交通取り締まり ~ 若かったあの頃
スピード違反や一時停止不履行などで捕まった経験のある人も多いと思う。長野県に住んでいた頃は、仕事であちこちと移動する必要があったので、ちょくちょくお世話になったものだ。
経験のある方はお分かりいただけると思うが、その瞬間、実に悔しい思いをする。一瞬にして違反者となり、しかも、以後1年間無違反で過ごさないと免停への道をひた走ることになる。その頃の僕は、クルマ無しには成り立たない仕事をしていたので、生活そのものを脅かされる事態と言っても過言ではない。
今の今まで、仕事のことを考え、まじめに生きていた善良な市民から、大金(僕にとっては大金だ)を巻き上げ、多大なストレスに晒すなんて、真っ当な行為ではない(と、半ば本気で思っていた)。
その悔しい思いを引きずったままにしていると、その後の運転に影響が出てしまうのでよろしくない。だから、目の前の警察官をいびり倒すことにしている(もとい。していた)。
以下は実際の体験談である。
「あそこ、一時停止なんですよ。危ないですからね。気をつけてくださいね」
見ると、まだ制服姿も初々しい、ぺーぺーの巡査だ。
「今の一停不履行、完全には止まらなかったけど、ほぼ止まってましたよね? しかもちゃんと安全確認したのに…、それあなたも見てたでしょ?」
「安全確認したかどうかまでは分からないですから」
「え? 警察が無能だからって、こっちまでそれに付き合えって? それって、完全に取り締まるのためだけの規則だよね? 大の大人が真っ昼間からそうやってじっと隠れて、カネ巻き上げて嫌われて…、因果な商売だね。毎日寝付きが悪いでしょうけど、せいぜい頑張ってくださいね。陰ながら応援してますよ!」
「すみませんねえ。気をつけて帰ってください」
「……」
その若い警官、次第にうなだれ、申し訳なさそうに「すみません」などとのたまった。
きみぃ…、それは、ちょっと立場上まずいんじゃないの? 取り締まる側のあなたが謝ってしまっては、いかんのだよ。
そのときは、その間抜けさ加減に内心笑いをこらえていたが、どう見ても僕のほうが哀れなことは、誰の目にも明らかである。
っていうか、これを読んだ誰もが、若い警官のほうに同情してしまうだろうなぁ…。やれやれ我ながらおかしな若僧だったね。これでよく自分のこと「善良な市民」なんて言えたもんだよ、まったく。
あの頃は、若手講師へのピアノレッスンも充実していたし、音楽制作の仕事も順調。組曲『松の木の物語』への取り組みが新聞に取り上げられたりと、勢いづいていて、その分鼻っ柱も強く、他人への当たりも強くなりがちだったみたいです。
それとまぁ…、こうして今振り返ってみると、恥ずかしくもなりますが、ちょっと口が達者だからって、調子に乗り過ぎですね。
鹿児島に帰ってからはや20年。今では立派なゴールド免許保持者です。
さらに、近年、車もバイクも手放し、もっぱら徒歩かバスでの移動。運転する機会さえほとんどありません。
おかげさまで、ほっこりと静謐な日々を過ごさせていただいております。
敬具
