2026年3月13日詳解③:AIは多職種連携教育をどう変えるか
皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年3月13日ー医療現場における多職種連携教育のエビデンス基盤の現状と限界の詳解③:AIは多職種連携教育をどう変えるかについてです。
1. なぜこの知見が重要か
生成AI(Generative AI)と拡張現実(XR)技術の急速な発展は、医学教育のあらゆる領域に変革をもたらしつつあります。ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)の登場以降、試験問題の自動生成、パーソナライズドラーニング、臨床推論の支援といった応用が急速に拡大しています。しかし、これらのAI技術が多職種連携教育(IPE)と多職種連携実践(IPCP)——すなわち、チームとしてのコミュニケーション、役割明確化、協働リーダーシップ、関係性重視のケアといった、本質的に「人と人の間」で生じる現象——にどのような影響を与え得るかについては、体系的な知見の蓄積が始まったばかりです。AI技術は個人の学習を効率化する能力に長けている一方、IPEが本質的に求める「異なる専門性を持つ人間同士の対話的学び」にどこまで貢献できるかは、根本的に異なる問いです。Huらの2025年のスコーピングレビューは、カナダ多職種連携健康コラボレーティブ(CIHC)のコンピテンシーフレームワークをレンズとして用い、AI技術がIPECPの各コンピテンシーをどの程度支援し得るかを初めて体系的に検証した研究です。AIがIPEの「何を」変え得るか、そしてより重要なのは「何を変えられないか」——この問いに向き合うことが、テクノロジー楽観主義に流されない教育設計の基盤となります。
2. 論文の深掘り分析
2-1. テーマの現在地:従来の標準的理解
AIの医学教育への応用に関する議論は、近年爆発的に増加しています。2025年のKorean Journal of Medical Educationの特集号では、Jungらが生成AIの「新しい波」が医学教育全体を変容させつつあることを概観し、Burbageらは生成AIが閾値概念(Threshold Concepts)の理解を促進する教育的ツールとして機能し得ることを実証しています。Guirguisらの2026年の質的研究では、オタワ大学の10の医療専門職課程の学生51名を対象に、ChatGPTが最も多用されるAIツールであり、知識獲得、スキル開発、文章作成、問題解決を支援する補助的ツールとして知覚されていることが報告されています。
しかし、これらの研究の大半は「個人の学習」に焦点を当てており、AIが「チームとしての学び」——すなわちIPEの核心——にいかに貢献し得るかという問いは、ほとんど未踏の領域でした。IPEの文脈におけるAIの体系的検討は、Huらのレビューが登場するまで、事実上空白だったと言っても過言ではありません。先行するSharmaらの2022年のスコーピングレビューは、AIの医療実践への導入に関する45件の研究を統合しましたが、IPECPへの応用は明示的に検討されておらず、信頼構築や協働といったチームワーク固有の要素は分析の枠外に置かれていました。同レビューは、AIモデルの多くがシンボリック型またはナレッジベース型であり、エンコードされた知識に依存するモデルの限界を指摘しています。
VR(Virtual Reality)技術についてはIPEへの応用研究が先行しており、VRシミュレーションが多職種間のコミュニケーションスキルや協働的臨床推論の発達を支援し得ることが複数のメタアナリシスで示されています。Gurayaらの2024年のBMC Medical Education誌のレビューは、VR、AR(Augmented Reality)、AIを統合したシミュレーションプラットフォームがIPCを促進する可能性を包括的に論じ、「専門職のサイロ」「ステレオタイプ」「官僚的慣性」がIPCのシミュレーションへの統合を妨げる主要障壁であることを指摘しています。しかし、VR技術のスケーラビリティの制約(コスト、技術的障害、サイバー酔い、対面コミュニケーションの喪失)は繰り返し指摘されており、これらの限界を克服するためにAIをVRに統合するという方向性が浮上してきたのが、2024〜2025年の新しい潮流です。
2-2. 新たな知見:この報告が付け加えたこと
Huらのスコーピングレビューは、2010年以降に発表された15件の研究を、CIHCコンピテンシーフレームワークの4つの領域——チームコミュニケーション、関係性重視のケア(Relationship-focused Care)、役割明確化(Role Clarification)、協働リーダーシップ(Collaborative Leadership)——に基づいて分析しました。同定されたAI応用は、VRシミュレーション、臨床意思決定支援システム(CDSS)、機械学習アルゴリズムの3カテゴリーに大別されます。
AI技術がIPECPコンピテンシーに貢献し得ると報告された領域は、以下の通りです。チームコミュニケーションに関しては、AIがリアルタイムのデータ統合とエビデンスに基づく推奨を提供することで、多職種チーム間の情報共有を促進し、コミュニケーションの一貫性を向上させる可能性が示されています。関係性重視のケアについては、AIが個別化された治療計画の生成を支援することで、患者中心のケアを促進するツールとして機能し得ることが示唆されています。役割明確化に関しては、CDSSが各職種の専門的判断を可視化し、チーム内での役割理解を促進する可能性が指摘されています。協働リーダーシップについては、AIがエビデンスの統合と意思決定支援を担うことで、特定の職種に依存しない「データ駆動型」の意思決定を促進し、リーダーシップの分散化に寄与し得ることが論じられています。
しかし同時に、Huらはいくつかの重要な障壁も同定しています。最も顕著なのは臨床者の不信感(Clinician Mistrust)です。AIの「ブラックボックス」的性質——すなわち、なぜその推奨が導出されたかの説明可能性の欠如——は、臨床的意思決定においてチームメンバーの信頼を得ることを困難にします。データセキュリティへの懸念も重大であり、多職種間のデータ共有がAIの効果を最大化する上で不可欠である一方、プライバシー保護との両立は解決されていません。さらに、AIを既存の医療インフラストラクチャーに統合することの技術的困難も報告されています。
この文脈で注目すべきは、Wangらが2025年にarXivにプレプリントとして発表したAIMS(AI-enhanced Immersive Multidisciplinary Simulations)プロジェクトです。AIMSは大規模言語モデル(Gemini-2.5-Flash)、Unity基盤の仮想環境エンジン、キャラクター作成パイプラインを統合し、薬学・医学・看護学・ソーシャルワークの学生が仮想患者とマルチモーダルでリアルタイムに対話できるシミュレーションを実現しています。このプロジェクトはIPECコンピテンシー(チームワーク、コミュニケーション、役割と責任、価値観と倫理)に明示的にアラインされており、AIとVRの統合がIPEの「スケーラビリティとコスト」の課題にどこまで応えられるかを実験的に検証する試みとして、領域の最前線に位置しています。従来の模擬患者(SP)を用いたIPEでは、SPの雇用・訓練コストが繰り返し練習の機会を制限する構造的障壁でしたが、AI仮想患者はこの制約を原理的に解消し得ます。しかし同時に、対面での人間的相互作用がもたらす「予測不可能性」と「感情的深み」をAIがどこまで再現できるかは、未解決の根本的課題です。
Elshamiらの2025年のナラティブレビューは、AI駆動型VRシミュレーションの最新動向を包括的に分析し、AIがリアルタイムでチームインタラクションを分析し、チームの集団的パフォーマンスに応じてシミュレーションの複雑さを動的に調整する「適応型チームシミュレーション」の概念を紹介しています。この技術は、静的なチームシナリオを超えて、学習者がチームとしての適応的問題解決能力と多職種間の応答性を有機的に磨くことを可能にするものであり、従来のシミュレーションでは困難であった「チーム・ダイナミクスの動的評価」への道を開く可能性があります。
2-3. 批判的吟味:研究デザイン妥当性、バイアス、残るギャップ
Huらのレビューにはいくつかの重要な限界があります。第一に、包含された15件の研究のうち、IPECPコンピテンシーに明示的にアラインされた研究は少数であり、レビュワーがCIHCフレームワークへの対応関係を事後的に解釈した側面が強いと考えられます。つまり、一次研究がIPECPを意図的に標的としたわけではなく、AI技術の効果が「IPECPコンピテンシーの向上」として読み替えられた可能性があります。こうした事後的マッピングは、コンピテンシーとAI応用の関係を過度に楽観的に描出するリスクを伴うため、この解釈の妥当性には慎重な検討が必要です。
第二に、15件という包含研究数は、スコーピングレビューとしても比較的小規模であり、AI×IPECPという交差領域のエビデンス基盤がいかに薄いかを如実に示しています。多くの研究がパイロットスタディまたは概念実証段階にあり、長期的なアウトカム評価やRCTに基づく効果検証はほぼ皆無です。2010年以降を検索対象としている点も、生成AI以前の技術(ルールベースCDSS、初期のVR)と生成AI時代の技術を区別なく統合しており、技術世代間の質的差異が十分に考慮されていない懸念があります。
第三に、「AIがIPECPコンピテンシーを支援する」という知見の大部分は、AI技術が「正しく機能した場合」の理想的シナリオに基づいています。しかし現実には、AIのハルシネーション(幻覚的出力)、バイアスの再生産、予期しないエラーが不可避であり、これらが多職種チームの意思決定にどのような影響を与えるかは検討されていません。Zahnらの2026年のAI駆動型試験問題生成研究では、LLMが生成した565問のうち87%がNBME基準を満たしましたが、逆に言えば13%が基準不適合であり、教員による検証なしには教育現場に投入できない品質であったことを意味します。IPEの文脈——複数職種の学習者が同時に関与するシミュレーション——では、AIエラーの影響が個人学習の場合よりも増幅される可能性があります。たとえば、AIが生成した誤った臨床推奨にチームが無批判に従った場合、その経験は「誤った協働」のモデルとして学習者に内面化されるリスクがあるのです。特に、AIが誤った推奨を出力した際に、チーム内の誰がそれを検出し、是正する役割を担うのかという「エラー検出のガバナンス」の問題は、IPECPの文脈において極めて重要でありながら、ほとんど研究されていません。
Gheihmanらの2026年のClinical Teacher誌論文は、「Educator-in-the-Loop(教育者がループの中にいること)」の概念を提唱し、生成AIの医療専門職教育への統合において、AIの出力を批判的に評価する教育者の役割が不可欠であることを強調しています。この概念は、AI×IPEの文脈においても中核的な重要性を持ちます。AIが多職種チームの意思決定を支援する場合、チームメンバー全員がAI出力を批判的に評価する「AIリテラシー」を共有している必要があり、このリテラシーの教育自体がIPEの新たなコンテンツとなるべきです。
2-4. 探求すべき問いと視点
Huらのレビューが喚起する最も根本的な問いは、「AIはIPEの代替なのか、補完なのか、それとも根本的に異なる何かなのか」というものです。現在のAI応用の大部分は、既存のIPEの枠組み(シミュレーション、CDSS、VR)にAI技術を「追加」するという増分的アプローチに留まっています。しかし、生成AIが持つ変革的ポテンシャル——すなわち、自然言語での動的対話、リアルタイムの適応、パーソナライズされたフィードバックの生成——は、IPEの方法論そのものを再定義する可能性を秘めています。
AIMSプロジェクトはこの方向性の先駆的な例ですが、重要な問いが残されています。AI仮想患者との対話が「多職種チームワーク」を本当に育成し得るのか、あるいはそれは個人のスキル訓練に過ぎないのかという問いです。チームワークの本質は「予測不可能な他者との関係性の中で機能する能力」にあり、AIの応答パターンがどれほど高度化しても、その「予測不可能性」には本質的な限界があります。生成AIは統計的パターンに基づいて応答を生成するため、人間の感情的反応や文化的背景に根差した微妙なコミュニケーションの揺らぎを完全に再現することは原理的に困難です。この限界は、AIをIPEの「唯一の」シミュレーション手段とすることへの重大な留保を意味します。
Coleらの2026年の軍医教育におけるAIコンピテンシーフレームワークは、AIリテラシーを既存の医学教育コンピテンシードメイン(患者ケア、システム基盤型実践、コミュニケーション、プロフェッショナリズム等)に横断的に埋め込むという「統合的アプローチ」を提案しています。このアプローチは、AIを独立したトピックとしてではなく、すべてのコンピテンシー領域に浸透する横断的スキルとして位置づけるものであり、IPEの文脈への応用可能性が高いと言えます。すなわち、AIリテラシーをIPECのコアコンピテンシー(価値観と倫理、役割と責任、コミュニケーション、チームワーク)のそれぞれに組み込むという設計原理が考えられます。
3. 臨床的思考の深化と再構築
3-1. 既存知識との衝突と融合
IPEの理論的基盤——社会構成主義、状況学習理論、正統的周辺参加——は、いずれも「人と人の間の相互作用」を学習の本質と位置づけています。Wengerの実践共同体(Community of Practice)の概念に照らせば、IPEは異なる実践共同体の境界を越えて共に意味を構築するプロセスであり、この「境界越え」にAIがどのように介在し得るかは、理論的に興味深い問いです。この視点からすれば、AIは学習の「促進者」にはなり得ても、学習の「場」そのものにはなり得ません。しかし、Huらのレビューが示すように、AIがチームコミュニケーションの質を向上させ、情報の非対称性を減少させることで、人と人の間の相互作用の「質」を向上させる可能性は十分にあります。
ここに興味深い理論的緊張があります。AIが情報の非対称性を解消することは、多職種チームにおける権力構造の一因——「情報を持つ者が権力を持つ」というダイナミクス——を緩和する可能性を持ちます。たとえば、CDSSがすべてのチームメンバーに同じエビデンスを同時に提供する場合、医師が「知識の独占者」として機能するヒエラルキーは相対化されます。レポート2で検討した職種間権力構造の問題に対して、AIが「民主化ツール」として機能し得るという仮説は、理論的に魅力的です。しかし同時に、AIが「新たな権威」として機能し、「AIが言っているから正しい」というAlgorithmic Authority(アルゴリズム的権威)が職種間の批判的対話を抑制するリスクも認識すべきです。この場合、権力の源泉は「医師の専門知識」から「アルゴリズムの出力」へと移行するだけであり、チーム内の批判的思考と建設的な異議申し立ての文化がかえって弱体化する可能性があります。いわゆる「Automation Complacency(自動化への過信)」は航空業界で広く研究されてきた現象ですが、AIが浸透する多職種医療チームにおいても同様のリスクが顕在化し得ます。
Zahnらの2026年のAI駆動型試験問題生成プラットフォームの研究は、AIの教育応用における「Human-in-the-Loop(人間がループの中にいる)」アプローチの重要性を実証しています。565問のUSMLEスタイル問題を生成し、教員の検証を経て87%がNBME基準を満たしたという結果は、AIが高品質なコンテンツを生成する能力を持つ一方で、人間による検証が不可欠であることを示しています。IPEの文脈に翻訳すれば、AIが生成するシミュレーションシナリオやフィードバックは、多職種の教育者チームによる批判的レビューを経て初めて教育的価値を持つということになります。
3-2. 臨床推論の解像度向上
AI×IPEの議論を深化させるために、「AIが得意なこと」と「人間にしかできないこと」の境界線を精密に描く必要があります。AIが得意な領域は、データの統合と可視化(複数の情報源からの臨床データを統合し、チーム全体に提示する)、パターン認識(多職種チームのコミュニケーションパターンを分析し、改善点を指摘する)、スケーラビリティ(多数の学習者に対して個別化されたシミュレーション体験を提供する)、即時フィードバック(学習者のパフォーマンスに対するリアルタイムの形成的フィードバック)です。
一方、「人間にしかできないこと」——少なくとも現時点では——として、感情の共有と共感的応答(チームメンバーの非言語的シグナルを読み取り、適切に応答する)、文脈依存的な判断(患者の価値観、文化的背景、社会的状況を統合した意思決定)、倫理的ジレンマの交渉(チーム内で異なる価値観が衝突した際の建設的な対話)、関係性の構築(信頼、心理的安全性、チーム凝集性の醸成)が挙げられます。
この境界線は固定的なものではなく、AI技術の進歩とともに動的に変化します。しかし、IPEの核心が「関係性の中で学ぶこと」にある以上、AIはどれほど高度化しても、最終的には人間同士の相互作用を支援・増幅するツールとして位置づけられるべきです。この位置づけを明確にすることは、テクノロジー楽観主義——「AIがあれば人間のファシリテーターは不要になる」——に対する重要な防波堤となります。特にIPEのファシリテーションは、複数の職種間の微妙な権力ダイナミクスを察知し、安全な学習環境を維持しながら建設的な対立を促進するという高度に文脈依存的なスキルであり、この能力をAIに代替させることは近い将来においても非現実的です。むしろ、AIはファシリテーターの負担を軽減する補助的役割(たとえば、デブリーフィング前のチームパフォーマンスデータの自動可視化、学習者の進捗追跡、シナリオの動的調整など)を担うことで、ファシリテーターが「人間にしかできない」関係性構築と批判的対話の促進に集中できる環境を整えることが、最も実践的な方向性でしょう。
3-3. エビデンス評価軸の洗練(メタ認知)
AI×IPEのエビデンスを評価する際に、いくつかのメタ認知的視点が必要です。第一に、「革新バイアス(Innovation Bias)」への警戒です。新しい技術は、その新規性自体がポジティブな評価を引き出す傾向があり、特にパイロットスタディでは参加者のエンスージアズムが効果を過大評価させる危険があります。Huらのレビューに含まれる研究の多くがパイロット段階であることを考えると、報告された正の効果は「Novelty Effect(新奇性効果)」の影響を受けている可能性があります。
第二に、「技術的決定論(Technological Determinism)」——すなわち、技術が社会的変化を一方向的に引き起こすという前提——への批判的距離が必要です。AIがIPEを「変える」のではなく、AIがIPEの文脈に「埋め込まれた」ときに何が起こるかという相互作用的視点が重要です。Wiedermannらの2026年のナラティブレビューが指摘するように、AIは人間による監督の「補助」としてのみ有効であり、「代替」として機能することは現段階では期待すべきではありません。この知見は、IPEにおけるファシリテーターの役割がAIによって代替されるのではなく、AIを活用した新たなファシリテーションスキルが求められるようになるという展望を示唆しています。
第三に、公平性(Equity)の視点からの評価が不可欠です。AI技術へのアクセスは地域、施設、経済的資源によって大きく異なり、AI-enabled IPEの導入は教育格差を拡大するリスクを内包しています。先進的なAIシミュレーション環境を整備できる機関とそうでない機関の間のデジタルディバイドは、IPEの「公平なアクセス」という理念と矛盾し得ます。特に低・中所得国においては、AIインフラストラクチャーの整備以前に、基本的なIPEプログラムの確立自体が課題となっている現実があり、AI×IPEの議論がグローバル・ノースの先進国の文脈に偏ることへの警戒が必要です。一方で、Leungらの研究(レポート5で検討予定)が示すように、無料のオンラインプラットフォームを活用した遠隔シミュレーションは、コスト障壁を低下させるポテンシャルも持っています。この二面性を常に意識した評価が求められます。
3-4. 新たな視座の獲得
今回の検討から得られる最も重要な視座は、AI×IPEの議論を「AIがIPEに何をもたらすか」から「IPEがAI時代にどう再定義されるか」へと転換する必要性です。IPECのコアコンピテンシーVersion 3が定義する33のサブコンピテンシーには、AIリテラシーに関する明示的な言及はありません。しかし、AIが臨床実践に浸透する時代において、チームメンバー全員がAI出力を批判的に評価し、AIの限界を認識し、AIエラーを検出・是正する能力を共有することは、チームワークの新たな必須要件となるでしょう。
Coleらが提案する「縦断的AIコンピテンシーフレームワーク」をIPEの文脈に翻訳すれば、以下のような段階的統合が考えられます。初期段階(Pre-clerkship相当)ではAIリテラシーの基盤(AIの原理、限界、倫理的課題の理解)を多職種共通で学び、「AIとは何か、何ができないか」を異なる職種の視点から議論する場を設けます。中間段階(Clerkship相当)ではAIツールを用いた多職種シミュレーション(AI仮想患者、AI支援デブリーフィング、CDSSを組み込んだチーム意思決定演習)を実施し、AI出力を批判的に評価しながら協働的意思決定を行う経験を積みます。後期段階(Post-clerkship相当)ではAIエラーの検出と是正、AIと人間の判断が乖離した場合のチーム内の意思決定プロセスを訓練し、「AIが間違えたとき、チームとしてどう対応するか」を実践的に学ぶという構造です。
この視座は、「AIはIPEのツールである」という従来の位置づけを超えて、「AIリテラシー自体がIPEの新たなコンテンツ領域である」という認識への転換を促します。多職種チームが共に「AIとどう付き合うか」を学ぶことは、それ自体がIPEの実践であり、従来のIPECPコンピテンシー(コミュニケーション、チームワーク、役割明確化)を新たな文脈で再活性化する機会となるのです。たとえば、「AIの推奨と自らの臨床判断が矛盾した場合にチーム内でどのように議論するか」というシナリオは、コミュニケーション、批判的思考、権力構造の交渉、意思決定の共有といった、IPEの核心的コンピテンシーを同時に訓練する理想的な教育機会となり得ます。AI時代のIPEは、AIを「使う」教育であると同時に、AIを「問う」教育でもあるべきなのです。
4. 継続的な探求に向けて
AI×IPEは、技術的可能性と教育的必然性が交差する、きわめて動的な領域です。Huらのスコーピングレビューは、この交差領域の現在地を初めて体系的に描出した点で重要な貢献がありますが、15件の研究という限られたエビデンス基盤は、この領域がいまだ黎明期にあることを物語っています。今後の研究が取り組むべき優先課題として、IPECPコンピテンシーに明示的にアラインされたAI介入のデザインと評価、AIハルシネーションが多職種チームの意思決定に与える影響の検証、AI-enabled IPEの公平性とアクセシビリティの評価、そして「AIリテラシー」をIPECコンピテンシーフレームワークに統合するための理論的・実践的枠組みの開発が挙げられます。特に、AIが生成するフィードバックの質とバイアスに関する検証は喫緊の課題であり、多職種教育者チームによる「Educator-in-the-Loop」型の品質保証体制の構築が不可欠です。テクノロジーの進歩は速いですが、教育の本質——人が人から学び、人と共に成長すること——は変わりません。AIはこの本質を支援する強力なツールですが、それ以上でもそれ以下でもないという冷静な認識が、今後の道筋を照らす羅針盤となるでしょう。
References
Hu L, Argus G, Pineda RC, MacAskill W, Martin P. The role of artificial intelligence in enhancing interprofessional education and collaborative practice: a mixed methods scoping review. J Interprof Care. 2025;40(2):390-399. https://doi.org/10.1080/13561820.2025.2576241
Wang R, Lu J, et al. Designing and evaluating an AI-enhanced immersive multidisciplinary simulation (AIMS) for interprofessional education. arXiv preprint. 2025. https://arxiv.org/abs/2510.08891
Gheihman G, Li H, Csaba G, Bacchi S, Huth K, Wolbrink TA. The educator-in-the-loop: Intentional integration of generative artificial intelligence in health professions education. Clin Teach. 2026;23(1):e70324. https://doi.org/10.1111/tct.70324
Guirguis M, Fotsing S, Fevry J, Landry C, Bouchard-Lamothe D, Lacroix J, et al. Artificial intelligence in health professions education: A qualitative study of student experiences. J Med Internet Res. 2026 Feb 27. https://doi.org/10.2196/82432
Zahn A, Overla S, Lowrie DJ, Zhou CY, Santen SA, Zheng W, et al. An artificial intelligence-driven platform for practice question generation. Acad Med. 2026;101(3):279-283. https://doi.org/10.1093/acamed/wvaf074
Cole R, Peacock JG, Samuel A, Cole J, Duncan J. Embedding artificial intelligence competencies in military medical education: A longitudinal framework. Mil Med. 2026 Feb 27. https://doi.org/10.1093/milmed/usag068
Burbage A, Styron JL. Crossing the theory threshold: the pedagogical potential of generative artificial intelligence in educational research. Korean J Med Educ. 2026;38(1):5-9. https://doi.org/10.3946/kjme.2025.098
Wiedermann CJ, Piccoliori G, Murali P, Pizzini C, Hager von Strobele Prainsack D. Postgraduate general practice training under early clinical responsibility: A narrative review on system-based supervision and the supportive role of artificial intelligence. Healthcare (Basel). 2026;14(4):503. https://doi.org/10.3390/healthcare14040503
Guraya SS, Guraya SY. Transforming simulation in healthcare to enhance interprofessional collaboration leveraging big data analytics and artificial intelligence. BMC Med Educ. 2024;24:950. https://doi.org/10.1186/s12909-024-05916-y
Elshami W, Jawhari H, Alsharif W, Geetha AA, Elsamani Y, Bakhurji F, et al. The combined impact of AI and VR on interdisciplinary learning and patient safety in healthcare education: a narrative review. BMC Med Educ. 2025;25(1):1039. https://doi.org/10.1186/s12909-025-07589-7
Canadian Interprofessional Health Collaborative. A national interprofessional competency framework. Vancouver: CIHC; 2024. https://cihc-cpis.com/wp-content/uploads/2024/06/CIHC-Competency-Framework.pdf
Interprofessional Education Collaborative. IPEC Core Competencies for Interprofessional Collaborative Practice: Version 3. Washington, DC: IPEC; 2023. https://www.ipecollaborative.org/ipec-core-competencies
Jung E, Samuel A. The new wave of generative artificial intelligence in medical education. Korean J Med Educ. 2026;38(1):1-4. https://doi.org/10.3946/kjme.2025.139
終わりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。
本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。
