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2026年5月10日詳解②:Frimley Faucet:排水のない給水器が問う「シンクのある病室」の終わり(の始まり?)

皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年5月10日ー病院の院内給水システムと感染対策の結節点の詳解②:Frimley Faucet:排水のない給水器が問う「シンクのある病室」の終わり(の始まり?)についてです。


Executive Summary

Already Known(従来の理解)
病院のシンク・p-trap(排水トラップ)は、CPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科)や多剤耐性緑膿菌のリザーバとして、ICU・血液病棟を中心に世界各地でアウトブレイクの源となってきました。標準的なIPC対応は、p-trap交換、自己消毒型trap、過酢酸・次亜塩素酸ナトリウムによる定期消毒、教育・監査の組み合わせです。「シンクは病室にあって当然」「悪い使い方を是正すれば管理できる」が、過去40年の前提でした。

What's New(この知見が加えたこと)
2023年以降、英国Frimley Healthが、Wexham Park病院のICUで「水・排水安全ケア」を実装し、シンクと排水路を物理的に撤去・再設計する革新を行いました。中核技術はFrimley Faucet——排水経路を持たない、必要最小量のみを供給する給水器——です(1)。この介入は、2023年7月に発生したCPEアウトブレイクへの応答として始まり、2026年6月Infect Prev Pract誌に詳細が報告されました(1)。約24万ポンドを投じ、16床ICUの全シンクを撤去し、シャワー排水も患者が踏まない位置に移設するなど、シンクを「改良対象」ではなく「撤去対象」とする発想転換が中核にあります。Lowら(2)・Inksterら(3)のレビューが示すように、シンク撤去・水なしケアは過去5年の実施報告7〜8研究中、ほぼ全例でグラム陰性菌の感染・保菌減少を達成しています。

So What(だから何が変わるか)
「すべての病室にシンクを置く」という長年の前提を、CPEと多剤耐性緑膿菌の時代において維持できるか、という根本的な問いが感染対策専門家に突き付けられました。短期的にはICU・移植・血液病棟のシンクbasinを「医療従事者用の指定外シンク」と「患者ケア時はアルコール・拭き取り中心」のハイブリッド運用に切り替える判断、中期的には新築・大規模改修時の「設計段階での感染対策議論」へのICT介入が、新たな意思決定枠組みとして要請されます。


1. テーマの位置づけと意義

院内シンクは、医療従事者の手指衛生という感染対策の中核行為と、CPE・緑膿菌・非結核性抗酸菌のリザーバという感染源としての両義性を抱える、IPC領域における最大級のジレンマです。Garveyらは、ICU内の手洗いシンクから2メートル離れた場所まで水滴が飛散することを実証し、splash zone(飛散域)の概念を定量化しました(4)。Healyらは、清掃・消毒直後にdrain coverの培養菌は不検出になるものの、24時間以内に細菌遺伝子コピー数の80%が回復する冷徹なリアリティを定量化しました(5)。Tannerらは、CMR誌で、シンクドレインのバイオフィルムは標準的清掃・消毒に高度に抵抗性であり、解は感染管理単独でなく環境工学との学際的統合にあると結論づけました(6)。

Frimley Faucet(1)は、この長年のジレンマに対する、過去30年で最も急進的な工学的回答です。本テーマはIPC専門医にとって「最新製品の紹介」ではなく、「自施設のシンク戦略を、どこまで再設計するか」という意思決定の枠組みを問うものです。


2. 論文の深掘り分析

2-1. 従来の標準的理解

院内シンクをめぐる伝統的なIPC戦略は、4つの層で展開されてきました。

第1層は設計改善です。手洗いシンクは、水跳ね防止のための深いボウル形状、滞留水を作らないオーバーフローレス設計、患者・薬剤調製エリアからの距離確保、グースネック形状の蛇口位置などが、各国ガイドラインで標準化されてきました。日本集中治療医学会の「集中治療部設置のための指針2022」も、こうした原則を採用しています(20)。第2層は運用改善です。「シンクに廃液を捨てない」「シンクを清拭時に汚染しない」「使用後はpaper towelで蛇口を拭く」など、行動レベルの是正が手指衛生プログラムと並行して教育されてきました。Petkarらが報告した中東のNICUアウトブレイクでも、根本原因はシンクの不適切な廃液処理・清掃手順の不備でした(7)。

第3層は消毒・除染です。次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸、第四級アンモニウム化合物、水酸化ナトリウム発泡剤、自己消毒型trap、加熱消毒(80℃以上の温水)など、化学・物理介入が研究と実装の両面で蓄積されてきました。AliらのCPEに関するスコーピングレビュー(22研究)では、これらの単独介入は短期的にコンタミ量を減らせるものの、バイオフィルムへの長期効果は限定的と結論づけられています(8)。Anantharajahらのベルギー三次病院4年間の経過は、第四級アンモニウム剤と機器交換でも環境源は撲滅できず、最終的に発泡型バイオフィルム除去剤+過酢酸・過酸化水素の組み合わせで再汚染を抑制した実例として象徴的です(9)。英国NHS EnglandのHTM 04-01「医療施設における安全な水管理」(21)・米国CDCの医療施設給水管理チェックリスト(22)も、第3層・第4層を中核に据えた既存の枠組みを示しています。

第4層は多剤耐性遺伝子の生態学的理解です。Hennebiqueらは、フランスの2つのICUでシンクドレインバイオフィルム(sink drain biofilm, SDB)の微生物叢と耐性遺伝子(resistome)を月次解析し、微生物叢は大きく異なるのに耐性遺伝子プールは両ICU間で同等という、衝撃的な結果を報告しました(10)。これは「微生物叢を変えても耐性遺伝子の存在量は変わらない」ことを示し、清掃・消毒の限界を分子レベルで裏付けます。

`[JP]` 国内では、新築病院の患者室は依然として全床シンク標準装備が前提で、水なしケア(water-free care)を採用した施設はほぼ皆無です。日本環境感染学会の中村らによる「病院におけるWater Hygiene管理」レビューは、レジオネラ・緑膿菌・腸内細菌科・非結核性抗酸菌・ウイルスの多様な水媒介伝播経路を網羅的に整理していますが(19)、シンク撤去は推奨に含まれていません。

2-2. この知見が付け加えたこと

Callowらが2026年6月に報告したFrimley Faucet実装(1)は、以下の3層で従来の枠組みを上書きします。

第1層:撤去対象としてのシンク

英国Frimley Health傘下のWexham Park病院では2023年7月にCPE outbreakが宣言され、がんセンターとICUで多数の症例が確認されました。Frimley Health財団による調査の結果、病院の排水路が多剤耐性菌の「super highway」として機能していることが指摘されました(18)。これを受け、約24万ポンドのプロジェクトでICU 16床の全患者室シンクが撤去され、シャワー排水路は患者が踏まない位置へ移設、ドアハンドルはセンサー化されました(18)。Frimley Faucetは、シンクbasinとp-trapを持たない給水ユニットで、患者ケアに必要な少量の水のみを供給し、排水路をそもそも持たない設計です(1)。これは、「シンクは管理対象」というIPCの大前提を「シンクは撤去対象」へ転換する第一の構成要素です。

第2層:エビデンス収束

Lowらの2024年システマティックレビューは、5データベースから1980〜2024年4月までの文献を検索し、7件の準実験研究(合計332床)を抽出しました(2)。うち6件は成人ICU、1件はNICUで、5件(71.4%)はアウトブレイク後の介入として実施されました。水なし代替には、洗浄不要型清拭剤(6件、85.7%)、飲料用ペットボトル水(3件、42.9%)、口腔ケア(3件、42.9%)、経口薬の溶解(4件、57.1%)、医療従事者専用の「汚染シンク」設置(4件、57.1%)が含まれます。7件中5件(71.4%)でアウトブレイクが終息しました。Inksterらの2024年ナラティブレビューも7論文(うち5論文がGNR感染・保菌減少を報告)と並行する結果を示しています(3)。これらは個別研究の積み上げですが、Frimley Faucetが「実装可能なシステム」として現れたことで、前向き比較試験への移行段階に入りました。

第3層:エビデンス収束

Frimley Faucetの設計思想は、複数の周辺研究と整合します。Hamerlinckらは、Citrobacter freundii(OXA-48産生)が排水路ネットワークを介して同一病棟内・部屋間を1年半以上にわたり伝播した事例をWGS(全ゲノム解析)で立証し、洗浄槽そのものの撤去でなくとも排水管の連続性が伝播経路として決定的であることを示しました(11)。Cahillらのアイダホ州ICU報告では、4ヶ月間隔で同一病室を使用した2患者からCP-CRPA(ST235、IMP-84)が検出され、シンクスワブから同一株が同定されました(12)。Moulinらは、低発生地域での8床の脳神経外科準集中治療ユニットにおけるNDM産生Klebsiella pneumoniaeのアウトブレイクを、水なしケア・p-trap交換・蒸気消毒の組み合わせで6ヶ月以内に終息させました(13)。これらは、排水路を介した持続的伝播が偶発的事象でなく構造的事象であることを、世界各地で並行して立証しています。

さらに、Garveyらは英国バーミンガムのQueen Elizabeth病院(QEHB)のICUで、シンクから2m範囲のair samplerによる調査を実施し、蛇口作動時のみグラム陰性菌の培養が陽性化し、blaIMP-1を保有するC. freundii(QE-SINK-CF1)も検出されることを実証しました(4)。これは「シンク使用時こそが患者・周辺機器への汚染瞬間」であることを、空気サンプリングで定量した極めて重要な実証データです。Healyらは、シンクbasin・drain cover・drainpipe・p-trapから飲料水・パイプ液まで網羅的にサンプリングし、清掃直後でも細菌遺伝子コピー数が24時間以内に80%まで回復することを立証しました(5)。Tannerらの2025年CMR誌レビューはこれらを統合し、「シンクドレイン除染の多くは科学的根拠に乏しい運用」と総括しました(6)。

`[JP]` Nakamuraらは、東京医科大学病院の一般内科病棟で、新規シンク設置から1年間にわたる細菌汚染パターンを追跡しました(14)。設置後1週間以内にdrainpipeにPseudomonas等の病原体汚染が確認され、蛇口も2週間後に汚染、その後clearingと再汚染を12ヶ月間繰り返しました。臨床使用シンクのほうが休憩室シンクより汚染持続性が高いという、日本での貴重な実測データです。

2-3. 批判的吟味:研究デザインと解釈の妥当性

Frimley Faucet報告(1)自体は単一施設のbefore-after実装報告であり、ランダム化比較試験ではありません。CPE保菌率・感染率の長期定量データはまだ公表されていません。したがって、純粋にエビデンスのhierarchyで判断すれば、現時点では「概念実証(proof of concept)」段階にあります。

しかし、本介入を評価する際には、3つの方法論的留意点があります。

第一に、シンク撤去・水なしケアの研究は、ほぼすべてが控えめな研究デザイン(準実験的, quasi-experimental)です。これは「シンク撤去」介入の倫理的・実務的特性によります。アウトブレイク対応として緊急実装される性質上、対照群の設定が困難で、クラスターRCTレベルのデザインは現実的に組めません。Lowら(2)・Inksterら(3)のレビューが示すように、エビデンスの質は限定的ながら結果の方向性は一貫している点を評価すべきです。

第二に、水なしケアへの代替手段の品質保証です。洗浄不要型清拭剤、ペットボトル飲用水、アルコール含浸の口腔ケア材料などへの代替は、製品品質と運用統制が前提です。Lowらのレビューが指摘するように、これらの代替の長期コスト・患者経験・職員受容性データはまだ未成熟です(2)。

第三に、シンク撤去がもたらす二次効果です。手洗いシンクが減ることで、医療従事者の手指衛生compliance低下リスクは慎重に評価する必要があります。代替としてアルコール手指消毒剤への完全シフトが必要ですが、Clostridioides difficileなどアルコール非感受性病原体への対応では水洗いが推奨される場面が依然存在します。Frimley Faucet(1)は、医療従事者用の指定外シンクを別途確保することでこの懸念に対応しています。

日本における実装課題:

  • 設計段階の不在:本邦の急性期病院新築は、依然として全患者室シンク標準装備を前提とした診療所開設指針に基づいており、water-free設計を初期spec-inする選択肢が制度的に明示されていません。

  • AMR対策計画の射程不一致:本邦のAMR対策アクションプラン(厚生労働省)は抗菌薬適正使用と耐性菌サーベイランスが中心で、built environment(建造環境)への投資は射程外に置かれています。

  • 工事期間中のIPC:シンク撤去・配管工事はICU運用に重大な影響を与えるため、tertiary careでの実装には病棟一時閉鎖を含む計画が必要です。本邦の高い病床稼働率下での実装は、現実的なハードルが高い領域です。


3. 臨床的思考の深化と再構築(パラダイム転換型)

3-1. 臨床意思決定の再配線

Frimley Faucetが正しいと仮定した場合、IPC意思決定ツリーの以下の分岐が具体的に変わります。

新規ICU・血液病棟・移植病棟の設計時:

  • 旧:「シンク数は患者室1床あたり1基(手洗い基準)+ 医療従事者ステーション分」

  • 新:「ハイリスク領域は水なしケアを基本spec-inとし、医療従事者用シンクのみを共通エリアに集約。患者室にはFrimley Faucetまたは同等の排水なし給水器を配置」

既存施設のCPE/MDRO outbreak対応時:

  • 旧:「環境調査→p-trap交換→消毒プロトコル強化→1〜2ヶ月後再評価」

  • 新:「環境調査と並行して、source termの恒久的撤去(シンク撤去・water-free shift)を選択肢として最初から提示。患者保護のための一時的退室を含む計画を立案」

新築計画段階のICT介入:

  • 旧:「設備・建築チームから設計案が提示された後にIPCがレビュー」

  • 新:「設計段階の上流(concept design)からICTが参画し、シンク数・配置・water-free options・splash zoneの定量評価を最初の設計要件として組み込む」

手指衛生プログラム設計時:

  • 旧:「手洗いシンクへのアクセシビリティを最大化(30秒以内アクセス)」

  • 新:「アルコール手指消毒剤を第一手段とし、水洗いが必須の場面(visible soiling、C. difficile対応)に限定して指定外シンクを使用」

これらの分岐は、いずれも「シンクは病室に必要な設備」という旧前提を、「シンクは限定的に配置すべき高リスク設備」という新前提に置き換えるものです。Virieux-Petitらの解析(15)が示すように、Pa-BSIの環境寄与は実は15%にとどまるとはいえ、CPEの環境寄与は依然として高く(11,12,13)、患者集団によって戦略を切り替える発想も同時に要求されます。

3-2. 移行期の臨床的不確実性

新旧パラダイムが併存する2026年現在、IPC専門医に求められる判断は以下の通りです。

第一に、エビデンス強度の差を冷静に扱うこと。Frimley Faucet(1)は単施設実装報告であり、現行ガイドライン(CDC NHSN、SHEA、英国HTM 04-01、本邦の医療施設感染管理ガイドライン)はシンク撤去を必須として推奨していません。「自施設で導入する」という判断には、院内IPC委員会での合意形成と、施設固有のリスク評価が前提となります。Aliらのスコーピングレビュー(8)が示すように、「水なし環境を採用した施設は効果を示しているが、対照群との比較を含む多施設研究はまだ限定的」というのが2026年時点の知見の到達点です。

第二に、ガイドライン改訂までのタイムラグを見越すこと。CDC・SHEA・英国HTM 04-01等の主要ガイドラインが水なしケアやFrimley Faucetを正式に推奨に格上げするのは、おそらく2027〜2028年以降と予想されます。それまでの期間、自施設で先行導入する場合は、(a) 院内倫理委員会・感染対策委員会・看護部の三者合意、(b) 失敗時のロールバック計画、(c) 患者・家族への説明文書の整備、を並行して進める必要があります。

第三に、施設間格差を直視すること。新築・大規模改修を計画している施設と、築30年以上の老朽病棟を運用している施設では、Frimley Faucet実装の実現性が桁違いに異なります。後者では、まずsplash zone評価とシンク統廃合(高リスク患者室のシンクを使用停止し、共用シンクに集約)から着手するのが現実的です。「全棟一斉実装」を目標にせず、ハイリスク領域を起点にした段階的実装が、現実的な移行戦略です。

サブタイプ(盲点照射)の視点では、Healyらのデータ(5)・Tannerらのレビュー(6)が示すように、「日々の清掃が効いている」というIPC側の暗黙の信念そのものが科学的根拠に乏しく、運用論議のフレームを移行させる必要があります。具体的には、シンク清掃手順の効果検証を、表面培養(清掃直後)から24時間後・48時間後の経時サンプリングへ移行する、定量PCRや次世代シーケンサーでバイオフィルム量と組成を追跡する、といった評価方法の更新が必要です。Hennebiqueらが示したように(10)、目に見える表面の清浄さと、下水路深部のresistomeとの間には大きな乖離があり、表面ベースのKPIでは耐性遺伝子プールの実態を捕捉できないという根本的な限界があります。

第四に、患者側の体験への影響評価です。シンクが患者室から消えることは、家族・見舞客の手洗い動線、患者自身の歯磨き・洗顔、急変時の血液・体液処理など、入院体験全体に影響します。Frimley Faucet(1)の運用報告は、教育とトレーニングを「coupled with」と明記しており、ハードウェア変更だけでは完結しないことを強調しています。患者経験指標(patient-reported experience measure, PREM)への組み込みも、移行期の品質保証として要請されます。

3-3. 波及効果の見積もり

Frimley Faucetへの転換は、IPC領域を超えて以下の隣接領域に波及します。

設備・建築領域: 水なし設計は、給排水配管総延長の縮減、p-trap・cleanout設備の削減を伴い、新築コストには影響を与えますが、長期的には配管メンテナンスコスト削減と、漏水・腐食リスクの低減という副次効果を生みます。Frimleyの24万ポンド投資(18)はアウトブレイク終息費用として評価されました。

サステナビリティ領域: 給水量削減は、脱炭素・節水政策と整合的です。Frimley Faucet(1)が「持続可能な解(sustainable solution)」を強調するのは、IPC・環境・経営の3つのKPIを同時に満たす設計思想を意識したためです。本邦の脱炭素化目標と整合させる文脈でも、IPC視点からの節水提案は、病院経営層への説得材料となります。

看護ケア領域: 入浴・口腔ケアの方法変更は、看護プロトコルの全面改訂を伴います。洗浄不要型入浴用清拭剤や口腔ケア用キットの導入は、看護部門との合意形成・教育・評価が必須で、これはICT単独では完結しません。患者経験への影響評価も並行して必要です。

抗菌薬適正使用領域: CPEとの戦いは、CIDが扱う個別治療と、IPCが扱うシステム介入の両輪で展開されます。Frimley Faucetはシステム側からの根本介入であり、治療側のcarbapenem-sparing戦略と相互補完的に機能します。

ただし、波及範囲は限定的な領域もあります。一般病棟(低リスク)・外来・通常入院では、シンク撤去のメリットは限定的で、コスト・運用混乱に見合いません。Frimley Faucetの真価はICU・血液病棟・移植病棟・NICUなど高リスク領域での実装にあります。Virieux-Petitらの研究(15)が示したように、Pa-BSIの環境寄与は施設全体では15%にとどまるため、低リスク領域への一律展開は費用対効果上正当化が難しいと判断されます。波及効果の見積もりは、患者集団リスク・施設運用状況・耐性菌動向の3軸で動的に行うべきであり、「全棟一斉撤去」という極端解は実装現実を無視しています。

最後に、IPC領域内部での波及として重要なのは、サーベイランスKPIの再設計です。従来「シンクp-trap培養陽性率」をKPIとしていた施設は、シンクが物理的に消失すれば、このKPI自体が無効化されます。代わりに「水なしケア導入後の水関連HAI発生率」「医療従事者手指衛生compliance率」「アルコール手指消毒剤消費量」などへ、KPI体系を再構築する必要があります。これは品質指標の根本的な再設計を伴う作業です。


4. 今後の展望:何がわかれば決着するか

Frimley Faucet実装の有効性を「決着」させるためには、次の3つのエビデンス層が必要です。

第一に、多施設前向き比較研究です。複数のICUで同期的にwater-free careを実装し、CPE・MDR-PA・NTM保菌・感染率を、対照施設と比較するcluster RCTまたはstepped-wedge designが理想です。倫理的にはoutbreak setting以外では実施が難しく、英国・オランダ・ベルギーなどimplementation先進国でのpragmatic trial設計が現実的な次の一歩です。

第二に、コスト効果分析です。Frimleyの24万ポンド投資(18)に対し、回避できた感染症例数・在院日数・追加抗菌薬費用・死亡を定量し、増分費用効果比(incremental cost-effectiveness ratio, ICER)として算出する経済評価が必要です。AliらのCPEに関するスコーピングレビュー(8)は、「資源集約的な介入」と評価しつつも、生涯費用との比較データは未整備と指摘しています。

第三に、新興技術との統合評価です。H2O2発泡型disinfectionの効果(16)、far UV-C技術の効果(17)など、シンクを残しつつ新技術で対応する選択肢と、Frimley Faucet型の根本撤去戦略を、同条件下で比較する研究が必要です。

それまでの間、IPC専門医・指導医に求められるのは、自施設のシンク戦略を「一律に維持する」という思考停止から脱却し、患者集団・施設状況・耐性菌動向に応じた動的な再配置を計画することです。Frimley Faucet(1)は答えではなく、「シンクを当然視するな」という問いの形で機能します。本邦においても、新築・大規模改修を計画している急性期病院は、設計初期段階からICTが参画し、ハイリスク領域でのシンク数・配置・水なしケアオプションの検討を、設計要件として明示的に組み込むことが、次の10年の差別化要因となるはずです。


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  20. 日本集中治療医学会. 集中治療部設置のための指針2022. 日集中医誌. 2022;29:467-484.
    Available from: https://www.jsicm.org/publication/pdf/ICU-kijun2022.pdf

  21. NHS England. Health Technical Memorandum 04-01: Safe water in healthcare premises. London: NHS Estates; 2016 (revised 2024).
    Available from: https://www.england.nhs.uk/publication/safe-water-in-healthcare-premises-htm-04-01/

  22. Centers for Disease Control and Prevention. Reduce Risk from Water: Healthcare Facility Water Management Program Checklist. Atlanta: CDC; updated 2024.
    Available from: https://www.cdc.gov/healthcare-associated-infections/media/pdfs/PHS-ReduceWaterRisk-ChecklistTool-508.pdf


終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。

本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。

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