妹へ 第8章*婦人相談所にて

 上田の我が家に帰り着くと、妹からの留守番電話が入っていた。
 「これから上田に向かいます」
 故郷の鹿児島に行くのではないかと思っていたが、鈴鹿の相談員との面談の結果、離婚調停に入った場合、鹿児島は遠すぎるということで上田になったということだった。
 留守電を聞いて、すぐ婦人相談所に電話を入れ、そして宿の手配をした。
 夜九時を過ぎ、上田駅に着いた妹から電話があった。車を飛ばして駅についてみると、南口の階段の前に四人が立っていた。上田でその姿を見るのは、自分にとって少し不思議なことに思えた。
 それまで、信州での全ての時間と空間は、“個”であることを前提として成り立っていた。すべての親戚縁者から遠く離れており、誰からも干渉されることなく自由に時間を使い、人生を積み上げてきた。
 そこに、妹に連れられて、幼い甥っ子と姪っ子たちがひょっこりと現れた。元気な子供たちの姿を見た瞬間、それまで自分が感じていた空間からは“異質なもの”として浮き上がって見えた。
 同時に、無条件な嬉しさも感じていた。
 まずはねぎらってやりたかった。それまで、ビジネスホテルのツインルームに四人と、さぞかし窮屈な思いをしていただろうから、広い和室を予約しておいた。
 部屋にたどり着くと、子どもたちは大はしゃぎで布団の上で飛び跳ねた。
 妹がたしなめても、その賑やかさは留まることはなかった。子どもたちにしてみれば、久方ぶりに訪れた解放感に心がはじけ飛ぶのも無理はないことだったろう。ついには三人とも母親からお尻を叩かれていた。
 自宅へと戻った私は、その夜、まんじりともせずに朝を迎え、八時には宿屋に直行した。そして、市役所の母子相談室に電話を入れた。
 十時に予約が取れ、その時間に窓口を訪ねた。
 五十歳前後の女性の相談員の方が、親身になって話を聞いてくださった。同情心あふれる穏やかな口調での対応が、それまで過度の緊張から硬直しっ放しだった妹の心を、そして兄である僕の心を、ほぐしてくれた。
 まずは、その夜から寝泊りできる場所を確保しなければならない。
 妹の意向を受け入れた上で、いくつかの可能性を探り、鈴鹿をはじめ、様々な相談所などと連携を取りながら、懸命に対処してくださった。正直に言って、役所で働いている方が、これほどまでに誠心誠意で相談に乗ってくれるとは思っていなかった。
 「私もベテランの相談員ですから、今までに様々なケースを見ています。あなたのために出来るだけ良い方法を考えようと思ってますからね」
 「ありがとうございます。私ひとりのために、こんなに一所懸命考えてくださって、そして何人もの方に助けていただいてびっくりしてるんです」
 「だからあなたその分だけ幸せにならなきゃだめよ」

 ― 良い方に巡り合った ―

 

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