見出し画像

2026年8月7日詳解②:実践共同体は病院の外にもある——SNS共同体の専門職アイデンティティ形成への影響力

皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年8月7日ーSNS時代のプロフェッショナリズムとデジタル上の足跡の詳解②:実践共同体は病院の外にもある——SNS共同体の専門職アイデンティティ形成への影響力についてです。


Executive Summary

Already Known(従来の理解)

専門職アイデンティティ形成(PIF)は、実践共同体への正統的周辺参加を通じた社会化として理論化されてきました。その舞台は病棟・外来・カンファレンスという物理的な臨床現場に置かれ、指導医・上級医・同僚からの社会的手がかりが学習者の自己認識を形づくると考えられています。近年の研究は、この手がかりが「有能さ」「自分が重要な存在であること」「所属していること」という三領域に整理されることを示しました。学習共同体や新任研修プログラムの設計も、この物理的な共在を前提としています。ソーシャルメディアは補助的な情報流通路、あるいはリスク源として扱われるのが通例です。

What's New(この知見が加えたこと)

2026年に公表された質的研究は、X上の神経内科コミュニティが実質的な実践共同体として機能していたことを記述しました。17施設18名の熱心な利用者への面接から、非階層的で寛容な参加様式、現実世界の業績への転化、そして職業的自己・デジタル上の自己・素の自己の間に生じる摩擦という4主題が抽出されました。同じコミュニティの規模を測った分析では、12か月で216,558件の投稿が61,326名から発せられ、1,110万回の閲覧を得ています。参加の山は研修医採用の時期と一致しており、この空間が訓練の周期に同期していることを示します。

So What(だから何が変わるか)

オンライン参加を禁止・抑制の対象とみなす指導は、学習者から施設の階層構造を迂回する成長経路を奪う可能性があります。指導医が扱うべき問いは「投稿してよいか」ではなく「どの共同体に、どの自己として参加するか」に移ります。とりわけ指導医主導の教育が薄い研修環境では、この代替経路の意味が大きくなります。ただし研究群は熱心な利用者のみを対象としており、離脱者の経験は含まれません。燃え尽きとの関連や、日本での利用実態の違いを踏まえた慎重な移行が必要です。


1. テーマの位置づけと意義

医学教育において、専門職アイデンティティ形成は到達目標であると同時に、教育設計の前提でもあります。学習者は臨床現場という実践共同体の周辺から中心へ移動し、その過程で職業的な自己を獲得すると理解されてきました。この理解のもとでは、教育者の仕事は良質な共同体を用意することになります。

2026年に報告された質的研究は、この前提に別の可能性を持ち込みました(1)。X上の神経内科コミュニティが、非階層的で寛容な実践共同体として機能し、参加が現実の業績や進路に転化していたという記述です。同時に、参加者は職業的自己とデジタル上の自己と素の自己の間で摩擦を経験していました。

この論点が重要なのは、指導の対象が変わるからです。従来、オンライン上のふるまいは規範遵守の問題として扱われてきました。しかし参加が発達の経路であるならば、指導医が問うべきは違反の有無ではなく、参加の質と自己の統合です。加えて、施設内の実践共同体が薄い環境ほど、この代替経路の意味は大きくなります。本稿は、この概念の移行が何を可能にし、どこで摩擦を生むかを検討します。


2. 論文の深掘り分析

2-1. 従来の標準的理解

専門職アイデンティティ形成の理論的枠組みは、社会化と実践共同体への参加という二つの概念を軸に構成されてきました。学習者は共同体の周辺で観察し、少しずつ責任を引き受け、やがて中心的な成員になります。この過程で、職業的価値が個人の性格に統合されると考えられています。

この過程を実証的に描いた研究として、米国の4大学の卒業予定者52名への面接調査があります(2)。分析の結果、学習者が受け取る社会的手がかりは「有能さ」「自分が重要な存在であること」「所属していること」の三領域に整理されました。共同体の成員との相互作用がこれらの感覚を高めることもあれば、損なうこともあります。重要なのは、アイデンティティが内的な心理過程だけでなく、環境から受け取る手がかりによって形づくられるという点です。

この手がかりを意図的に設計する仕組みが、学習共同体です。米国の医学部の半数以上が導入しており、5大学208名を対象とした調査では、複数の接点の確保、心理的安全性の高い環境、意味のある専門職的関係という三つの構造要素が相互に関連してPIFを支えることが示されました(3)。ただし著者らは、学習共同体がすべての学生に効果を及ぼすとは限らないとも述べています。

臨床外の領域では、参加の様式そのものが問題になります。公衆衛生の専攻医と修了者19名への面接調査は、指導者が「社会的な触媒」として広い実践の領域に参加していることが、学習者が自分の役割を見つける助けになると報告しました(4)。同時に、業務範囲の曖昧さと将来の見通しの不透明さが阻害要因となり、研修後に正統性を失うのではないかという恐れにつながっていました。参加すべき共同体の輪郭が不明瞭であるとき、正統的周辺参加は成立しにくくなります。

アイデンティティの源が職場の外にもあることは、すでに認識されています。4大学53名の面接記録を再分析した研究では、52名(98.1%)が家族に言及し、出生家族への言及が289抜粋中207件(71.6%)を占めました(5)。家族は支援を提供し、動機や態度に影響し、自身の成長を測る参照点となる一方、期待の押しつけが緊張を生むこともありました。シンガポールの医学生16名への面接調査は、課外活動への参加が学生の自己同一性の保持と職業的成長の双方に寄与し、学生が医学の内と外という二つの空間を同時に生きていることを描いています(6)。

一方、正課としてのPIF教育の実装は容易ではありません。縦断的な正規カリキュラムを評価した研究では、学生15名の面接から「カリキュラムと概念の解読」「概念そのものとの格闘」といった主題が抽出され、学習者が何を求められているのか理解しづらい状況が示されました(7)。総合診療の領域では、PIFが隠れたカリキュラムのまま放置されやすく、外的要因によって専攻医が自身の実践共同体に接触する機会が制限されるという指摘もあります(8)。

そして、施設内の共同体が構造的に薄い環境も現実に存在します。トルコの整形外科専攻医849名を対象とした全国調査では、8.13%が理論教育を受けておらず、学習方法として最も多いのは同僚同士の学び合い(52.1%)で、指導医主導の教育は24.6%にとどまりました(9)。指導者が存在すると回答したのは68.8%で、その存在は自己評価による能力・学術的関心・専門分野の目標の明確さと有意に関連していました。英国の整形外科新任専攻医15名を対象とした導入研修の研究も、短期の集中的な場が心理的安全性と仲間の関係網を提供し、専門職としての社会化の基盤になることを示しています(10)。

これらの知見が共有している構造を確認しておきます。第一に、参加の質を決めるのは共同体の側の設計であるという想定です。学習共同体の三要素(3)も、指導者の触媒的役割(4)も、導入研修の設計(10)も、すべて教育者が用意できる条件として語られています。第二に、参加の場は単数であるという想定です。家族(5)や課外活動(6)がアイデンティティに影響することは認められていますが、それらは職業的な実践共同体とは別種の領域として扱われ、参加の場そのものが複数あるとは考えられていません。第三に、共同体への接近には物理的な近接が必要であるという想定です。総合診療の専攻医が自身の実践共同体に触れる機会を外的要因に制限されるという記述(8)は、この想定を前提にしています。

以上を要約すると、従来の理解は次のようになります。すなわち、アイデンティティは共同体への参加を通じて形成され、その共同体は基本的に職場であり、教育者の役割は良質な参加機会を物理的に設計することである、という理解です。この理解のもとでは、施設の教育資源が乏しいことは、そのまま学習者の発達機会の乏しさを意味します。トルコの調査(9)が示した指導医関与の低さは、この枠組みでは打つ手のない構造的欠損として現れます。

2-2. この知見が付け加えたこと

2026年に公表された質的研究は、この構図に別の場を書き加えました(1)。研究チームは実践共同体理論に基づく半構造化面接ガイドを作成し、Xの熱心な利用者である神経内科の学習者を目的的標本抽出と機縁法で選定しました。2024年8月から11月にかけて、17施設18名(専攻医13名、フェロー3名、卒後1年目の指導医2名)に個別面接を実施し、帰納的な主題分析を行っています。

抽出された4主題は次のとおりです。第一に、神経内科という専門分野への接近です。地理的・組織的な制約を越えて、分野の議論に触れる経路が開かれていました。第二に、このコミュニティが実践共同体として機能していたことです。参加者は、この空間が公平で非階層的で寛容であると語りました。第三に、オンラインでの関与が現実世界の業績に転化していたことです。共同研究、招待、進路の機会が実際に生じていました。第四に、デジタル環境を渡り歩く難しさです。参加者は、職業的自己とデジタル上の自己と素の自己の間の緊張を経験していました。著者らは、仮想空間でのPIFは現実のPIFを代替するものではなく補完するものだと結論しています。

このコミュニティの規模は、別の分析で定量化されています(11)。2022年6月から2023年6月までの12か月間に、当該のハッシュタグを含む投稿は216,558件、投稿者は61,326名、閲覧は1,110万回を超えました。発信元は米国が84,485件(39.0%)で最多、次いでインド16,332件(7.5%)、英国13,484件(6.2%)です。併用されるハッシュタグには医学教育関連のものが並び、参加の山は研修医採用の時期と一致していました。この時間的な同期は、当該の空間が一般的な情報発信の場ではなく、訓練の周期に結びついた場であることを示唆します。

参加の内容にも独自性があります。台湾の専攻医が運営するページの369件のミームを内容分析した研究は、個人・関係・組織・社会という4水準で18のコードを抽出しました(12)。学習者は、組織規範への同調と個としての自己の喪失との間の緊張を表現し、学習環境への期待と職場の現実との不一致を可視化していました。著者らは、この空間が同調の場であるだけでなく、抵抗の表明、否定的経験の共有、困難な移行期における仲間との連帯の場でもあると述べています。

対面と仮想の差異を直接扱った研究もあります。認定直後の遺伝カウンセラー16名を対象とした事例研究では、学会という継続教育の場でアイデンティティがどう模倣され、所属感がどう生じるかが検討されました(13)。対面形式と仮想形式では、共同体の形成、包摂、参加のしやすさ、社会化のあり方が異なると報告されています。所属感には、共同体の感覚、内容、他者からの承認に加え、外見などの個人的特性も影響していました。

教育資源としての実用も報告されています。小児科研修プログラムで、ソーシャルメディア上の手技動画を精選して一つの場所に集約した取り組みでは、1年間で78名の利用者から377回の閲覧があり、研修医の約70%が利用しました(14)。動画が削除される事態が生じ、定期的な内容点検で対処しています。専門学会の側でも、緩和ケア領域の実践共同体が、教育資源の拡充、相互指導と共同体形成、専攻医と若手のPIF支援、ソーシャルメディアを通じた外部への働きかけを含む8領域を掲げて運営されています(15)。オンライン上の共同体は、自然発生的なものから制度化されたものへ広がりつつあります。

ここまでの知見を並べると、前節で確認した三つの想定がいずれも部分的に崩れていることが分かります。参加の質は共同体の側の設計だけでは決まらず、参加者自身が場を選び、関わり方を決めていました(1)。参加の場は複数であり、しかもそれらは相互に転化します。オンラインでの関与が現実の業績になるという記述(1)は、二つの場が別種の領域ではなく連続した領域であることを示します。そして物理的な近接は接近の条件ではなくなりました。地理的制約を越えて分野の議論に参加できるという主題(1)と、発信元が国境をまたいで分布している事実(11)は、同じ現象の内側と外側からの記述です。

2-3. 批判的吟味:研究デザインと解釈の妥当性

中核となる質的研究の限界を最初に確認します(1)。標本抽出は目的的標本抽出と機縁法によるもので、対象は「熱心な利用者」と定義されています。すなわち、この空間で利益を得た者が構造的に選ばれる設計です。参加を試みて離脱した者、攻撃を受けて撤退した者、そもそも参加しなかった者の経験は含まれません。得られた4主題は、参加が成功した場合に何が起きるかを記述するものであって、参加の期待値を示すものではありません。

標本規模と範囲の制約もあります。18名、単一の専門分野、米国の施設という条件から、他の分野や国への移転可能性は限定的です。規模を測った分析(11)は記述的なハッシュタグ解析であり、閲覧数は学習の指標ではありません。この分析はまた、識別可能な範囲でしか自動投稿を除外していないと明記しています。

因果の方向も未解決です。参加がアイデンティティ形成を促進したのか、それとも既に強い専門職的志向を持つ者が参加したのかは、横断的・質的な設計からは分離できません。現実世界の業績への転化にしても、業績を生む能力と参加意欲が共通の要因から生じている可能性を排除できません。

害の側面は、別の研究群が示しています。ルーマニアの医学生を対象とした調査では、ソーシャルメディア依存が燃え尽きの独立した予測因子であり、先延ばし傾向がこの関係を調整していました(16)。関係の強さは、先延ばし傾向の低い学生でむしろ大きくなっています。また、患者・家族からの不適切な扱いが専攻医のPIFを損なう経路を検討した研究は、心理的安全性の低下が中核にあることを示しました(17)。頻回で、対処されず、個人の属性に向けられた攻撃が特に有害でした。オンライン参加は、この種の攻撃に曝露される経路を一つ増やします。実践共同体としての利益と、曝露の増加は同じ設計から生じます。

日本での実装を考えると、前提となる利用実態が異なります。会員医師1,000名を対象とした2023年8月の調査では、閲覧の最多はYouTube(706名)で、Xは書き込み154名・閲覧341名でした(18)。診療に関する情報収集にソーシャルメディアを使っていないと答えた医師が550名(複数回答)で最多という結果です。別の調査では、医師・初期研修医1,422名のうちX利用者が835名(58.7%)に達する一方、Xで医療情報の収集を目的に挙げたのは399名でした(19)。利用率は高いものの、専門職共同体としての機能は限定的である可能性があります。

したがって、英語圏で観察された現象がそのまま国内で成立すると考えるのは早計です。参加者の絶対数、専門分野ごとの臨界規模、日本語での議論の蓄積量が、いずれも異なります。加えて、実践共同体が成立するには一定の参加者密度が必要です。神経内科という単一分野で6万人以上が発信していた英語圏の状況(11)と、国内の一診療科の医師数を比べれば、同じ密度が実現しない分野が多数存在することは明らかです。日本語圏で機能する共同体があるとすれば、診療科ごとではなく、より広い括りで形成されている可能性があります。

もう一点、対面と仮想の比較研究(13)が示した所属感の非対称性も見落とせません。同じ場に参加していても、形式の違いによって包摂の程度が変わります。オンライン共同体が非階層的であるという記述(1)は、その共同体に到達できた者の視点からの記述であり、到達しなかった者にとっては別の階層が働いていた可能性を排除できません。次節では、これらの留保を踏まえたうえで、概念の枠組みを組み替えると何が見えるようになるかを検討します。


3. 教育的思考の深化と再構築

3-1. 旧概念の有効範囲と限界

従来の枠組み——アイデンティティは職場という単一の実践共同体への参加を通じて形成される——は、広い範囲で有効に機能してきました。まず、手技の習得、臨床判断の形成、チーム内での役割の獲得は、身体的な共在なしには成立しません。患者の反応を読み、上級医の判断の根拠を推測し、緊急時の空気を経験することは、その場にいなければできません。導入研修が短期間でも社会化の基盤になるという知見(10)は、共在の密度が持つ効果を裏づけています。

また、社会的手がかりの三領域という整理(2)も、職場という場を前提に構成されています。「自分が重要な存在であること」の手がかりは、実際に責任を与えられ、その結果が患者に及ぶという経験から生じます。この種の手がかりは、オンライン空間では原理的に得られません。

限界が現れるのは、次の三つの条件が重なる場面です。第一に、施設内の実践共同体が構造的に薄い場合です。指導医主導の教育が4分の1にとどまり、学びの半分以上が同僚同士で完結している環境(9)では、周辺から中心への移動を導く成員が不足します。第二に、専門分野への接触が地理的・組織的に制限される場合です(1)。第三に、学習者が施設内で少数派であり、自己の参照点となる成員が存在しない場合です。所属感が個人的特性の影響を受けるという知見(13)は、この問題が単なる人数の問題ではないことを示しています。

さらに、旧概念には暗黙の前提が一つ含まれています。参加すべき共同体は一つであり、複数の共同体への同時参加は分散として扱われる、という前提です。しかしこの前提は、すでに他の文脈では放棄されています。家族がアイデンティティの重要な源であること(5)、課外活動が職業的成長に寄与すること(6)は、いずれも経験的に確認されています。学習者が医学の内と外の二つの空間を同時に生きているという記述(6)を受け入れるならば、オンライン共同体だけを例外として逸脱の枠に押し込める根拠は乏しくなります。

3-2. 新しいレンズで見える風景

ここで有用なのが、複数の共同体が広がる領域を学習者が横断するという見方です。公衆衛生の専攻医研究が「広い実践の領域への参加」という表現で扱った枠組み(4)を、オンライン空間まで含めて適用すると、いくつかの光景が新たに見えてきます。

第一に、非階層性の価値です。施設内では、発言の重みが学年と職位で決まります。オンライン空間では、少なくとも一部の共同体で、発言の内容によって決まります(1)。この差は、単なる快適さの問題ではありません。学習者が自分の考えを検証し、承認を受け、修正する経験の量が変わります。承認が所属感を形づくるという知見(13)を踏まえれば、承認の供給源が施設内に限られない環境は、発達上の意味を持ちます。

第二に、接近の平等化です。地方の小規模施設に所属する専攻医が、その分野の最前線の議論に触れられます。ハッシュタグ解析が示す発信元の分布(11)は、この経路が国境も越えていることを示します。従来、この種の接触は学会参加という費用と時間を要する経路に限られていました。

第三に、抵抗の表現が可視化されることです。ミームの分析(12)は、学習者が組織規範への同調と個としての自己の喪失の間で経験する緊張を、この空間に持ち込んでいることを示しました。この現象を「不満のはけ口」と読むか、アイデンティティ形成の正当な一局面と読むかで、指導は正反対になります。後者の読み方を支持する材料もあります。社会的不正義に向き合う学習者18名の面接調査は、「抵抗する者としての自己」が職業的自己と対立・絡み合い・統合という三つの関係を取りうることを示し、統合に至った者は職業性そのものを拡張していたと報告しています(20)。抵抗の表明を抑制することは、統合への経路を閉ざすことになりかねません。

第四に、自己の層が増えることです。従来のPIF理論は、個人としての自己と職業的自己という二項で構成されてきました。しかし面接記録に現れたのは、職業的自己・デジタル上の自己・素の自己という三項の緊張です(1)。この三層構造は、教育者が扱うべき対象を変えます。「本当の自分と医師としての自分をどう折り合わせるか」という問いに加えて、「オンラインで提示している自分は、どちらに近いのか」という問いが必要になります。

第五に、教育者側の責任範囲が変わります。旧概念のもとでは、施設の教育資源が乏しければ、学習者の発達機会も乏しいという結論で終わりました。新しい枠組みでは、施設外の共同体への接続を設計したかどうかが問われます。指導医主導の教育が4分の1にとどまる環境(9)は、依然として問題ですが、唯一の制約条件ではなくなります。

指導の場面で具体的に何が変わるかを挙げます。面談では、参加している共同体を尋ねる項目が加わります。「どこで学んでいますか」という問いに、病棟とカンファレンス以外の答えが返ってくることを想定した設計です。ポートフォリオでは、オンラインでの学術的な発信と交流を記載対象に含めるかどうかを決める必要が生じます。研修プログラムの評価では、施設内の共同体が薄い場合に、外部の共同体への接続を支援したかどうかが論点になります。教育資源の精選と集約という実務(14)や、学会が運営する共同体(15)は、この支援の具体形です。学会が既に専攻医のPIF支援と対外的な発信を同じ枠組みで扱っている事実(15)は、この転換が個々の指導医の工夫にとどまらず、制度側でも進行していることを示しています。

3-3. 概念移行の実務的摩擦

この移行を実際に進めようとすると、四つの摩擦が予測されます。

第一に、用語の混乱です。「ソーシャルメディア利用」という語は、指導記録の文脈では長らく逸脱の報告にのみ使われてきました。同じ語で肯定的な活動を語ると、聞き手は自動的に問題行動を想起します。移行期には、参加の目的と様式を区別する語彙を意図的に用意する必要があります。

第二に、評価基準の不整合です。オンラインでの活動を業績として認めるかどうかについて、共通の基準がありません。査読を経た論文や学会発表と同列に扱うことは現時点では困難ですが、まったく評価しなければ、学習者の投入した労力は不可視のままになります。現実的な折衷案は、業績としてではなく、学習の記録として扱うことです。

第三に、共通言語の喪失です。指導医世代と学習者世代の利用実態が異なると、評価が成立しません。日本の調査では、診療情報の収集にソーシャルメディアを使っていない医師が最多でした(18)。X利用者のうち医療情報の収集を目的に挙げたのは半数以下です(19)。指導医が参加していない共同体での活動を、指導医が評価することはできません。日本国内でも医師の発信の許容範囲をめぐる議論は継続しており(22)、施設の方針が抑制的である場合、この転換は指導医個人の裁量では実行できません。

第四に、省察の質という問題です。参加すれば自動的にアイデンティティが形成されるわけではありません。インドネシアの4大学1,401名を対象とした横断研究は、実践への省察がPIFと相関する(r=0.420、p<0.001)一方、自己への省察と洞察は相関しない(r=-0.017、p=0.528)ことを示しました(21)。回帰分析でも、実践への省察のみが有意な予測因子でした。この結果は、オンライン参加についても同じ条件が当てはまることを示唆します。単に「経験を振り返らせる」のではなく、その経験が自身の実践をどう変えたかに接続する必要があります。

加えて、害の管理という摩擦もあります。参加を推奨する立場を取った以上、参加によって生じた不利益への対応責任が発生します。ソーシャルメディア依存が燃え尽きの独立した予測因子であるという知見(16)を踏まえれば、参加の量を無制限に肯定することはできません。心理的安全性の低下がPIFを損なう経路(17)も、オンライン空間では別の形で作動します。推奨と保護を同時に設計しなければ、この転換は学習者に負担を移転するだけの結果に終わります。

実務的な着地点としては、全面的な推奨でも禁止でもなく、参加の目的と省察の様式を明示することが現実的です。具体的には三点です。第一に、参加を「学習の場の選択」として面談の議題に載せ、業績評価とは切り離します。第二に、経験の記述ではなく実践の変化を問う省察の様式を採用します(21)。第三に、不利益が生じた場合の相談経路を事前に示します。国内でも医療者向けの情報基盤上に共同体が形成されており(23)、汎用の公開プラットフォームだけが選択肢ではありません。施設内の共同体が薄い研修プログラムほど、外部の共同体への接続を意図的に設計する価値が大きくなります。


4. 今後の展望:何がわかれば決着するか

この議論に決着をつけるための条件は、四つに整理できます。

第一に、縦断的な設計です。オンライン参加とアイデンティティ形成の指標を時間的な前後関係で捉える研究が必要です。参加が先行するのか、志向が先行するのかを分離できなければ、教育介入としての推奨はできません。

第二に、参加しなかった群と離脱した群のデータです。現在の知見は、参加が成功した者からのみ得られています。離脱の理由と、離脱後の状態を記述しなければ、期待値も害も見積もれません。

第三に、害の系統的な測定です。燃え尽き、ハラスメントへの曝露、心理的安全性の低下を、参加の程度と対応づけて測る必要があります。利益と害が同じ設計から生じる以上、両者を同時に測らなければ判断できません。

第四に、日本での再現性の確認です。日本語圏の医療者コミュニティが、英語圏で観察された非階層性と接近の平等化という機能を実際に持つのかは未確認です。あわせて、特定のプラットフォームに依存しない参加設計を検討する必要があります。当面は、施設内の共同体の厚みを評価し、薄い場合に限って外部への接続を積極的に支援する運用が妥当です。


5. References

  1. Pucci GF, Gheihman G, Albin CSW. Education Research: A Qualitative Analysis of the Role of Social Media in Neurology Trainees' Professional Identity Formation. Neurol Educ. 2026;5(2):e200307. doi:10.1212/NE9.0000000000200307.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42038332/

  2. Quaintance JL, Ngo TL, Wenrich MD, et al. Competence, mattering and belonging: An evidence-based and practical approach to understanding and fostering medical student professional identity formation. Med Teach. 2025;47(12):2033-2044. doi:10.1080/0142159X.2025.2500568.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40327592/

  3. Yakes EA, Ngo TL, Wenrich MD, et al. Fostering connections, psychological safety and meaningful relationships: The role of preclerkship learning communities in professional identity formation. Med Teach. 2026;Epub ahead of print. doi:10.1080/0142159X.2026.2649221.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41931122/

  4. Verlind-Brouwer YC, Taks NJLM, Barnhoorn PC, et al. Professional identity formation in public health residents: participation in the vast landscape of practice. BMC Med Educ. 2025;25(1):1503. doi:10.1186/s12909-025-08068-9.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41146184/

  5. Sardesai MG, Quaintance JL, Wenrich MD, et al. Influence of medical students' families in shaping professional identity. Acad Med. 2026;101(4):431-437. doi:10.1093/acamed/wvaf047.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41691660/

  6. Fu KX, Chiong YK, Lian WQD, et al. Beyond the Medical Curriculum… Exploring the Impact of Student Extra-Curricular Activities on Professional Identity Formation. Teach Learn Med. 2026;Epub ahead of print. doi:10.1080/10401334.2026.2635448.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41744476/

  7. Altshuler L, Tewksbury L, Buckvar-Keltz L, et al. Growing Professionals: Exploring the Impact of a Professional Identity Formation Curriculum in Medical School. J Med Educ Curric Dev. 2026;13:23821205261427163. doi:10.1177/23821205261427163.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41884105/

  8. Tsang LPM, Ong SZA, Goh KLS, et al. General practitioner professional identity formation: Much needed, (still) oft forgotten. Aust J Gen Pract. 2024;53(11 Suppl):S128-S131. doi:10.31128/AJGP-01-24-7115.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39542687/

  9. Kalem M, Dursun Savran M, Özgencil B, et al. A nationwide survey of orthopedic residency training in Türkiye: Theoretical education, surgical exposure, faculty engagement, and mentorship influence on resident competence. Acta Orthop Traumatol Turc. 2025;59(5):305-314. doi:10.5152/j.aott.2025.25438.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40996100/

  10. Kamran Siddiqui Z, Lewis C, Myatt A, et al. Bridging the gap: exploring the impact of bootcamp on non-technical skills and professional development in early-career orthopaedic trainees. BMC Med Educ. 2025;25(1):1208. doi:10.1186/s12909-025-07740-4.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40866884/

  11. Hasan A, Asif M, Ahadi A, et al. #NeuroTwitter : A Hashtag Analysis Study of Global Neurology Conversations on X. Cureus. 2025;17(5):e84691. doi:10.7759/cureus.84691.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40546557/

  12. Yang YC, Mickleborough T, Ho CJ, et al. Digital Storytelling: Navigating Individual and Emerging Professional Selves Through Medical Memes. J Grad Med Educ. 2025;17(2):150-158. doi:10.4300/JGME-D-24-00722.1.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40417109/

  13. Mills R, Barcinas SJ. Early-career genetic counselors' professional identity formation through experiences with continuing education at a professional conference. J Genet Couns. 2025;34(5):e70120. doi:10.1002/jgc4.70120.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41077741/

  14. Udeogu JE, Klein J, Raghavan S, et al. Procedures on Demand: Evaluating Pediatric Procedural Training With Video Education. Cureus. 2025;17(12):e100265. doi:10.7759/cureus.100265.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41607987/

  15. Tsang M, Bergerot C, Dhawan N, et al. Transformative Peer Connections: Early Experiences From the ASCO Palliative Care Community of Practice. Am Soc Clin Oncol Educ Book. 2024;44(3):e100047. doi:10.1200/EDBK_100047.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38772001/

  16. Pleșea-Condratovici C, Mititelu Tartau L, Nicolcescu P, et al. Factors Associated with Burnout in Medical Students: An Exploration of Demographic, Academic, and Psychological Variables. Healthcare (Basel). 2025;13:Epub ahead of print. doi:10.3390/healthcare13141702.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40724727/

  17. Phillips EM, Edwards JG, Aiello L, et al. The Effect of Mistreatment From Patients and Families on Pediatric Resident Professional Identity Formation. Acad Pediatr. 2026;26(3):103221. doi:10.1016/j.acap.2026.103221.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41554495/

  18. ケアネット. 医師のSNS利用、診療に関する情報収集に使っているのは?/1,000人アンケート. 2023.
    Available from: https://www.carenet.com/news/general/carenet/57099

  19. メディカル・プリンシプル社. SNS利用に関するアンケート調査を医師会員1,422人に実施. 2023.
    Available from: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003326.000003670.html

  20. Ma T, Jain V, Wyatt TR. "To Serve My Community Better": Exploring Resistor Identity Formation and Its Impact on Physician Professional Identity. Teach Learn Med. 2025;Epub ahead of print. doi:10.1080/10401334.2025.2509835.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40433748/

  21. Demak IPK, Androni A, Arifuddin A, et al. Not all reflection is equal: Reflective practice, not self-reflection, correlates with Indonesian medical students' professional identity formation. Med Educ. 2026;Epub ahead of print. doi:10.1111/medu.70176.
    Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41562277/

  22. 榎木英介. 【識者の眼】「医師とSNS〜どこまで利用が許されるのか」. 日本医事新報社.
    Available from: https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26198

  23. 民間医局コネクト. 医師・研修医のSNS使用率No.1はX(Twitter)、使用目的はいったい?〜「SNS」アンケート〜.
    Available from: https://connect.doctor-agent.com/research/research-18/


終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。

本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。

いいなと思ったら応援しよう!