メディア企業のオーディエンスデータ事業が新たな収益になる難しさ
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(この記事は2026年1月9日 11:57まで無料登録せずに読めます)
これまで、このTBSのグループやその他の「マス」メディア企業の新規事業開発を手伝ってきた経験から考えてきたことを、以下私見として書いておこうと思う。
そうしたメディア企業を手伝うきっかけとなったのは、私自身が米国のプラットフォーマーやアドテク企業に関わってきた背景も要因にある。そして、そうしたメディア企業は、(特にデジタルとメディア事業においては)プラットフォーマーを常に意識している。そして、その意識は、「オーディエンスのIDを集めて事業化する」という“新規事業”のほうへと向かう傾向がある。
おそらく大々的に始めたのは日経で、日経グループのメディアやセミナーは日経IDの登録が必要となっているので、登録している人も多いだろう。その後朝日新聞やあちこちの「マス」メディアがID収集を始めた。ただ、「(新たな事業として)上手くいってる」という話をほとんど聞かない。
「マス」メディアが、“マス”だけではダメで、そこに集まるオーディエンスをセグメントしてターゲティングした事業をしたいというニーズがあるのはわかるし、データによって新たな収益を得たいというのもわかる。また、日経新聞のように複数のメディアを持つ企業にとっては、メディア間の送客とイベント・セミナー集客に役立たせることに意味はあるだろう。しかしそれは、「メディア企業のマーケティングコストを低減」させることには役立つが、新たな「レベニュー」になるには、いかんせん規模が小さくなってしまう。
ただ、これまでこのあたりのサービス開発を手伝ってきた身からすると、「マス」メディアが「プラットフォーマー」の事業をなぞる時には大きな壁がある。それは、たとえ「マス」であったとしても、「プラットフォーマー」のような“メガ”レベルの「マス」を抱えていて、かつ常に動的にデータが更新されるような仕組みにはなりえないことだ。
この規模の差は単なるユーザー(オーディエンス)の数によるものでなく、「コンテンツ創出と情報流通の装置」としての構造的な違いにある。従来の「マス」メディアは、コンテンツの制作機能と配信(送信)機能が一体化しているが、「プラットフォーマー」は基本的に自らコンテンツを作ることはない(例外的に初期のYouTubeは同社自身が制作していたこともある)。いわば配信の機能しかない。コンテンツの制作者はユーザーたちであって、日々大量に生み出されている。その運営者たるプラットフォーマーはコンテンツの制作コストで身が痛むことはない。コンテンツ制作機能と情報の流通機能が別れているという構造の違いは実に大きい。
コンテンツが大量に創出されると、コンテンツ自体を「ノード」としてネットワーク化でき、そのネットワークを通じて、関連動画としてユーザーの視聴機会・視聴時間を圧倒的に増やすことができる。このことは広告のインベントリを増やすこと、ユーザーの興味関心という動的データを集めること、その両方に貢献する。
つまるところ、単純に「マス」メディアがユーザーIDを集めるだけでは、そのデータを内部で使おうが(新たな広告商品・マーケティング商材)、外部に提供しようが(データの外販)新たな収益モデルにするには、情報創出装置としての構造が変わらないと、単に「自分たちの集めたオーディエンスについて、そのリーチだけでなくデータも売る」という、“一粒で二度おいしい”という思考にしかならず、根本的な(プロダクト、プロセス、サービスの)イノベーションにならず、新たなコストが発生するだけにしかならないのではないだろうか?
もし、「マス」メディアがID収集で事業をしていきたいのであれば、単純なリーチやセグメントを売るのではなく、「プラットフォーマー」が“アテンション”を売っていることに対して、“インテグリティ(≒信頼性)”を売るというのが1つの道筋だろう。この方向性では、media engagement がどのように広告主(クライアント)の事業にどう貢献するか、そのデータ計測の仕組みが必要になると思う。あるいは、日本の「マス」メディアはコンテンツの総合編成なこともあるため、media engagement ではなく、content engagement のような指標が必要かもしれない。
いずれにせよ、「マス」メディアがIDで新たなレベニューを得ようとするには、もうひと知恵、ふた知恵必要で難しい。
