関税が引き直す、生産の地図
世界のゴルフカートの多くが、実は中国製だということはあまり知られていない。2024年に中国が輸出したゴルフカート類は約28万台、金額にしておよそ10億ドル。そのうち8割超がアメリカ向けだ。競技人口の薄い国が、世界最大のゴルフ市場を静かに支えていた。
その構図が、いま音を立てて組み替えられている。米商務省が中国製の低速車両にかけた反ダンピング関税は、最大で478%。一部の企業には515%という数字も並ぶ。もはや「割高になる」という話ではなく、「輸出という選択肢が消える」という水準だ。
反応は速かった。ある中国メーカーはテキサスに新工場を稼働させ、別の一社は生産の8割を米国内へ移すという。興味深いのは、その移転が単純な「中国からアメリカへ」ではないことだ。部品はまずベトナムに寄り道し、最終組み立てだけをテキサスで行う。ベトナムは今後二年ほどは安全地帯だが、いずれ次の標的になる——当事者たちはそこまで織り込んで動いている。
関税とは本来、価格をいじる道具だ。だがここで起きているのは、価格ではなく地図の書き換えである。どこで作るかを決めるのが、もはやコスト効率ではなく国境線になっている。効率を最適解としてきた四半世紀のグローバル化が、政治的な境界を軸に再編されはじめている。
ゴルフカートという小さな乗り物は、その縮図としてよくできている。ニッチな製品ほど、かかる力が単純で、構造が透けて見えるからだ。
では、次に「地図を引き直される」のはどの産業だろうか。そして二年後、安全地帯だったはずのベトナムが標的になったとき、生産ラインはまた次のどこかへ移っていくのだろうか。
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