きつねの恩返し
春の夜、おじいさんは竹やぶのそばで、小さなきつねを見つけた。
前足に木の枝が絡まり、月明かりの下で困ったように鳴いていた。
「おやおや、大変じゃったな」
おじいさんは枝を外し、家へ連れて帰った。
囲炉裏のそばで休ませ、あたたかい汁を少し分けてやると、きつねは嬉しそうに尻尾を揺らした。
次の朝、きつねの姿は消えていた。
そのかわり、縁側には小さな包みが置かれていた。
中には、たけのこと山菜、それに一通の手紙。
『助けてくれて、ありがとうございました』
それから毎朝、不思議なことが起きた。
庭には見たことのない花が咲き、畑の野菜はいつもより元気に育ち、竹やぶにはたくさんのたけのこが顔を出していた。
ある晩、おじいさんが障子を開けると、月明かりの庭に、あのきつねが立っていた。
前足には、小さな桜の枝。
きつねは恥ずかしそうに耳を伏せ、それから、ぺこりと頭を下げた。
おじいさんは笑って言った。
「きつねの恩返しというのは、宝物を持ってくることじゃないんじゃな」
きつねは小さく鳴いて、桜の枝を縁側に置いた。
春の風が吹くたび、枝先の花びらが揺れる。
その夜から、おじいさんの家には、少しだけ優しい春が長く留まるようになった。
片桐みかんさんのお題に参加させて頂きました🍊👇️✨️
