この建築って何がすごいの?|モザイクタイルミュージアム②不安と安心が混在する建築空間
建築業界に約10年間携わってきた「めーぐる」です。
有名建築を見て「なんとなくすごい」と感じつつ、
「でも、どこがどうすごいのかは分からない」そんな経験はありませんか?施工・施主・設計という複数の立場で建築に関わってきた経験から、建築を一緒に見に行くと「何がすごいのかわかった」「建築の見方が変わった」と言われることが多くあったため、記事を書くことにしました。
このnoteでは、有名建築をなぞるのではなく、「なぜこの建築は評価されているのか」「設計者は何を操作し、何を意図したのか」を丁寧に読み解き、”建築翻訳”という形で言語化しています。
建築の見え方が少し変わる、そんなきっかけになれば嬉しいです。
前回の記事ではモザイクタイルミュージアムの外観について扱いました。
今回はモザイクタイルミュージアムのアプローチから内部空間に焦点を当てています。
01.不安にさせられるアプローチ
モザイクタイルミュージアムに近づくにつれ、ある言葉が脳裏に浮かびました。
「営業してる?」
その不安があったからこそ、中に入った瞬間の安心感や高揚感が倍増したように感じました。
建築を見ていて“不安になる”という体験は、珍しいと思ったので、なぜそのように感じたのか、めーぐるなりに言語化してみます。
A:建物を凝視してしまう1本道
モザイクタイルミュージアムの入り口までは1本の細い道となっています。写真でいうとこの道です。


道が1本しかないことで、足元への注意を払う必要がなくなります。その結果、建物に向かう人々の意識は建物に集中します。
無意識のうちに、外観を眺めながら建物に近づきますが、内部から感じられる光や人の気配はなく、中の活動を外から一切読み取ることができないことから、建物に対する違和感が増大します。
普通、商業施設やミュージアムは、人の動きやサイン、光などの安心材料を外部に提示します。
しかし、モザイクタイルミュージアムは一本道によって、建物を見させられる状況を作りながら、その建物は”何も語らない”。そのギャップが「営業しているの?」と不安を生み出しているのだと思いました。
B:アニメに出てきそうな入口
不安に駆られながらも入口に近づくと、さらに不思議な感覚がありました。「営業しているの?」という不安は感じながらも、建物そのものには安心感を覚えることです。
その大きな要因が、この入口の造形にあると思いました。

抽象的ですが、この入口、“かわいい”んですよね。
最近の建築の入口は、スタイリッシュな照明やアルミの庇、ガラス張りの自動ドアが一般的です。合理的で、機能的で、効率的。
しかし、この入口は昨今の建築物とは異なり、生産性を土返しにした作りになっているんです。
◾️この入口の特徴
・雨を十分に防ぐとは思えない庇のサイズ
・庇には穴が空いている
・手作り感のある照明で、均一な明るさではない
・曲線で形作られた開口部

まるで、絵に描いた扉が現実のものになっているような感覚がありました。人は空間を見たとき、そこに人の思考や手の痕跡を感じ取ると、無意識に安心します。この入口には、設計者の意図や人の手で作られた痕跡がはっきりと感じられます。だからこそ、内部の情報が得られない建物に不安を感じながらも、建物そのものには安心できる。不安と安心が同時に存在する不思議な感覚になりました。
ではこれが工業製品を組み合わせた入口になるとどうなるのか。イメージですがAIに作ってみてもらいました。

営業していることは一目でわかるようになりますが、”かわいさ”や”安心感”は少し薄れると思います。やはり、現在の扉の形がモザイクタイルミュージアムにはピッタリだったんだなぁと思わされました。
02.内部で感じる安心感
中に入ると、「営業していた。」という安堵と共に、ムラのある壁の塗装面や内部の扉のアーチなど、人の思考や痕跡が多く感じられる内装仕上げに安心感を強く感じました。

タイルという量産品を展示する空間でありながら、空間は量産的ではない。こういった部分に藤森さんの建築への思想が表れているように思い、非常に素敵な空間だなと思いました。
03.最上階へ導かれる階段
このミュージアムで特に印象的だったのが、メイン階段です。

この階段では、多くの人が、途中のフロアに立ち寄ることなく一番上の階まで登っていました。
人は本能的に光を目指して歩くと言われているため、この階段のように窓がなく、やや暗い空間の奥に光が見えると、そこに向かって歩きたくなることが理由だと思っています。
また、足元の照明も、下から見上げても眩しくないように設置されており、なんの不快感もなく、自然と最上階に導かれる感覚はとても新鮮でした。

そして、一番上に上がると、この建物の最大の見せ場である屋上のタイル空間に対面します。

展示室を屋上(外)に設けるという発想力は本当にすごいと思いました。この部分については、多くの記事で取り上げられていると思うので、ぜひ一度検索してみてください。
04.最後に
以上でモザイクタイルミュージアムの紹介を終わります。
モザイクタイルミュージアムの凄さは、奇抜でありながら自然と一体化した外観と、不安と安心の感情を操作される建築物の仕上げや動線計画にあると思いました。
また、工業製品であるタイルを展示する建築でありながら、内部と外部の空間そのものは人の手で作られているのを感じられるところがすごいのだと思いました。
また機会があれば藤森さんの建築を取り上げたいと思っています。
読んでいただきありがとうございました。
