あのドラゴンの名前を、まだ誰も知らない
ー 星をこぼしながら飛ぶ竜 ー
この町では、ときどき夜空を見上げる人がいる。
流れ星を探しているわけでも、
月を眺めているわけでもない。
ただ――
あの竜を見るためだ。
深い夜になると、
空のどこかで星がほどける。
けれどそれは、落ちてくる星じゃない。
夜空をゆっくり泳ぐ、
ひとつの影。
ドラゴンだ。
大きな翼をひろげ、
三日月のそばを静かに通り過ぎていく。
その尾からこぼれる光は、
星くずのようにやさしく輝いていた。
町の灯りが川に映るころ、
竜はいつも現れる。
まるで、この町を
そっと見守るみたいに。
ずっと昔、
この竜には名前があったらしい。
まだここが村だったころ
人々が、
夜空を飛ぶその姿を見て、
とても綺麗な名前をつけたのだという。
でも長い時間のあいだに、
その名前を知る人はいなくなった。
今では、
誰も覚えていない。
夜更け。
ひとりの女の子が窓を開けて、空を見上げた。
「あ」
三日月のそばを、
きらきらと光る尾をひく竜が飛んでいる。
女の子は少し考えてから、
小さな声で言った。
「名前がないなら」
「わたしが、つけてあげるね」
そして、夜空に向かって笑う。
「きみは――星の竜」
そのとき、
竜の尾がふわりと光った。
星くずがひとつ、
夜の空にこぼれる。
それはまるで、
遠い空からの小さな返事みたいだった。
だから今夜も、
竜は空を飛んでいる。
三日月のそばを通りながら、
静かに星をこぼして。
誰も知らない名前を胸に、
夜をきらめかせながら。

片桐みかん🍊さんの
こちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
