
その行動原理と判断基準に情が交じることは、最期までなかったのだ。
だがそんな無理解なんて、そして一方に情が全くないことなんて、
コミュニケーションの妨げになりはしない。

ただの
  ―――反射だった

彼女らがデルウハ殿から受け取った愛や情は勘違いに過ぎず、しかしそれが訂正されることはもはやない。
機能不全のディスコミュニケーションに陥ったからこそ、
それは最良のコミュニケーションとなったのだ。

 
―――「Thisコミュニケーション」。
この最終話のタイトルに、そして漫画のタイトルに一切の偽りなし。
まさにタイトル通りのすばらしきオチ、すばらしき「起承転結」だった!

彼女らが笑顔でいられるのは、その過程はどうあれ……
間違いなく、デルウハ殿のコミュニケーションのおかげなのだ。

 

わたしゃあけっこう涙もろくて、作品を見終えた時にはボロ泣きしてることもままあるんだが、正直なところを言えば、この作品はそこまで涙腺が緩まなかったのだ(所長の最期はちょっとキたが)。
デルウハ殿の死もとても悲しいというよりはよう大往生したなあってのに近い印象だし、ほんとに失礼だが正直なところを言えば、あのハントレスたちは私の心にそこまで深く刺さりはしなかった。
それはやはり……キャラ同士の関係性に重きを置かぬ話作りゆえにこそなのだろうか、などと勝手なことを、まったく個人的な感想を思う。

でもその代わり、全編にわたり私の心の中に確かにあったのは、感心だ。
思わず膝を打ってしまうような……
「そう来たかァ~~」と唸ってしまうような、
まさに、構成の良く練られた短編映画をきっちり見終えた後のような!

これはコミュニケーションですか?
はい、これは間違いなくコミュニケーションです

キャラ商売全盛のこの時代にあって、映画のごとき話作りで長期連載を戦い切った快作、「Thisコミュニケーション」。
この読み味は、このデルウハ殿というキャラは、私にとって……
なかなかどうして他に類似するものなき、唯一無二の劇物だったのだ!
……だがもう、その姿を見ることはないのだが……

 
 

お気づきでしょうか。
単行本カバーのデルウハは、
全てあなたの方を見ていることに。

―――最終12巻、作者あとがきより

………………えっ?

 


 

とりとめもなく書き続けていたら1万字に届きそうな量になってしまった!アホか!
やっぱ書いてるとあれもこれもと継ぎ足したくなるし、まとまりをつけるのも難しいし、自分の書いたことに自分で引きずられもする。たぶんこれを書く前と書いた後じゃ、作品を読んだ時の感想もちょっと変わってしまっているんだろうな。
まっさらな気持ちで作品と向き合うことは、現実的には難しい。どうしても人生経験から生まれたバイアスが、自分で作ったバイアスが影響してくる。
自分の文章を読み返してると、なんか俺は当たり前のことをひたすら回りくどく書いてるだけなんじゃないかって気もしてくるしな~~。
それでもまあ、「好き」を形にしないわけにはいかんのだ。
した方が楽しいからね。

さて、デルウハ殿DLCでも読むか。
六内先生の次回作を、心待ちにしながら……


DLC読了。
「うまそう」に「カロリーが高そう」とかいうルビを振るやつ初めて見た!
某キャラの「苦手な食べ物:食べ物」以来の衝撃だ。飯を食う喜びをなんだと思っとるんだこいつらは。
しかしまあこの某キャラ……このスケートでしか生きられない怪物も、どっか人間離れしたキャラだった。
なんとまあ、一貫性のある話だ……


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