【休日の過ごし方】スーパー銭湯で9時間過ごす
土曜の朝6時過ぎ、自宅のソファの上でぱっと目が覚めた。
金曜の夜、22時頃に仕事から帰ってきて、軽くごはんを食べながらお酒も一杯だけ飲んで、Netflixで懐かしのドラマ「人にやさしく」をなぜか観始めてしまったところまでは覚えている。そのまま寝落ちしてしまったのだ。
洗い物してシャワーを浴びて、と頭で考えていたら、ふと「朝風呂」という単語が頭に浮かんだ。寒くなってきたし、どうせなら湯船に浸かりたい。
「そうだ、スーパー銭湯に行こう」
調べたところ、その銭湯は朝早い時間は料金も少し安くなるらしい。それはもう行くしかないではないか。
銭湯から帰ってきた自分のために洗い物だけして、一応着替えはしたがメイクはそのままで、歯だけは念入りにフロスも歯磨きもマウスウォッシュもして、着替えと簡単なスキンケア用品だけ持って家を出た。
最近、週末は昼間まで思うさま寝ているので、土曜の早朝の世界は久しぶりである。王様のブランチだってまだ始まっていない時間に外にいるなんて(昨日のメイクを残したままでシャワーも浴びていない薄汚れた状態とはいえ)。
スーパー銭湯に着き、土足禁止のところを知らずに靴で歩いてしまって早速注意されるなどありつつ、無事に受付を済ませた。勢いで岩盤浴のチケットも買った。
ところで、そのスーパー銭湯はシステム化されていてとても便利であった。下足ロッカーの鍵をかざせば館内の自販機や食事処の会計を帰るときにまとめて精算できるのである。おかげで貴重品を持ち歩く必要がなく、身軽でいられた。
さてまずは人もまばらのお風呂である。入湯の前に頭からつま先まで洗い、さっぱりしたところで湯につかる。全体的に40℃以下の熱すぎないお湯が多く、数分の間にいろいろな湯へ移動した。個人的には露天風呂の泡風呂とつぼ湯が好みであった。ある湯で、頭を湯船の淵にもたせかけて、タオルを目の上に置いている方を見かけて、あれいいな、と思い自分もつぼ湯でそれを真似した。お湯がちょぽちょぽと流れる音を聞きながら、温かいタオルで目をほぐす。こんなにリラックスできる体験が身近にあるとは、と思い嬉しくなった。
その銭湯には塩サウナもあった。塩だけでなく顔をパックするための何かのペースト(なんだったんだろう、よく分からずとりあえず手に取ってしまった)も入口に盛ってあり、それをひとすくいしてサウナに入った。
すると、私以外にサウナにいた2名は塩派で、しきりに塩を身体にこすりつけている。私だけ白いペーストをぺたぺたと顔に塗っていた。サウナの中は蒸気でもうもうとしていてよく見えないだろうが、私の顔はいまどういう状態なのだろうと気になって仕方がなかった。
サウナを出て、身体を水で流し、一旦脱衣所へ。次は岩盤浴である。よく考えたら岩盤浴は初めてであった。作法が外国人並みに分からない。どれくらい汗をかくのだろうか。とりあえず、受付で渡されていた作務衣みたいな服に着替えた。そのあと髪は乾かしたが、スキンケアはしたところで汗まみれになったら意味ないな、と思い肌断食状態である。スマホなど貴重品はすべて脱衣所のロッカーに預けて、受付でもらっていた大判のタオルだけ小脇に抱えて岩盤浴へ向かった。ワイルドである。
岩盤浴エリアに行くと、いくつも岩盤浴の部屋があり、部屋の温度もいろいろだった。面白かったのは、メガネ専用の小さいロッカーと、自分の飲み物を預けておく冷蔵庫があったことである。冷蔵庫には自分のペットボトルがわかるように、みんなキャップにペンで目印を描いていた。

キャップに名前や絵を描いて外の冷蔵庫に預けておく。
記念すべき一発目の岩盤浴は比較的低温で、スマホや本の持ち込みが許可されていた。入るなり周りを真似して、持っていたタオルを敷き、硬い枕のようなものに頭を置いて横になる。薄暗くて、どこからか寝息が聞こえる。この状況で眠れるのすごいな、と思いながら、自分も目をつぶってみる。しばらくすると、背中や首の後ろにじんわり汗をかいていた。
なんとなく汗をかいたらゴールな気がして、ばっと起き上がって部屋を出た。部屋の外との温度差が気持ちいい。韓国のチムジルバンを思い出す。と書いたところで、あ、あれも岩盤浴か・・・?と思い、一旦noteを閉じてチムジルバンと岩盤浴の違いを調べてみた。
そもそもチムジルバンは日本でいうスーパー銭湯や健康ランドなどの施設そのものを指し、そこによくあるサウナ的なやつは「汗蒸幕(はんじゅんまく)」というらしい。岩盤浴との違いは主に低温か高音かで、岩盤浴が低温でゆっくり汗をかくのに対し、汗蒸幕は高音でいっきに大量の汗をかく。
あとは、岩盤浴は床に温かい石が敷かれているが、汗蒸幕は部屋自体に石が積まれていて、その石が出す遠赤外線によって高音になるとのことだった。
次はもう少し温度が高めの部屋へ。そこは石がそのまま敷かれている場所にタオルを敷いて横になる。やっぱりこの石はすごく熱いのかな、と思い少し触れてみたが、熱かった。うっかりタオルを敷く前に石の中に足を踏み入れてしまったら大変である。
一発目とは違い、横になるとすぐに汗をかいた。銭湯とサウナと一発目の岩盤浴のコンボにより急激に新陳代謝が良くなったせいもあるかもしれない。結構熱かったがそれでもどこからか寝息が聞こえてきて、この状況で眠れるのすごいなと思いつつ(2回目)、こんなに熱いなか寝て脱水症状にならないか心配になった。
そこは部屋自体も広いが天井も高く、例によって薄暗かった。スマホも持ち込めないし、身一つでやることがない。ただ非日常の天井を眺めて、少し旅行に来た気分を味わえたのだった。
部屋を出ると、思ったより汗をかいていて驚いた。大きな窓がある部屋に移動し、外気を感じながら長椅子に腰掛けて、汗がひくまで少しの間目をつぶった。
銭湯、岩盤浴とはしごして、ちょうどお昼どきでお腹が空き、併設されている食事処で定食を食べた。お腹が満たされたところで、もう一度銭湯に戻り、お気に入りのつぼ湯と塩サウナに入り、脱衣所に戻ったあと今度こそちゃんとメイクをした。なんだかメイクのりが良い気がした。
そのスーパー銭湯にはもうひとつ、漫画や雑誌、本、テレビなどがあるラウンジエリアもあり、最後にそこを訪れた。漫画を読もうと思い、懐かしの「赤ちゃんと僕」や「フルーツバスケット」など気になったが、なぜか手に取ったのは紡木たくの「瞬きもせず」であった。紡木たくといえば、世代ではないものの、中学生のときに「ホットロード」を読んだことがあった。
とりあえず1巻と2巻を取り、席を探す。ほどよい混み具合である。みんなリラックスして家のようにくつろいでいる。良さげなソファ席を見つけ、早速ページをめくる。地方の田舎を舞台に、女子高生がサッカー少年の同級生の男の子に突然告白され、物語がはじまる。田舎暮らしの窮屈さに嫌気がさしたり、家族や学校のことで悩んだりしながら、その男の子と気持ちが通ったりすれ違ったりして月日が流れていく。
ザ・少女漫画を読むのはすごく久しぶりだった。なんというか、ちょっと前まではまだ、自分の学生時代を思い出しながら懐かしい気持ちで読めていた気がするのだが、もうすっかり別世界、別次元のフィクションに思えてしまった。それくらい、学生生活というものがもう、私の中では遠い記憶になっているようだった。
それなのに、いやそれだからか、なんだかページをめくる手が止まらなかった。それほどのめり込んでいる感覚はないのに、手が止まらない。スマホを持ち込んでいないから、いま私にはこの漫画を読むことしかやることがないと思うと、漫画と自分が一対一になったような変な感覚になり、結局4巻までぶっ通しで読み続けてしまった。
そんなことをしていたらいつの間にか17時になっていた。驚くことなかれ、朝8時から17時、およそ平日の勤務時間くらい、そのスーパー銭湯に居てしまったのである。
帰る頃にはすっかり暗くなっていて、その銭湯を出たとき、ちょっと千と千尋感あるな、と思った。スーパー銭湯は、ちょっとした異空間のようだ。帰り道、久しぶりにスマホの画面ロックを解いて、スマホがない世界でもあったんだな、としみじみ思う。もしかしたらそれこそが、異世界に没頭できる鍵なのかもしれない。
