2026年8月7日詳解①:e-professionalism評価尺度の妥当性、およびエビデンスの非対称性
皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年8月7日ーSNS時代のプロフェッショナリズムとデジタル上の足跡の詳解①:e-professionalism評価尺度の妥当性、およびエビデンスの非対称性についてです。
尺度自体殆ど検証されておらず、評価対象はこれまで学生に偏っており、実務者や教員を評価対象とした研究も非常に限られています。
Executive Summary
Already Known(従来の理解)
医学生・研修医のオンライン上のふるまいをめぐる指導は、2010年前後から独立した教育対象として制度化されてきました。米国医師会は倫理綱領に社会的ネットワークにおけるプロフェッショナリズムの項を設け、英国の医事委員会は医療専門職としてのソーシャルメディア利用を独立した専門職基準として運用しています。各大学は行動規範を整備し、態度尺度による学生調査が世界中で繰り返されてきました。この分野の常識は「学生の態度には自覚と行動の乖離があり、それを尺度で測って教育介入につなげる」という枠組みです。
What's New(この知見が加えたこと)
2026年に公表された系統的レビューは、この前提を測定論の側から解体しました。4,616件から選定された28研究(2009〜2025年)を健康測定尺度選択のための合意基準(COSMIN)で精査したところ、推奨9特性のうち検証されていたのは4特性のみでした。内容妥当性の報告は24件(85.7%)に達する一方、内的一貫性は8件(28.5%)、構造的妥当性は7件(25%)にとどまります。異文化間妥当性・反応性・測定誤差・基準関連妥当性は事実上未検証です。結果の解釈基準となるカットオフ値を設定した研究は28本中1本でした。著者らは、この構成概念とその下位領域について学術的合意が欠けていると結論しています。
So What(だから何が変わるか)
指導医が「この学生のオンライン上のふるまいには問題がある」と判断するとき、その判断を支える測定論的根拠はほぼ存在しません。加えて、一般市民は医師本人よりも厳格な基準で投稿を評価するという知見があり、「誰の判断を正解とするか」という基準そのものが未決着です。当面の実務的帰結は、尺度得点を合否判定や是正指導の根拠として単独で用いないこと、そして評価の目的を判定から対話に置き換えることにあります。
1. テーマの位置づけと意義
医学教育におけるプロフェッショナリズム評価は、長らく「測りにくいが測るべきもの」の代表格でした。オンライン上のふるまいはその中でも例外的に扱いやすい対象と見なされてきました。投稿は可視的で、記録が残り、第三者が判定できるからです。この可視性ゆえに、規範違反の事例収集と態度尺度による調査が急速に蓄積しました。
しかし2026年の系統的レビューは、蓄積してきたのが「測定」ではなく「観察の言語化」にすぎなかった可能性を示しています(1)。尺度が28本存在すること自体は成熟の証拠に見えますが、その大半は開発時に内容妥当性の検討を報告するにとどまり、得点の再現性・構造・解釈基準を検証していません。
この論点が重要なのは、評価が学習者の進路に影響しうるからです。オンライン上の言動を理由とした注意・指導・処分は、どの国でも実際に起きています。判断の根拠が測定論的に空洞であるとき、その判断は指導者個人の価値観と、たまたま参照した規範文書の組み合わせに依存します。本稿は、この空洞の構造を確認したうえで、指導医が自身の判断への確信度をどう調整すべきかを検討します。
2. 論文の深掘り分析
2-1. 従来の標準的理解
この分野の出発点は、2021年に公表された広範なスコーピングレビューです。2014年11月から2020年12月までの1,632件から88研究を選定し、医療専門職のオンライン上のふるまいをめぐる利益と危険を整理しました(2)。利益として、専門職どうしの連携、専門職教育と訓練、患者教育と健康増進の3領域が挙げられました。危険としては、説明責任の希薄化、守秘義務の毀損、専門職としての境界の曖昧化、非専門職的なふるまいの露呈、法的問題と懲戒上の帰結の5領域が示されました。この5分類は、その後の教育プログラム設計の事実上の骨格になっています。
規範文書の側も整備が進みました。米国医師会の倫理綱領は、医師と医学生が個人としての人格と専門職としての人格をオンライン上で完全に分離することは現実的でないと述べ、そのうえで自身の発信を管理するよう求めています(3)。英国の医事委員会は2024年1月に基準を更新し、対面かオンラインかで期待される水準は変わらないという原則を掲げました(4)。両者に共通するのは、新しい規範を創設したのではなく、既存の専門職規範を新しい場に適用したという構成です。この構成は一見穏当ですが、実は重要な前提を含んでいます。すなわち、対面の場で確立された専門職規範が、オンライン空間にそのまま移植可能であるという前提です。対面の診療では、誰が観察者であり、どこまでが職務の場であるかが物理的に定まります。オンラインでは観察者の範囲も、文脈が保存される期間も定まりません。同じ規範を適用するという方針は、この違いを扱わないまま棚上げにしています。
規範の適用範囲が曖昧なまま、教育現場では二種類の指導が並行してきました。一つは禁止事項の列挙で、患者情報の掲載や患者との個人的な交流を明示的に禁じるものです。もう一つは印象管理の助言で、将来の雇用者や患者が見ることを想定して発信を調整するよう促すものです。前者は義務論的で、後者は帰結主義的です。両者は根拠となる価値が異なるにもかかわらず、同一の指導場面で混在して提示されるのが通例です。この混在が、後に述べる構成概念の不安定さの遠因になっています。
この規範を学習者がどう受け止めているかを測る研究が、各国で蓄積されました。米国の単一施設で222名の医学生を対象に計画的行動理論の枠組みで調べた研究では、白衣姿の写真や家族との写真の投稿には肯定的である一方、飲酒場面・同僚への言及・患者への言及には否定的という態度の階層が確認されました(5)。同時に、学生が「医学生としての自分に許されること」と「将来医師として社会から期待されること」の間に有意な差を認識していることも示されました。この差の存在は、学生が単一の規範に従っているのではなく、複数の規範を場面ごとに使い分けていることを意味します。
サウジアラビアの医学生560名を対象とした調査では、99.5%が毎日の利用者であり、オンライン上のプロフェッショナリズムを目的として利用していると答えたのは12.5%にとどまりました(6)。泌尿器科の専攻医372名を6大陸から集めた調査では、99.4%が利用している一方、65.4%が専門職向けの利用指針を読んだことがなく、11.3%が依存傾向の判定基準を満たしていました(7)。利用の普遍性と指針の到達度の乖離は、10年以上一貫して報告されています。
日本の状況も2026年に更新されました。8大学1,515名を対象とした多施設調査によると、よく利用されるのはYouTube(71.6%)、Instagram(65.1%)、X(43.7%)で、Facebookは1.9%にすぎません(8)。学年による差が明瞭で、YouTubeは低学年で、Xは高学年で有意に多く使われていました。回答者の50.4%が進路選択に有用と回答し、この認識は低学年でより多く見られました。プラットフォームの分布が国ごとに大きく異なるという事実は、後述する尺度の移植可能性に直接関わります。
制度面では、医学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)が資質・能力に「情報・科学技術を活かす能力」を新設し、情報・科学技術に向き合うための倫理観と適切な態度・行動を学修目標に位置づけました(9)。プロフェッショナリズムとは別建ての領域として整理されている点が、後の評価設計に影響します。
2-2. この知見が付け加えたこと
2026年の系統的レビューは、この蓄積を測定論の枠組みで再検討しました(1)。プロトコルは2025年に公表され、看護・薬学・医学・歯学の専門職および学生を対象とし、言語と発行年の制限を設けない設計です(10)。2025年7月に5つのデータベースを検索し、4,616件から28研究が選定されました。
結果は率直に言って厳しいものでした。第一に、対象の偏りです。28本のうち20本(71.4%)が学生向けであり、実務者向けの尺度は限られます。学生時代のふるまいと、診療責任を負う立場でのふるまいは、規範の適用条件が異なるはずですが、その差を扱う尺度はほとんど存在しません。
第二に、心理測定学的特性の検証範囲です。COSMIN が推奨する9特性のうち、検証されていたのは4特性のみでした。内訳は内容妥当性が24件(85.7%)、内的一貫性が8件(28.5%)、構造的妥当性が7件(25%)です。裏を返せば、信頼性・測定誤差・基準関連妥当性・異文化間妥当性・反応性は、ほぼ誰も検証していません。反応性が未検証であることは、教育介入の前後で得点が動くかどうかが分からないことを意味します。教育効果の評価に尺度を使うという発想が、そもそも成立しない状態です。
第三に、解釈基準の不在です。カットオフ値を設定した研究は28本中1本でした。平均26項目・3下位尺度という構成が典型ですが、合計点が何点なら「問題あり」なのかを定めた研究はほぼ存在しません。得点は集団内での相対位置しか示さず、個人の判定には使えません。
第四に、構成概念そのものの不安定さです。著者らは、この概念とその下位領域について学術的合意が必要であると結論しました。28本の尺度が測っているものが同一である保証はなく、比較も統合もできません。この不一致は、前節で述べた義務論的規範と帰結主義的助言の混在に対応しています。ある尺度は「患者情報を掲載してはならない」という規範への同意度を問い、別の尺度は「将来の雇用に不利になる投稿を避けているか」という自己管理の程度を問います。両者を合計して一つの得点にする設計が広く採られてきましたが、加算が意味を持つのは項目が同一の潜在変数を反映している場合に限られます。構造的妥当性を検証した研究が25%にとどまるという事実は、この前提がほとんど確認されていないことを意味します。
もう一点、専門職横断の設計にも留意が必要です。このレビューは看護・薬学・医学・歯学を対象としています(10)。四職種は患者との接触様式も、業務上の情報の扱いも、広告規制の適用範囲も異なります。共通尺度を目指す設計は比較可能性を高めますが、職種固有の規範を項目から削ぎ落とす方向に働きます。汎用性と特異性のどちらを優先するかは、尺度の使用目的によって変わるはずですが、目的の明示がないまま汎用化が進んできた面があります。
パキスタンの医学生220名を対象にSMePROF尺度を用いた研究は、この不安定さを別の角度から示しています(11)。1日平均5.5時間の利用が確認され、患者からの交流申請の受諾には性差が(p=0.009)、職場写真の投稿には学年差が(p=0.009)認められました。しかし、これらの差が「プロフェッショナリズムの水準の差」なのか「規範の解釈の差」なのかは、尺度の構造からは判別できません。
同様に、サウジアラビアの高学年医学生400名の調査は、行動の実態を鮮明に描き出しました(12)。20%が摘出臓器や画像所見を許可なく投稿し、16%が患者について論じ、31%が講義資料を無断で共有していました。約66%が所属機関の行動規範の有無を把握しておらず、70%は関連する研修を受けていません。ここで測られているのは態度ではなく行動の頻度であり、態度尺度とは別種の情報です。両者を「e-professionalismの評価」として一括りにしてきたことが、構成概念の混乱の一因です。
そして、最も基準の問題を突いているのが、クロアチアで実施された一般市民調査です(13)。全国代表標本1,000名から788名を解析し、e-プロフェッショナリズム評価整合性指標(ePACI)で医師と歯科医師の投稿に対する評価を測定しました。一般市民は統計的に有意に「保守的」な評価を示し(t787=28.022、p<0.001)、階層的重回帰では年齢のみが有意な予測因子でした(β=0.131、t=2.755、p=0.006)。著者らは、医師本人が専門職的と判断する投稿の相当数が、一般市民には非専門職的と映る可能性を指摘しています。評価の基準を医師集団の合意に置くか、社会の期待に置くかで、判定は体系的にずれます。
2-3. 批判的吟味:研究デザインと解釈の妥当性
このレビュー自体の限界を先に確認します。検索は2025年7月時点であり、英語以外の言語も対象としているものの、日本語の医学教育文献を網羅的に収載する体制ではありません。国内で開発・使用されている尺度が漏れている可能性は残ります。また、COSMIN の枠組みは元来、患者報告アウトカム尺度の評価のために設計されたものです。教育評価への適用は近年広がっていますが(14)、前提の違いを見落とすと過小評価につながります。
より本質的な問題は、枠組みの選択にあります。COSMIN は尺度の心理測定学的特性を項目ごとに点検する方式です。これに対し、医学教育の評価研究では、Kaneの論証基盤型妥当性枠組みが標準になっています。この枠組みは、得点化・一般化・外挿・含意という4つの推論の連鎖として妥当性を論じ、「その得点をこの目的で使う」という主張を支える論証を組み立てます。言語テスト分野で発展した7推論への拡張を医学教育に導入する提案も出ており、推論ごとに何を主張し何を根拠とするかを明示する方向へ進んでいます(15)。
この違いは実務上重要です。COSMIN の観点では、内容妥当性が確認されていれば一定の評価を得ます。しかしKaneの観点では、内容妥当性は得点化の推論を支える一要素にすぎず、その得点を使って何をするか(含意)まで論じなければ妥当性の議論は完結しません。シミュレーション評価に同枠組みを適用した研究は、含意の段階に焦点を当て、フィードバックが学習機会の特定に役立ったかどうかを面接で確認しています(16)。仮想現実環境での多職種連携評価尺度の開発でも、得点化・一般化・外挿・含意の各段階に対応する証拠を段階的に収集する設計が採られました(17)。
e-professionalism尺度の28本は、この含意の段階の証拠をほぼ持ちません。得点が高い学生と低い学生で、その後のふるまいや処分歴に差が出るのか。低得点者への介入が転帰を改善するのか。こうした問いに答えた研究が見当たらないことが、カットオフ値の不在と表裏一体です。加えて、外挿の推論も脆弱です。自己報告式の質問紙で測っているのは、匿名の調査画面上で表明された態度であり、実際の投稿場面での判断ではありません。両者の対応関係を検証した研究は、レビューの対象範囲では確認されていません。
対象集団の偏り(28本中20本が学生向け)は、一般化の推論にも影響します。学生を対象に開発された尺度を実務者に用いる際、項目の意味は変わります。「職場の写真を投稿してよいか」という項目は、実習生にとっては教育機関の規則の問題ですが、勤務医にとっては雇用契約と広告規制の問題です。同じ文言が異なる規範体系を参照するとき、得点の比較可能性は失われます。実務者向けの検証が手薄であるという指摘は、単なる研究の不足ではなく、既存尺度の適用範囲の限界を示しています。
代替的な評価設計の可能性も検討に値します。臨床実習評価票の記述文を語彙ベースで分析した研究では、一般化可能性分析で分散の86.6%が学生に帰属し、評価者間の記述抽出の級内相関係数は0.93でした(18)。上位群と下位群で否定的記述の数に大きな差(11.4対1.4、p<0.01、効果量1.37)が生じています。自由記述という「測りにくい」データが、実は安定した情報を含んでいたという結果です。状況判断テストによる行動特性の評価も、項目困難度と識別力の点検を経れば実用に耐えることが示されています(19)。オンライン上のふるまいについても、態度尺度以外の測定様式を検討する余地があります。
日本での実装を考えると、追加の制約が二つあります。第一に、28本の尺度はいずれも日本語での妥当性検証を経ていません。異文化間妥当性が未検証である以上、翻訳版の使用は前提を欠きます。日本の学生のプラットフォーム利用分布が欧米や中東と大きく異なることを踏まえれば(8)、項目の想定する場面自体が噛み合わない可能性が高くなります。第二に、モデル・コア・カリキュラムは情報・科学技術に向き合う倫理観を「情報・科学技術を活かす能力」の下に置いており(9)、プロフェッショナリズムの領域とは別建てです。評価設計上、どちらの資質・能力の到達度として扱うかが施設ごとに揺れます。
次節では、この再評価が既存のエビデンスの読み方をどう変えるか、そして同じ構造の問題が他領域にも及ぶかを検討します。
3. 教育的思考の深化と再構築
3-1. エビデンスの読み替え
まず区別すべきは、「これまでの研究結果が誤りだった」のか「結果の適用範囲の理解が誤っていた」のかです。今回の再評価は後者に該当します。
各国の学生調査が示してきた事実——利用がほぼ全数に及ぶこと、指針の到達度が低いこと、投稿内容に学年差・性差があること——は、いずれも記述統計として有効です(6,7,11,12)。これらは「何が起きているか」の観察であり、尺度の構成概念妥当性とは独立に読めます。守秘義務に関わる投稿が2割存在するという数字は、尺度が測定論的に未成熟であっても、対処すべき事実として残ります。
変わるのは、これらの得点を個人の判定に使う場合の読み方です。たとえばSMePROF尺度で低い得点を示した学生に対し、「オンライン上のプロフェッショナリズムが不十分である」と述べることは、測定論的には支持されません。カットオフ値がなく、反応性も未検証だからです。この学生について言えることは「同世代の回答分布のなかで相対的に許容度が高い側にいる」という限定的な記述にとどまります。
さらに、集団比較の解釈も変わります。臨床実習前の学生が職場写真の投稿に寛容であるという所見(11)は、これまで「未熟さの反映」として読まれてきました。しかし、同じデータは「まだ職場の規範に接触していないため、規範の適用対象と認識していない」とも読めます。後者であれば、必要なのは態度の矯正ではなく規範の適用条件の説明です。尺度が構成概念を確定していない以上、どちらの解釈も尺度からは決まりません。解釈は理論から供給する必要があります。
一般市民調査の結果(13)は、さらに踏み込んだ読み替えを要求します。医師集団の内部で合意された「専門職らしさ」の基準と、社会が期待する基準がずれているならば、尺度が医師集団の合意に基づいて構成されている限り、その得点は社会からの評価を予測しません。医師が「これは問題ない」と判定した投稿が社会的な批判を招く事例が繰り返される背景には、この基準の非一致があります。指導の際に「私は問題ないと思う」と述べることは、社会的な帰結の予測としては根拠が弱いことになります。
3-2. 類似構造への外挿
ここで検討すべきは、この問題がe-professionalism固有のものか、それとも測定研究一般に共通する構造かという問いです。結論から言えば、後者の色彩が濃厚です。
同じCOSMIN の枠組みを用いた他領域の系統的レビューは、驚くほど似た所見を報告しています。高齢者差別を測る尺度の検討では、338,180件から20研究が選定され、18研究が内的一貫性を検証した一方、異文化間妥当性を検討したのは3研究のみでした。内容妥当性について高い方法論的質の評価を得た研究は皆無です(20)。看護学生の根拠に基づく実践能力を測る尺度の検討でも、構造的妥当性と内的一貫性は概ね良好である一方、異文化間妥当性と反応性は一切評価されていませんでした(21)。
患者側の尺度でも同様です。慢性疾患の自己管理能力を測る汎用尺度15本の検討では、大半が「結論を出せない」に分類され、推奨に至ったのは2本のみでした(22)。がん患者の自己管理を測る26本の検討では、強く推奨されたのは3本、推奨されなかったのは2本で、残りは追加の検証が必要という判定です(23)。併存疾患を持つ患者向けの尺度40研究の検討では、構造的妥当性を「非常に良好」と評価された研究が19件ある一方、内容妥当性が「適切」と評価されたのは1件、反応性を検討したのは4件でした(24)。
医学教育の他の測定対象でも同じ構図です。混合型学習の評価尺度を検討した研究では、5論文のうち4論文が尺度開発の総合評価で「疑わしい」、1論文が「不十分」と判定され、すべてが基準関連妥当性と反応性を見落としていました(25)。研究の質評価ツールそのものを対象とした検討でも、COSMIN の全特性について評価されたツールは一つもありませんでした(26)。
この一致は偶然ではありません。構造的妥当性と内的一貫性は、一度データを集めれば追加費用なく計算できます。これに対し、反応性の検証には介入と縦断追跡が、異文化間妥当性の検証には多言語での再収集が、基準関連妥当性の検証には外部基準の確保が必要です。検証の網羅性が体系的に偏るのは、労力と費用の分布が偏っているからです。
もう一つの共通因子は、査読と出版の慣行です。新規尺度の開発報告は独立した業績として認められる一方、既存尺度の反応性や異文化間妥当性を追加検証する研究は、新規性の乏しい研究として評価されにくい傾向があります。結果として、検証の穴を埋める研究より、穴を持った新しい尺度のほうが増えます。28本という数が「成熟」ではなく「分散」を意味している可能性は、この慣行から説明できます。実際、慢性疾患の自己管理尺度の検討では15本の尺度が58研究に分散しており(22)、がん患者の自己管理では26本が30研究に分散していました(23)。一尺度あたりの検証研究数が1〜2本にとどまる構造では、どの尺度も推奨水準に届きません。
したがって、e-professionalism尺度への評価は「この分野が特別に遅れている」ではなく「測定研究一般の構造的偏りが、比較的新しいこの分野で純粋な形で現れている」と読むのが妥当です。ただし相違点もあります。他領域の多くは測定対象が比較的安定しているのに対し、オンライン上のふるまいは基盤となるプラットフォームが数年単位で入れ替わります。日本でFacebookの利用が1.9%まで低下している事実(8)は、Facebookを前提に構成された項目が既に測定対象を失っていることを意味します。安定した構成概念を仮定する測定モデルと、変化の速い対象との不整合は、この分野に固有の困難です。
3-3. 確信度の再校正
以上を踏まえ、指導医は自身の判断に対する確信度をどう調整すべきでしょうか。
第一に、「規範文書に照らして明らかに逸脱している」場合と「印象として好ましくない」場合を峻別することです。患者情報の無許可掲載は前者であり、確信度を下げる必要はありません。規範文書が明示的に禁じており(3,4)、日本では医療広告に関する規制の対象となりうる領域も重なります。2026年3月30日に改正された医療広告等ガイドラインは、ソーシャルメディアや動画に関する違反事例を拡充し、プロフィール欄や返信も判断対象となりうることを示しました(27)。個人アカウントでの発信が本人の意図と無関係に広告として扱われる可能性がある以上、この領域の指導は法令の説明として行えます。
一方、服装・言葉遣い・私生活の露出といった領域は後者に属します。ここでの判断は、医師集団の合意にも社会の期待にも安定して根拠づけられていません(13)。指導医が「これは専門職として不適切だ」と述べるとき、その言明は測定に支えられた事実ではなく、一つの立場の表明です。立場の表明であること自体は問題ではありませんが、それを客観的判定として提示すると、学習者は反論の手段を失います。
第二に、尺度得点を単独で用いないことです。カットオフ値が存在しない以上、得点による選別は測定論的に正当化できません。使うとすれば、集団の傾向把握と、対話の出発点としての用途に限られます。「あなたの回答はこの項目群で平均より許容度が高い側でした。どういう考えでそう答えたか聞かせてください」という使い方であれば、測定の限界と矛盾しません。
第三に、「エビデンスレベルが高い=信じてよい」という図式の限界を、この事例は端的に示しています。今回の中核文献は系統的レビューであり、研究デザインの階層では最上位に位置します。しかしそのレビューが伝えているのは「元の研究群が測定の要件を満たしていない」という否定的な情報です。系統的レビューという形式は、統合対象の質を超える確信を生み出しません。同じことが、他領域のCOSMIN レビュー群にも当てはまります(20,21,22,23,24,25,26)。形式の権威と内容の確度を切り離して読む習慣が、この分野では特に必要です。
第四に、確信度を下げるべきでない領域も明確にしておきます。行動の実態を示す記述統計は堅牢です(12)。研修の未実施率が7割という数字は、尺度の妥当性とは無関係に、教育の空白を示す事実として扱えます。介入の優先順位を決める材料としては、態度尺度の得点よりもこうした実態調査のほうが確度が高いと判断できます。
具体的な場面で整理すると次のようになります。実習中の学生が、手術室で撮影した器具の写真を個人アカウントに投稿していたとします。従来の対応は、非専門職的な行動として指導記録を残し、必要に応じて態度尺度で再評価するというものでした。再校正後の対応は三層に分かれます。第一層は事実確認で、患者が特定されうる情報が含まれるか、撮影自体が施設の規則に反するかを確認します。ここは規範文書と施設規則で判断でき、確信度は高く保てます。第二層は文脈の聴取で、なぜ投稿したのか、誰に向けた発信だったのかを本人に語らせます。ここでの尺度得点の役割は、判定ではなく対話の材料に限定されます。第三層は帰結の共有で、同じ投稿が一般市民にどう映るかという情報(13)と、広告規制上の扱い(27)を提示します。第三層は指導医の価値観ではなく外部の基準に依拠するため、学習者にとって反論可能な形式を保てます。
この三層構造の利点は、指導医が確信度の異なる判断を混ぜずに提示できる点にあります。確度の高い事実と、根拠の弱い印象を同じ口調で述べることが、学習者の側に「何が本当に問題なのか分からない」という感覚を生みます。測定の限界を認めることは、指導の放棄ではなく、指導の解像度を上げる作業です。
4. 今後の展望:何がわかれば決着するか
この議論に決着をつけるために必要な条件は、比較的明確です。
第一に、構成概念の定義に関する合意形成です。デルファイ法などの構造化された手続きで、この概念が何を含み何を含まないかを専門職横断で確定する作業が先行しなければ、測定の議論は進みません。守秘義務違反のような行動の頻度と、境界設定に関する態度は、別の構成概念として分離すべき可能性があります。
第二に、含意の段階の証拠です。尺度得点が将来の逸脱行動、患者からの苦情、懲戒事案を予測するかどうかを、縦断デザインで確認する必要があります。予測しないのであれば、選別目的での使用は放棄すべきです。
第三に、日本語版の独立した検証です。翻訳版の使用ではなく、国内のプラットフォーム利用実態を反映した項目生成から始める必要があります。日本の学生調査が示す利用分布は、既存尺度の想定と大きく異なります。
第四に、対象の変化速度に対応する設計です。特定のプラットフォーム名に依存しない項目構成と、定期的な項目更新の手続きを組み込んだ尺度でなければ、数年で測定対象を失います。当面は、尺度による判定を保留し、行動の実態把握と対話を軸に据える運用が現実的です。
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終わりに
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