会いたい人には、会えるうちに①旅立ち編ー「また今度」を少し減らして生きていきたいと思った
旅は、飛行機に乗る前から始まっている
―娘が選んでくれた服と、空港で過ごす静かな時間
搭乗までの時間。
飛び立っていく飛行機を眺めながら、コーヒーを片手に本を読む。
空港で過ごすこの静かな時間が、私は好きだ。
ページをめくる合間にふと顔を上げると、 大きな機体がゆっくり滑走路へ向かい、 轟音とともに空へ飛び立っていく。
その姿を見ていると、
日常から心が解放されて、呼吸が深くなっていく。
自分の中の空気まで旅へ向かっていく気がする。
これから始まる旅。
初めて会う夫の友人ご夫妻。
久しぶりに再会する親戚、実家。
地元で長く付き合いのある親友たち。
どんな話をして、
どんな笑い声が生まれるのだろう。
久しぶりに訪れる場所。
土地の空気。
その土地の言葉。
その土地ならではの食卓。
想像するだけで胸が高鳴ってくる。
旅は、飛行機に乗る前から、
もう始まっているのかもしれない。
機内でいただいたのは、
北海道日高産の根昆布と鰹節のスープ。
ひと口飲むと、
滋味深い旨みが身体の奥まで沁みていくよう。
慌ただしかった日常が少し遠のき、
気持ちまでゆるんでいくようだった。
旅先へ向かう途中で、
こんなふうにほっとできる時間があるだけで、 非日常へスイッチが切り替わる。
今日の服は、娘が選んでくれたものだ。
ラフだけれど、カジュアルすぎない。
少しだけおしゃれをして、
アクセサリーもいくつか身につけてみた。
最近、娘は私のおしゃれの相談相手になっている。
服やメイク、髪型まで、
「こっちの方が似合うよ」
「こういうのも着てみたら?」と、
楽しそうにアドバイスしてくれる。
娘は今や、私のパーソナルスタイリストだ。
大人になった娘に、
いつの間にか私の方が背中を押されている。
娘に選んでもらった服に袖を通した朝、 鏡の前で少し照れくさい気持ちになった。
こういう服は自分では選ばなかったな。
買った直後は娘に譲ろうと思っていたが、その朝は、なぜか着てみようと思った。
「こんな服も着こなせるのかもしれない」と思えて、少し嬉しかった。
年齢を重ねると、
なにが自分に似合うのかわからなくなり、
いつしか無難なものばかり選びがちになる。
目立たないように。
周りから浮かないように。
でも、娘が選んでくれた服を着ていると、まだ知らない自分に出会える気がした。
少し背筋が伸び、
なんだか心まで軽やかになって、
旅への高揚感がさらに増していく。
いつもの仕事服とは違う、
少しだけ新しい私。
空港の窓の向こうには、
次々と飛び立っていく飛行機。
その景色を眺めながら、
私もまた、少しだけ新しい自分へ向かっている気がした。
会いたい人には会えるうちに(帰省旅)シリーズ
