川から流されてきた不思議の箱
むかしむかし、ある村のはずれに、小さな川が流れておりました。
春になると雪どけ水が流れこんで、さらさらとやさしい音を立てる川でした。
その川で、毎日あそんでいる女の子がいました。
ある日のこと。
女の子が川辺で石をひろっていると、上の方から、ころころと小さな箱が流れてきました。
「まあ、かわいい箱」
手のひらにのせると、木でできたその箱は、ほんのりあたたかくて、まるで生きているみたいでした。
ふたには、鍵もなにもついていません。
けれど女の子がそっとなでると、ふわりと箱がひらきました。
「わあ…」
中には、小さな光がひとつ、ゆらゆらと浮かんでいました。
それは、まるで小さな空のかけらのようで、のぞきこむと、不思議な景色が見えます。
夕焼けの道。
風にゆれる草。
誰かの笑い声。
女の子は首をかしげました。
「これ、だれの思い出かしら?」
そのとき、どこからともなく、やさしい声が聞こえました。
「それはね、“川から流されてきた不思議の箱”と呼ばれているものだよ」
ふりかえると、小さな白い鳥が、近くの枝にとまっていました。
「人はね、ときどき大事なものを、うっかり流してしまうんだ」
「かなしいことも、たのしいことも、どちらもね」
女の子は、もういちど箱の中をのぞきました。
光はゆっくりゆれて、まるで「ここにいるよ」と言っているみたいです。
「じゃあ、これ…もって帰っていいの?」
そうたずねると、白い鳥は、ふるふると首をふりました。
「もって帰ることもできるけれど、ほんとうはね」
「ひつようなときに、思い出せるように、あずけてあるんだよ」
女の子は、しばらく考えました。
そして、にっこり笑って言いました。
「じゃあ、このままにしておく」
「だって、その人が、また思い出したくなったときに、なくなってたらこまるもの」
白い鳥は、うれしそうに羽をゆらしました。
「やさしい子だね」
女の子はそっと箱を閉じて、もとの川に返しました。
箱は、ころころと流れていき、やがてきらきら光る水の中に消えていきました。
それからというもの。
その川には、ときどき小さな箱が流れてくるようになったそうです。
それはきっと、だれかの大切な“わすれもの”。
川は今日も、そっとそれをあずかって、やさしく流しているのでした。
片桐みかんさんのこちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
