狼の守り人
村のはずれに、小さな森がある。
夜になると狼が出ると言われていて、満月の夜には誰も近づかない。
けれど私は知っている。
本当にそこに立っているのは、狼ではない。
月が高く昇るころ、森の入り口に一人の人が現れる。
暗い外套をまとい、狼と同じ色の目をした人。
村ではいつしか、その人を「狼の守り人」と呼ぶようになった。
昔、この森は人の手で傷つけられた。
木は伐られ、火が入り、
狼たちは居場所を失った。
それでも、逃げなかったものがいた。
森の奥に身を潜め、
ただ、そこに生き続けた狼たちだ。
守り人は、
逃げなかった狼たちのそばに立った。
それでも守り人は、
人の側にも、狼の側にもつかなかった。
私が一歩踏み出すと、
守り人は静かに言った。
「近づくな」
声に怒りはなかった。
ただ、揺るがない意志だけがあった。
満月の光の下、
狼たちは牙を見せず、
彼の背後で静かに息をしている。
私は少し迷ってから、聞いた。
「あなたは、何を守っているのですか」
守り人は、一瞬だけ月を見上げた。
「狼を、ですか」
「それとも、人を」
そう続けると、
彼は静かに首を横に振った。
「どちらでもない」
「選ばれなかったものを、守っている」
その夜を境に、
村で狼の噂が語られることはなくなった。
森は変わらず、
月も変わらず、
守り人は今も境界に立っている。
人が忘れてしまったものを、
静かに守るために。
最後まで読んでくださりありがとうございます🙏✨️
こちらのお題に参加させていただきました🌷
久しぶりの参加になります☺️✨
