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日経新聞の「生物多様性3部作」はとてもよく書けているが、「ムラの外の住民」にもわかる言葉がほしい



 日本経済新聞の経済教室に「生物多様性3部作」(香坂先生、西田先生、森本先生が執筆)とでもいえる記事が2026年2月11日から13日にかけて、上、中、下と掲載されました⁽¹⁾⁽²⁾⁽³⁾。これは民間企業の経営においても生物多様性の重要さが認識されていることを示しており、関心を持っている一人としてうれしいです。以下ではそれぞれの内容をかいつまんで紹介するとともに、読後に感じたことを記載します。

企業の事業活動には生態系の存在が不可欠

 ネイチャーポジティブ(自然再生・自然再興)というフレーズは、2022年に開かれた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組みにおいて、2030年までに生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せる方向が明確化されたことが背景に近年注目が集まっています。現状、生物多様性保全に必要とされる資金と、実際に投入されている資金との間には大きな隔たりがあるとされ、そのギャップは約7,000億ドル、一方で保全に使われている資金は2,200億ドルにとどまっています。企業の事業活動が自然資本に大きく依存している現実が共有され、国際的な目標設定や国内外のイニシアチブを通じて、生物多様性を経営課題として位置付ける動きが進展してきています。ここでのポイントは企業活動による自然環境への影響の測定・評価にあり、その測定方法をめぐる議論が長く続いています。2026年2月に開かれた生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォームの第12回会合では、ビジネスと生物多様性に関する方法論的評価が採択されました。

ネイチャーポジティブの実践的なアプローチにグリーンインフラがある

 国交省が2026年1月に公表した「グリーンインフラ推進戦略2030」では、その定義を自然の多様な機能を活用した社会資本で、将来にわたって持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくり及びウェルビーイング向上に貢献するもの」としています。人工構造物で支えられた都市は生物多様性保全やウェルビーイングへの期待が高まる中で、ニーズに対応できなくなっています。そこで、森林・農地などの自然環境をグリーンインフラとして、人工構造物と組み合わせることで防災・減災など多様な機能の発揮が期待できます。グリーンインフラの役割として雨庭を例にすると、自然の多様な機能による防災減災を中心とした地域の社会課題解決、健全な生態系の保全と創出、市民の行動変容への効果があげられます。また、2027年に横浜市で開催される「2027年国際園芸博覧会」では、現在準備が進められている会場や施設において、雨庭や緑地の整備、会期中の展示やイベントを通じたグリーンインフラの実践事例発信が見込まれています。

様々な生物多様性の計測手法が考案されている

 ヨーロッパを中心に生物多様性の保全を企業活動でも重視されており、イギリスでは開発行為に対して、最低10%の生物多様性ネットゲイン(BNG)を2024年に義務付けました。自身の事業地で基準を達成できない場合は、民間企業や政府が自然再生によって創出した純増分、生物多様性クレジットを購入することになります。これは域外におけるオフセット(埋め合わせ)と呼ばれ、まだ課題が残っていることもあって、BNGでは生物多様性の計算法を頻繁に更新しています。日本でもいきもの共生事業推進協議会が「生物多様性ネットゲイン認証」の試行を発表、民間の自主的なオフセットの取組みに貢献しようとしています。また、ネイチャーポジティブイニシアチブは、種の多様性、生態系の機能、空間的な連続性などの要素を複数組み合わせて評価する手法を開発中です。生物相の把握には、リモートセンシングに加えて、水や土を採取して含まれるDNAから把握する環境DNAがあります。課題としては、どの推定手法も時間と空間の解像度には限界があり、現地調査が欠かせない点です。そこで、専門家とともに人工知能にアシストされた市民科学が期待され、実際にAI同定機能を持つ生きもの収集アプリのバイオームが運用されています。生物多様性の危機はオーバーユース(過剰利用)とアンダーユース(利用不足)の両方があり、後者は持続可能な利用を推進する評価が求められます。

「生物多様性ムラ」の外にいる人にも配慮を

 まとめ方が不適切かもしれませんが、上記のように3本の記事は生物多様性の保全を軸に、ネイチャーポジティブ、グリーンインフラ、測定方法に分けて詳細に論じています。これまでの議論の経緯、現在の潮流、最新の知見、事例などが網羅的に書かれており、環境部門で働いている民間企業の経営者や社員を中心に、生物多様性の重要性がわかる内容です。ただし、日本経済新聞の読者ならある程度理解できるリテラシーがあるかもしれませんが、率直にいうと「生物多様性ムラ」の住民以外にはやや難しい印象を持ちました。というのも、曲がりなりにも国内で環境問題への関心が高まった理由は、自然保護・保全といったわかりやすい言葉(日本語)が広まったからだと解釈しています。ネイチャーポジティブは環境省が推奨していることもあって一定の認知度はありますが、図に示したように生物多様性と比べるとまだ低く、経営層はともかく一般社員は半数以上がほとんど知らない状況です⁽⁴⁾。「自然共生サイト」みたいにもう少しイメージしやすい言葉に換えたほうが認知度の向上につながると思います。また、グリーンインフラの事例としてあげられている雨庭も知っている人は少数だと推測され、管理体制をしっかり構築しないと、一部のビオトープのように荒れ放題で機能を発揮しなくなります。そのためにも、当該サイトと関わるという意味も込めて生き物のモニタリング体制はとても大事です。ところが、環境DNAのシーケンスなどモニタリングにはお金がかかるため、ボランティアに頼っているだけでは不十分です。「機運の高まり」というふんわりした背景にとどまらず、実現可能性の高い筋道と企業が自主的に取り組む上での必要条件を具体的に提示してほしいです。

図 生物多様性に関する社内の認知度
出典:日本経済団体連合会「企業の生物多様性への取組に関するアンケート結果」

出典:

(1)「ネイチャーポジティブ」の視点・上 日本経済新聞朝刊2026年2月11日
(2)「ネイチャーポジティブ」の視点・中 日本経済新聞朝刊2026年2月12日
(3)「ネイチャーポジティブ」の視点・下 日本経済新聞朝刊2026年2月13日
(4)日本経済団体連合会「企業の生物多様性への取組に関するアンケート結果<2024年度調査>」
 https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/076_kekka.pdf
 
注(イラストの引用元):
環境省「ネイチャーポジティブポータル」
 https://policies.env.go.jp/nature/nature-positive/

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