忘れられない店員さん
ガソリンスタンドのお兄ちゃんとか、コンビ二の店員さんとか、病院の窓口の事務員さんとか、飲み屋のお姉さんとか、そういう自分にとって近くも遠くもない人たちと、気楽な言葉を交わすのが好きである。
マジックというアイテムは、そんなお付き合いには、程よい効果を発揮する。
スタンドで車の窓を拭いてもらった後とか、コンビ二で食べ物を温めてもらってるときとかに、
「ありがとう、マジックするから、ちょっと見て」
そう言って、数秒で演技可能なやつを見てもらう。
反応は概ね良好だが、一度だけ、やり過ぎたかな? と思ったことがある。
支払い金額は310円。財布の中から百円玉を四個トレイに出し、その中の一枚をつまみ上げて、若い女性店員に見せた。
「これが十円玉だったら、お釣り要らないんだけどね」
そう言ったあと、マジックをやるなんてひと言も言わず、いきなりふっと息を吹きかけて10円玉に変えてみせると、
「わぁぁああぁ!!」
ぶったまげて大声をあげてすっ飛び、その勢いで尻もちをついてしまった。
「びっくりしたぁぁ~!」
立ち上がって胸元を抑えつつ、凍り付いたような表情を浮かべていた。
何の前触れも無く、いきなり超常現象を見てしまうと、ここまで驚くものかと、こちらがびっくりした。
こんなにスーパードラマティックな反応は、その時が一度だけで、大体は、手軽にお友達みたいになれる。
そんな中で、僕にとって、えらく目立つ行動をとるコンビニの若い女子店員がいた。
顔馴染みになったきっかけは、いつものように、ちょっとしたマジック披露だったが、ある日ゆっくり商品を選んでいると、横からいきなり声が聞こえてきた。
「こんにちは」
ちょっと驚いて振り返ると、その女性店員の満面の笑顔。
またあるとき、レジで順番待ちをしていると、その娘はカウンターにはいなくて、売り場で商品整理をしていたが、ササっとレジ裏にやってきて屈みこみ、壁際に置いてあった箱を開けて中を探し始めたのだが、突然手を止めて、こちらを振り返り、小さく手を振りながら笑顔を送ってきた。
そんな感じのアクションが、度重なった。
こんなに伸びやかに、こんなに親し気に接してくる店員さんは、後にも先にも皆無。目立つのなんのって…。
そんなわけで、そのコンビニに行くときは、その店員さんに会えるのが、ちょっとした楽しみになっていた。
年齢は、たぶん二十代の前半。歳が親子以上に離れているので、もしかすると、僕のほうから無意識に、“可愛い我が娘”に送るような、親愛メッセージを送っていたのかも知れない。その行動は、ほとんど「大人に甘える子ども」の行動だった。
ここまで読んだあなたは、もしかすると小柄で子供っぽい容姿が思い浮かんでいるかも知れないが、決してそうではない。細身で身長165㎝ぐらい、色白で目元が涼やかなやさしい顔立ち。黙っていると育ちの良いお嬢さんと言った感じなのだ。それなのに、こういった奔放な振る舞いが、不自然に見えないのが不思議なくらいだった。
その後、しばらくぶりに、コンビニ立ち寄ると、その娘がカウンターに立っていた。
「久しぶりですね」
「いつもそうだよね。コンビ二には、そんなにしょっちゅう来ないから」
「あたしも最近はあまり出てないんです」
「ってことは、今日はすっごいラッキーだったんだね」
「ほんとに!」
そして、弁当の温めを待ってる間、
「ちょっと見てて」
って、いつものようにマジックをやってみたら、
「え? もっかい見せてください」
「ええ? もう一回?」
同じマジックを二度続けないというのは、マジシャンの鉄則なのだが、こうも楽し気にねだられると、さすがに断れない。タネがバレないように用心しながら、よりオーバーアクションで再演。
「わあ、すごい! また見せてくださいね。楽しみにしてます」
などと、可愛い目で微笑んできた。
こういう 反応の豊かな娘って、たぶん、僕だけじゃなくて、周りにとって幸福なエッセンスになっていると思う。
その後、まもなくバイトを辞めたみたいで、その娘の姿をみたのもそれが最後だった。
今の時代、様々な店で無数の店員に接することになる。そのうちのほとんどは、印象に残ることなく忘れ去ってしまうわけだが、この奔放で魅力的な娘のことは、忘れることは、まずないだろうと思う。
