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2026年3月13日詳解②:職種間権力構造と多職種連携教育

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本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年3月13日ー医療現場における多職種連携教育のエビデンス基盤の現状と限界の詳解②:職種間権力構造と多職種連携教育についてです。


1. なぜこの知見が重要か

多職種連携教育(IPE)は「対等な立場で共に学ぶ」ことを理念的前提としていますが、医療現場に深く根を下ろした職種間の権力格差(Power Hierarchy)は、教室の中にも持ち込まれます。医師が暗黙の「チームリーダー」と見なされ、看護師や他の医療専門職が「チームメンバー」として位置づけられるという非対称性は、IPEの学習効果そのものを規定する構造的要因です。にもかかわらず、IPE研究の主流はこの権力構造を「制御すべき交絡因子」としてではなく、「存在しないもの」として扱ってきた歴史があります。Paradis & Whiteheadが2015年に1954〜2013年の60年間にわたるIPE文献を分析した結果、権力と紛争に関する議論が組織的に回避されてきたことを明らかにして以降、批判的視座の導入は徐々に進んできました。しかしその進展は緩やかであり、権力構造が「いかに」学習プロセスの中で作動し、「いかに」変容し得るかを実証的に示した研究は依然として少数に留まっています。2025〜2026年の最新研究は、シミュレーションデブリーフにおける言説分析、プライマリケアにおけるリーダーシップ—フォロワーシップの動態、そして初年次学生の省察記述における階層認識の分析を通じて、この権力構造の実態と変容の可能性を新たな方法論で描き出しています。


2. 論文の深掘り分析

2-1. テーマの現在地:従来の標準的理解

IPEにおける権力構造の議論は、Bakerらの2011年の先駆的研究に遡ります。彼らはWitzの「専門職閉鎖(Professional Closure)」モデルを用いて、IPEへの参加態度が職種によって根本的に異なることを示しました。すなわち、医師はIPEを自らの権威への脅威として知覚する傾向がある一方、看護師やリハビリテーション職はIPEを自職種の地位向上(Usurpation:簒奪戦略)の機会と捉える傾向があるというものです。また、医師のIPE不参加は権威を維持するための「境界画定戦略(Demarcation Strategy)」として機能し得ることも指摘されました。この分析は、IPEが「中立的な学習空間」であるという素朴な前提を根底から覆すものでした。

その後、Paradis & Whitehead(2018)は「Beyond the Lamppost」において、IPEの歴史を3つの「波」に整理し、現在の第3波が「個人を修正することで医療を修正する」というアプローチに依拠していることの限界を指摘しました。彼らが提唱した「第4の波」は、教育の焦点を個人の態度変容からワークプレイスのシステムと構造の変革へと移すことを求めるものです。その中で特に強調されたのが、IPEが権力と紛争を直視しないまま推進されてきたという問題です。彼らの分析によれば、IPEは(1)物流的に複雑でコストが高く、(2)発達段階的に不適切な場合があり、(3)アウトカムとのリンクが欠如し、(4)理論的関与が不足し、(5)権力と紛争を無視し、(6)医療システムの慣性に対抗できないという6つの構造的脆弱性を抱えています。

しかしながら、権力構造の「存在」を指摘することと、それが「いかに」IPEの中で作動し、「いかに」変容し得るかを実証することは、まったく別の課題です。2025年以前の研究は、前者に偏重していたと言わざるを得ません。権力構造の作動メカニズムとその変容プロセスを経験的に解明する研究は、いまだ発展途上にありました。Chauhanらの2025年のMedical Education誌のコメンタリーが提唱した「システム思考(Systems Thinking)」アプローチ——個人の発達と「非公式な浸透(Informal Osmosis)」に頼るのではなく、意図的・参加的な役割、プロセス、システムの設計を重視する——は、この研究ギャップを埋めるための理論的方向性を提示しています。

2-2. 新たな知見:この報告が付け加えたこと

Zordaらの2026年の研究は、この空隙を埋める重要な一歩です。彼らは批判的言説分析(Critical Discourse Analysis: CDA)を方法論的基盤として、多職種学生チームのシミュレーションデブリーフセッションの言説を精密に分析しました。分析の中核にはIPECコアコンピテンシーを用いたコーディングが据えられ、「功利主義的言説(Utilitarian Discourse)」と「解放的言説(Emancipatory Discourse)」の二項対立を分析枠組みとしています。

注目すべきは、2回のデブリーフセッションの間に質的な変容が観察された点です。第1回のデブリーフでは功利主義的言説が優勢であり、参加者は個人の不安や不確実性を表出し、チームとしての凝集性は緩やかでした。この段階では、各職種が自らの役割の境界を確認し合うプロセスが支配的であり、暗黙の職種間序列が維持されたままでした。具体的には、医学生が診断や治療計画に関する発言を優先的に行い、他職種の学生がそれに追随するというパターンが言説の中に読み取れます。しかし第2回のデブリーフでは、言説パターンが解放的言説へと移行し、自己への焦点がチーム全体の患者ケアへの焦点にシフトし、チーム凝集性が向上する様子が観察されました。最も重要な知見は、第2回セッションにおいて特定の職種による支配的なヒエラルキーが消失し、「流動的リーダーシップ(Fluid Leadership)」が発現したことです。つまり、状況に応じて異なるメンバーがリーダーシップを取る動態が自然発生的に生じたのです。この変化は、シミュレーション体験とそれに続く構造化されたデブリーフという教育的介入が、権力構造の一時的な「解凍」を可能にし得ることを示唆する重要な知見です。

Zhangらの2025年のスコーピングレビューは、この「流動的リーダーシップ」の概念をプライマリケアの文脈で検証しています。PubMed、Embase、Web of Scienceの3つのデータベースを横断して57件の文献を分析した結果、きわめて示唆的な事実が明らかになりました。「リーダーシップ」を明示的に定義した論文はわずか2件、「フォロワーシップ」に言及した論文は皆無だったのです。この圧倒的な「不在」は、IPEの文脈においてリーダーシップが「当然のこと」として暗黙に了解され、理論的検討の対象とされてこなかったことの証左です。にもかかわらず、分析からは、ケアの複雑性の増大や医師不足を契機として、医師から他の医療チームメンバー(Other Health Care Team Members: OHCTMs)へのリーダーシップ移行と、逆に医師がフォロワーシップの役割を取るという動態が現実に生じていることが報告されています。この「リーダーシップ—フォロワーシップの転換」を促進する要因としては、医師がOHCTMsを信頼していること、協働実践契約の存在、医師の多職種連携経験が同定され、障壁としては伝統的ヒエラルキー、OHCTMsのコンピテンシー不足、医師の協働経験の欠如が挙げられています。

さらに興味深いのは、Kvarnströmらの2025年の研究です。スウェーデンのリンショーピング大学において、初年次の医療系学生がIPEモジュールの一環として執筆した省察記述を、反省的主題分析(Reflexive Thematic Analysis)の手法で分析した結果、4つのテーマが浮かび上がりました。「コミュニケーションの基盤的重要性」「専門知識の共通基盤」「ワークグループ内の信頼構築」、そして「変化する医療のヒエラルキーのナビゲーション」です。特に最後のテーマにおいて、学生たちは将来の職場における職種間の力関係について高い意識を示し、それを「乗り越えるべき障壁」としてだけでなく「変化しつつある動的な現象」として捉えている点が重要です。教育歴がわずか数ヶ月の初年次学生が、すでに職種間の権力構造を認識し、それを言語化できるという事実は、権力構造の知覚が職業的社会化の極めて早期の段階で形成されることを示唆しています。言い換えれば、IPEが「階層を打破する」ことを目標にする場合、介入は学生がまだ柔軟な段階——すなわちプロフェッショナルアイデンティティが固まる前——で行う必要があるという実践的含意を持ちます。

2-3. 批判的吟味:研究デザイン妥当性、バイアス、残るギャップ

Zordaらの研究は、CDAという社会言語学的手法をIPE研究に適用した意欲的な試みですが、いくつかの限界を含んでいます。第一に、単一施設の限定されたデブリーフセッション(サンプルサイズの記載なし)に基づいており、観察された言説パターンの変化が一般化可能かどうかは不明です。CDAは本来、少数の言説を深く分析することに適した方法論であり、広範な一般化を目的とするものではありませんが、それでもなお、この知見を他の文脈に外挿する際には慎重さが求められます。第二に、「功利主義的」から「解放的」への言説シフトが、IPEプログラムの効果なのか、単なるチーム発達の自然なプロセス(Tuckmanのステージモデルにおける「形成期」から「機能期」への移行)なのかの峻別が不十分です。第三に、CDAにおける分析者の主観性は方法論的に不可避であり、コーディングの信頼性に関する報告が限定的である点も留意すべきです。

Zhangらのスコーピングレビューは、JBI方法論に準拠し3名の独立したレビュワーが適格性を評価するなど方法論的厳密さを備えていますが、リーダーシップを定義した論文がわずか2件、フォロワーシップを定義した論文が0件であったという事実は、レビュー結果の解釈に制約を課します。リーダーシップ—フォロワーシップの動態は、レビュワーの推論によって「読み取られた」側面が強く、一次研究において明示的に測定・報告されたものではありません。この「不在のデータから推論する」という方法論的限界は、フォロワーシップ研究がIPEの文脈でいかに未発達であるかを逆説的に裏付けていますが、同時にエビデンスの確実性を限定するものです。

Kvarnströmらの研究は質的方法論として適切に設計されていますが、省察記述が「学生が本当に考えていること」ではなく「教員が期待する回答」を反映している可能性(社会的望ましさバイアス)は否定できません。初年次学生が「ヒエラルキーのナビゲーション」というテーマを言語化できたという事実は、それ自体が教育的介入の効果なのか、あるいは入学前の社会的認知の反映なのかも区別が困難です。さらに、スウェーデンのリンショーピング大学という、IPEの先進的実践で世界的に知られる機関で実施された研究であるという文脈は、結果の一般化可能性を考える上で重要な留意点です。IPEが制度的に成熟した環境で観察された現象が、IPEの導入初期にある機関でも同様に観察されるかどうかは検証が必要です。

これら3つの研究に共通する方法論的課題は、いずれも「一時点の断面」を捉えているという点です。Zordaらは2回のデブリーフ間の変化を観察していますが、その変化が教育プログラム終了後も持続するかは追跡されていません。Zhangらのスコーピングレビューも横断的研究の集積であり、リーダーシップ—フォロワーシップの動態が時間の経過とともにどう変化するかは明らかにされていません。権力構造の変容を真に理解するためには、縦断的デザインによる追跡研究が不可欠であり、これは今後の研究において最も優先されるべき方法論的課題です。

2-4. 探求すべき問いと視点

これらの研究群が喚起する最も根本的な問いは、「IPEは権力構造を変えることができるのか、あるいはIPE自体が権力構造を再生産する装置なのか」というものです。Kuper & Whitehead(2012)が提起した「IPEは医師の権力を維持するメカニズムとして機能しているのではないか」というパラドキシカルな問いは、いまだに十分に検証されていません。IPEのカリキュラム設計、ファシリテーターの選定、評価方法の決定において、医学部が主導権を握る傾向があるという構造的現実は、この問いの切実さを裏付けています。Zordaらの知見は「流動的リーダーシップ」の萌芽を示しましたが、それがシミュレーション環境という「安全な空間」を超えて臨床現場に転移するかどうかは未知数です。

Kuipersらの2025年の研究は、この問いに新たな角度から接近しています。歯学・歯科衛生学の学生を対象とした研究で、Extended Professional Identity Scale(EPIS)を用いて測定された多職種アイデンティティ(Interprofessional Identity: IPI)が強い学生グループは、弱い学生グループよりも多くの「スピーキングアップ」行動(懸念の表明やアイデアの共有)を示すことが確認されました。具体的には、混合職種グループが8つの会話トピックについてアイデアを出し合う課題において、IPI強群は弱群よりも多くのアイデアを生成しました。さらに、会話トピックの性質によってIPIが「トリガー」される程度が異なることも確認されています。この知見は、権力構造の中で「声を上げる」行動が個人の態度だけでなく、集団のアイデンティティ強度に依存するという重要な示唆を提供しています。つまり、多職種アイデンティティの形成(Interprofessional Identity Formation: IPIF)が権力構造への介入メカニズムとして機能し得る可能性があるのです。IPIFを意図的に促進する教育デザインの開発は、権力構造への間接的だが持続的な介入戦略として、今後の研究と実践の両面で重要性を増すでしょう。

さらに、Rudbergらの2026年の概念分析は、多職種間コミュニケーションの先行要件としてリーダーシップ、文化的理解、非公式コミュニケーション、透明性、そしてヒエラルキーを同定しており、権力構造がコミュニケーションの質を媒介してチームパフォーマンスに影響するという経路を概念的に明確化しています。特に同研究は、精神科外来ユニットにおける観察研究とフォーカスグループからの経験的データを理論的探索と統合するハイブリッドモデルを採用しており、概念分析の域を超えた実証的基盤を有している点が注目に値します。この知見は、権力構造への介入が直接的にヒエラルキーを「解体」することを目指すのではなく、コミュニケーションの質を向上させることで間接的に権力の非対称性を緩和するというアプローチの可能性を示唆しています。


3. 臨床的思考の深化と再構築

3-1. 既存知識との衝突と融合

IPEの主流的議論は、多職種が「共に学ぶ」ことで相互理解が深まり、協働が改善されるという楽観的な前提に立っています。IPECのコアコンピテンシーVersion 3も、「価値観と倫理」「役割と責任」「コミュニケーション」「チームワークとチーム基盤型実践」の4領域にわたる33のサブコンピテンシーを定義していますが、これらは「権力構造が存在しない理想的環境」を暗黙の前提としています。しかし、今回の研究群が描き出す現実はより複雑です。「共に学ぶ」という行為自体が既存の権力構造の中で行われる以上、教育的介入は権力構造を再生産する可能性と変革する可能性の両方を内包しています。

Graells-Sansらの2025年のスペインにおける看護師の社会的位置づけに関する構造的理論研究は、この複雑性を鮮やかに描出しています。同研究は、看護専門職の位置づけが(1)ケアの象徴的・歴史的過小評価、(2)専門職リーダーシップへの家父長制的影響、(3)職種内ヒエラルキーとテクノクラティックな影響、(4)専門職としての威信・権威・承認に関する内在化された障壁という4つの交差的次元によって規定されていることを明らかにしています。重要なのは、権力の非対称性が「職種間」だけでなく「職種内」にも存在するという点です。IPEが「医師vs.他職種」という単純な二項対立を超えて、より複雑な権力のマトリクスを認識する必要があることを示唆しています。

この知見を、Zordaらの「解放的言説への移行」と照合すると、興味深い緊張関係が浮かび上がります。シミュレーション環境で観察された流動的リーダーシップの発現は、現実の臨床環境——制度的慣性、法的責任の分配、診療報酬構造などが権力構造を制度的に固定化している——にそのまま転移するとは限りません。IPEの「成功」をシミュレーション空間で測定することの限界は、まさにこの制度的文脈の欠如に起因します。

3-2. 臨床推論の解像度向上

Zhangらのフォロワーシップ研究は、IPEの議論に新しい概念的ツールを提供しています。従来、IPEにおける「リーダーシップ」は暗黙のうちに「医師がリードする」ことを前提としており、「共有リーダーシップ」や「分散リーダーシップ」の概念は理想として語られることはあっても、体系的に研究されることはほとんどありませんでした。Zhangらが「フォロワーシップ」——すなわち、リーダーに追従する能動的な役割——を分析の俎上に載せたことの意義は大きいと言えます。

フォロワーシップの概念は、リーダーシップが一方向的な影響力の行使ではなく、リーダーとフォロワーの間の動的な相互作用であることを前提とします。医師がある場面でリーダーシップを取り、別の場面では薬剤師や看護師のリーダーシップに「フォロー」するという動態は、チーム医療の現場では日常的に観察されるものです。たとえば、抗菌薬選択において感染症専門医がリードし、投与量調整においては薬剤師がリードし、患者の全身状態の変化に対しては病棟看護師がリードするというパターンは、多くの臨床家が経験的に認識しているはずです。しかし、この動態はこれまで「リーダーシップ」の文脈でしか語られてこなかったため、「フォローする側」の能動的な貢献——リーダーの意思決定を支持し、情報を提供し、必要に応じて建設的に異議を唱える——が理論的に不可視化されてきました。

この「フォロワーシップの不可視性」は、IPE研究と臨床実践の双方において重大な盲点であり、Kvarnströmらの研究が同定した「ヒエラルキーのナビゲーション」というテーマとも深く関連しています。初年次学生がすでに認識している職種間のヒエラルキーは、「誰がリードし、誰がフォローするか」というナラティブの中で内面化されています。IPEがこの内面化されたナラティブを「解凍」し、リーダーシップとフォロワーシップの流動性を体験的に学ぶ機会を提供できるかどうかは、IPEの教育効果を左右する核心的な論点です。

3-3. エビデンス評価軸の洗練(メタ認知)

今回の研究群を評価する際に注意すべきは、「批判的」研究の知見を「処方的」に読み替えることの危険性です。CDAやフォロワーシップ分析は、現象の構造を記述・解釈するための方法論であり、「これを行えば権力構造が変わる」という処方箋を直接的に導出するものではありません。にもかかわらず、IPE研究のコミュニティには「エビデンスに基づく実践」のロジックが強く染み込んでおり、批判的研究の知見をそのまま実践的介入へ変換しようとする傾向があります。この変換には、記述的研究から規範的提言への飛躍という論理的ギャップが含まれることを常に意識すべきです。

一方で、批判的研究の蓄積が一定の閾値を超えたとき、それは研究パラダイム全体の転換を促す力を持ちます。Paradis & Whiteheadの「第4の波」の提案はまさにこの性質のものであり、個々の実証的知見を積み上げるのではなく、問いの立て方そのものを変えることを要求しています。今回の研究群——Zordaらの言説分析、Zhangらのフォロワーシップマッピング、Kvarnströmらの初年次省察分析——は、いずれもこの「問いの転換」に貢献するものとして位置づけられます。

もう一つ重要な評価軸は、「誰の視点から」権力を分析するかという反省性(Reflexivity)です。IPE研究の圧倒的多数は英語圏の西洋的文脈で行われており、そこでの「ヒエラルキー」の意味は、たとえば日本のような年功序列や職種間の制度的序列が強い文化圏とは異なる可能性があります。日本の医療現場における多職種連携の権力構造は、西洋的な「医師支配」モデルとは異なる形態——たとえば、診療科間の序列、医局制度の影響、チーム医療推進における看護師のゲートキーパー的役割、あるいは「和」を重んじる文化的規範の中で対立が表面化しにくいという構造——を取る可能性があり、西洋発の批判的分析をそのまま移植することへの留保が必要です。IPECコンピテンシーVersion 3が「社会正義」や「健康公正」を強調している点は評価に値しますが、「公正」の定義が文化的文脈によって異なり得ることへの感度は、グローバルなIPE推進において今後さらに重要になるでしょう。

3-4. 新たな視座の獲得

今回の研究群から得られる最も重要な視座は、「権力構造の変容はオン・オフのスイッチではなく、連続的なプロセスである」という認識です。Zordaらの研究が示した功利主義的言説から解放的言説への段階的シフトは、権力構造が「打破される」のではなく、相互作用の中で「交渉され、再構成される」ものであることを示唆しています。この視座は、IPEの目標を「ヒエラルキーの排除」から「ヒエラルキーの意識化と流動化」へと再定義することを促します。完全にフラットな組織は現実の医療現場では機能しない場面もあり(たとえば緊急時のコマンド構造)、重要なのは「固定化されたヒエラルキー」と「状況適応的なヒエラルキー」の区別を教育の中で明示的に扱うことです。

Kuipersらの多職種アイデンティティ研究が示唆するように、スピーキングアップ行動の促進は、外的な制度変革だけでなく、内的なアイデンティティ形成を通じても達成可能です。多職種アイデンティティが強化されたチームは、個々のメンバーが自らの職種的立場を超えてチーム全体の目標のために発言する傾向が高まります。これは、権力構造に「対抗する」のではなく、権力の基盤そのものを「多職種アイデンティティ」という新しい源泉へと転換する戦略として解釈できます。この転換が、個人の専門職アイデンティティを犠牲にすることなく達成できるかどうか——すなわち「二重アイデンティティ(Dual Identity)」の形成可能性——は、今後のIPE研究における中心的な問いとなるでしょう。

Zhangらのフォロワーシップ研究が明らかにした「リーダーシップ—フォロワーシップの転換」の現象と合わせて考えると、未来のIPEは、すべての参加者がリーダーシップとフォロワーシップの両方を状況に応じて柔軟に行使できる能力——いわば「バイリンガルリーダーシップ」——の育成を目指すべきかもしれません。この能力は、既存の権力構造を直接解体するものではありませんが、構造の中で最適に機能し、同時にその構造を内側から漸進的に変容させる力を個人に与えるものです。


4. 継続的な探求に向けて

職種間の権力構造は、IPEが直面する最も根深い課題の一つであり、その解決には教育学、社会学、組織行動学、政策学の学際的アプローチが不可欠です。今回取り上げた研究群は、この課題に対して批判的言説分析、スコーピングレビュー、省察的記述分析という多様な方法論からアプローチし、それぞれ異なる角度から権力構造の輪郭を浮かび上がらせました。今後の研究が特に注力すべき領域として、フォロワーシップの体系的理論化と測定ツールの開発、多職種アイデンティティ形成と権力構造変容の縦断的関係の解明、そしてシミュレーション環境で観察された言説シフトの臨床現場への転移可能性の検証が挙げられます。加えて、非西洋的文脈における権力構造の固有性を考慮したIPEモデルの開発は、グローバルなIPE推進にとって不可欠な課題です。Paradis & Whiteheadの「第4の波」が投じた問いかけ——教育で個人を変えるのか、システムを変えるのか——に対する答えは、おそらく「両方を、しかし適切な順序と連動で」というものになるでしょう。権力構造の変容は世代を超える長期的プロジェクトですが、「気づくこと」——そしてその気づきを言語化し、共有し、教育的実践に組み込むこと——がその第一歩であることは間違いありません。


References

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終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。

本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。

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