見出し画像

うつろいの岸辺にて

風が変わった。
かつては季節を運んでいた風が、
今は喧騒と焦燥を巻き上げてゆく。

街の灯は眠らず、
言葉は速く、浅く、
心は置き去りにされたまま、
誰もが何かを追い、何かを失っている。

それでも、ふとした瞬間に、
雨の匂いに懐かしさを覚え、
落ち葉の舞いに胸が疼くのはなぜだろう。
それは、忘れられぬ「もののあはれ」。
移ろいゆくものにこそ、
命の深さと、哀しみの美が宿ることを
私たちの奥底は知っている。

変わりゆく世の中で、
変えてはならぬものがある。
それは、感じる力。
それは、静かに涙する心。
あはれとは、弱さではない。

あはれとは、強さのかたち。
壊れやすきものを、壊さぬように抱く手のぬくもり。
それが、私たちの誇りだったはずだ。

今、再び問う。
この風の中で、私は何を守るのか。
この光の速さの中で、私は何を見つめるのか。

答えは、沈黙の中にある。
そして、あはれの中にある。


いいなと思ったら応援しよう!

嘉藤恵 よろしければ応援お願いします!