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体だけの関係って楽?

体だけの関係って言葉、世の中的にはわりと都合のいい免罪符みたいに使われてるよね。

でもさ、毎晩その体だけを仕事にしてる私から言わせてもらうと、体だけってぜんぜんそれだけじゃないんだよな、ってずっと思ってる。


最初のころは、お客さんのことを作業対象みたいに思おうとしてた。
感情を切り離して、ロボットみたいにこなせば楽だって聞いてたから。
でもそれ、わりと嘘だった。

人間って体に触れたらどうしても何か伝わってくるんだよ。
疲れとか、寂しさとか、緊張とか。

体だけのはずなのに、なんか受け取っちゃうんだよね。

30代の会社員の人がよく来てた。
毎週金曜日。

その店は指名制だったから、だんだんああこの人また来たなってわかるようになって。

最初は無口で、施術中ずっと目つぶってるだけだったんだけど、3回目くらいから少し話すようになった。

家族と話せてない、会社でも誰とも話せてない、って。
それで体だけ触れてもらいに来てるんだって。

それを聞いたとき、なんか複雑な気持ちになったよ。
かわいそうって思ったわけじゃない。

ただ、あ、体だけじゃないじゃんってなった。
その人にとってあたしとの時間は、体のことだけじゃなくて、確実に何かもっとあった。

あたしもそれを感じてた。

でもそれは恋愛じゃないし、友情でもない。
なんかもっとうまく言えない、ちゃんとした名前のない関係。


よく感情移入しちゃうの?って聞かれる。
同期の子に聞かれることが多い。

答えはYesでもNoでもある。移入はする。
でも流されはしないかな。
そうならないように気を付けてる。

これは才能じゃなくて、ある意味訓練だと思う。
共感しながら距離を保つ技術っていうか。

これ、カウンセラーとかもそうだよね。
人の痛みを受け取れるけど、自分が溺れない。

あたしは別に資格とか持ってないけど、現場でそれを身につけた。

体だけの関係ってフレーズが苦手なの、もう一個理由があって。
それって心は関係ないみたいなニュアンスで使われることが多いと思う。

でも心が完全に関係ない人間関係って、ほぼ存在しないと思う。
嫌いな人の前でも心は動くし、見知らぬ人の体に触れるときも心は何かを感じてる。

感じないようにしてるのと、感じてないのは別物だから。

お客さんの中には、俺たち体だけの関係だもんなってわざわざ言ってくる人もいる。

その言葉、なんのために言ってるんだろうって毎回思う。
自分に言い聞かせてるのか、あたしに念押ししてるのか、どっちなんだろうって。

そういう人に限って、帰り際に少し話してたりするんだよね。
体だけのつもりが、ちゃんと人間と関わってるじゃん、って内心思いながら見送る。

お金をもらって体を提供してる。
それは事実。

でも、そこにあるものが「だけ」に収まらないのも事実。
両方ほんとのことで、どっちかを消す必要はないと思ってる。

仕事を始めて2年くらい経ったとき、プライベートで好きな人ができた。
付き合うかどうか迷って、結局話した。

仕事のこと。
相手はしばらく黙ってから、体だけの関係って、慣れてるよねって言った。傷ついたとかじゃなくて、ただ、ああこの人には伝わらなかったなってなった。

慣れてるんじゃなくて、慣れてないから毎回ちゃんと向き合ってるのに、って。

結局その人とは付き合わなかった。
べつに後悔はしてない。

今は同じ店の先輩とたまに飲む。その人の年齢は伏せるけど、もう10年以上この仕事してる。

最初は体だけだと思ってたけど、今は体も全部込みで一個の仕事だと思ってるって言ってた。

うまい言い方だなと思った。
切り離そうとするんじゃなくて、全部まとめて引き受けてる感じ。
あたしもそっちに近づいてきてる気がする。


世の中には体だけの関係を都合よく使う人がいっぱいいる。


傷つかないためのエクスキューズとして。
責任を持たないための言い訳として。

でも実際に体で働いてるあたしからすると、体って意外とぜんぶ入ってくる場所なんだよ。

感情も、疲れも、孤独も、温度も。

だからって悲劇的な話にしたいわけじゃない。
これはあたしの仕事で、あたしは今のところちゃんとやれてる。

給料もそこそこいいし、人間観察としてもわりと面白い。
世の中にいろんな孤独があるって知れたのは、この仕事のおかげでもある。

ただ一つだけ言いたいのは、体だけって便利な言葉に、ちょっと乗っかりすぎるのやめてほしいなってこと。

相手の体に触れるってことは、思ってるよりずっと、人間と関わることなんだよ。

それはお客さんも、あたしら嬢も、たぶん同じ。

ちゃんとメイクして、笑顔の準備して。
体だけの仕事をしにね。

でもきっと今夜も、体だけじゃない何かが、行き来する気がしてる。


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