日本語教師がHANAのJISOOちゃんの日本語力について語ってみる
HANA Official site にロゴや写真を特別に利用できる例として、「アーティストの写真やグループのロゴ等を、アーティストを応援することを目的としてSNSに投稿すること」とありましたので、JISOOちゃん応援のために、ロゴを使わせていただきます~。
こんにちは。日本語教師のはやしえみです。
今日は珍しくエンタメの話題から日本語教育について語ってみたいと思います。
実は、本当に書きたいのは日本語学習環境の話なんですが、その前にまず、大変恐縮ながら、HANAのJISOOちゃんの日本語力はかなり高いという話をしておきたいと思います。
私なんかが、がんばっている日本語学習者の日本語能力を評価するなんざ、おこがましいにもほどがある・・・はい、それは重々承知の助でございます。
JISOO様(この呼び方で合ってる?)、HANAのファンの皆様(Honeysと言うらしいことを最近知りました)、厚かましくごめんなさい。
先に言い訳をしておくと、HANAというグループ、とりわけJISOOちゃんのことが大好きな留学生に「JISOOちゃんの日本語は文法も語彙もすごいでしょ?」と聞かれまして、それもすごいけど、JISOOちゃんの日本語能力の高さは文法や語彙の豊富さ以上のところにある!と説明したくなった次第です。
あらかじめお伝えしておきますが、私は最近HANAのことを知ったくらいエンタメに疎く、失礼ながら、彼女たちのことは全く知りませんでした。留学生の話を聞いて興味をもち、このお盆休みにYouTubeでNo No girlsを一気見して(すっかりはまりました 笑)、顔と名前が一致し、チャートにランクインしている曲がわかるようになった程度の人間です。
そこんとこ、ご理解いただき、何か間違いがあったらご指摘ください。失礼なことを言ってしまう可能性もありますが、何が失礼が教えていただければ、改めますので、どうぞうどうぞやさしくお願いいたします。
HANAのJISSOちゃんを知ったきっかけ
さて、7月に私の授業で1人1曲日本語の歌を紹介するという活動をしました。好きな日本語楽曲の歌詞や歌っている歌手を紹介したうえで、その歌をクラスメイトに紹介したい理由を話すという発表の活動です。ジャンルは決めていませんでしたが、ほとんどの学生がアニソンやJ-popを紹介してくれました。
ある日、ある学生がHANAのROSEを紹介してくれました。なんでもHANAは身長、体重、年齢は不要、外見のかわいさより実力重視でメンバーを選ぶオーディション番組を経て結成されたガールズグループだそうです。確かにMVに出ているメンバーは他のアイドルグループとはちょっと違う雰囲気で、歌も魅力的だと思いました。
その学生が、そのメンバーの一人、JISOOちゃんについて力説したのです。
「この人はメンバーの中でたった一人の外国人です。韓国出身です。彼女は、オーディションのはじめ頃は初級で、私より話せなかったのに、独学で日本語を勉強して、今は私の何倍も上手です。この歌をみんなに紹介しようと思ったのは私たちもJISOOさんみたいにがんばれば、日本語でこんなはやい歌も歌えるようになるよと伝えたいからです。JISOOさんみたいに日本語で話して、日本語で歌えるようになりたいと思いませんか?」
日本人アイドルが好きで、推しの話が聞き取れるようになりたいという学習動機は昔から聞いたことがあったのですが、アイドル本人が日本語学習者で、「推しみたいになりたい」というのは初めて聞きました。なんだか時代の節目を感じます。
すごくおもしろいと思ったので、休み時間に何気なく学生に聞きました。「JISOOちゃんはいつから日本語を勉強していたの?」。
その質問に目を輝かせ、堰を切ったように語り始める留学生。
「好き」のパワーをなめてはいけません。
JISOO推しの彼女はYouTubeの動画を私に見せながら、すごい勢いで解説してくれました。(何気なくすべき質問ではありませんでした)
その時、見せてくれたのは、オーディション番組にはじめてJISOOちゃんが登場し、日本語の歌を歌うシーンでした。(それが椎名林檎の「丸の内サディスティック」だったので非常に親近感が湧きました 笑。たぶん生まれる前の曲だろうに、なんで知ってるの?!)
歌唱後に、審査員に「日本語はできますか?」と聞かれたJISOOちゃんが「独学中だ」と答えているのですが、確かに覚えたフレーズを一生懸命言っている雰囲気でした。
そのあとも、私が時間を気にしているのは気にも留めず(笑)、彼女は動画を検索しては、これも見て、これも見て!と話し続け、こんなことを聞いてきました。
「先生、JISOOちゃんの文法はどう?上手ですか?」
うん、私が見せてもらった中では、言語形式に意味が通らないほどの間違いはほとんどありません。かなり高い正確性を持っていると言えそうです。時々、活用を考えているようにスピードが落ちたり、自分で間違いに気づき言い直すシーンも見られることから、きちんと勉強して、持っている言語知識でモニターしながら正確に話そうとしていることも想像できます。
そのことを「すごいね」とほめると、学生の怒涛の語りはさらに勢いを増しました。
「本当ですか!やっぱり文法もすごいですよね。JISOOちゃんは漢字も書けるし、難しい言葉もたくさん知っています!」
JISOOちゃんの日本語能力の高さは確かに言語形式の正確性や、語彙の豊富さ、漢字を読んだり書いたりすることができる部分にも表れています。ですが、私がすごいな、上級者だなと感じたのは、そこではなく……。その学生にも身につけてほしい、というか、私が外国語を学ぶ際にもできるようになりたいと思うことは下記です。
相手や場面に合わせたことばの使い分け
JISOOちゃんはプロデューサーのちゃんみなさんや周りのスタッフなどと話すときは、「です・ます」を使って丁寧に話し、グループのメンバーと話すときはくだけた話し方をしています。ことばをはっきりと使い分けているんです。ファンに語りかける時も、丁寧な話し方をしています。
オーディション初期のころに、メンバーから「JISOOは話し方が丁寧」と言われているシーンがあったので、おそらくはじめはこの使い分けができておらず、「教科書どおり」の敬体(丁寧体・ですます体)で話していたと思われます。(日本語学校から専門学校や大学に進学した留学生が直面することに似ていますね)
でも、オーディション後半のメンバー同士のやりとりを見ていると、ほとんど常体(普通体・だ体)で話しています。しかも、そのやりとりの途中でカメラを向けているスタッフに何か聞かれるとそれには敬体で答えるということまでやってのけています。
これは「日本語教育の参照枠」にある言語能力記述文にあてはめれば、
「(省略)その場にふさわしい丁寧さで、自然にコミュニケーションできる(B2)」はもちろんクリアし、「社交場の目的に沿って、柔軟に、効果的にことばを使うことができる(C1)に達していると思われます。
*日本語教育の参照枠では日本語能力を「基礎段階の言語使用者」A1・A2、「自立した言語使用者」B1・B2、「熟達した言語使用者」C1・C2と設定しています。C2が一番高い能力を表しています。
日本語学習者にとって難しいことの1つは、この使い分け。これができることがJISOOちゃんの日本語能力の高さの証明だと思います。
ガールズトークに参加できている!
外国語を学んだことがある方なら、たぶんわかるんじゃないかと思います。外国語でのやりとりは1対1であれば、自分への問いかけが明確で、質問が聞き取れなければすぐに聞き返すこともできますし、自分の話が伝わらなければ相手が自分に聞き返してくれるので、やりとりを続けることは比較的容易です。外国語で会話の継続ができるかどうかがレベル判定の基準にも使われたりもします。
これが、母語話者ばかりのグループでのおしゃべりになると難しさが格段にあがります。母語話者たちは盛り上がれば盛り上がるほと話すスピードが上がり、そこにいる非母語話者の理解に関係なく、話が進んでいくからです。(その人たちに配慮が足りないという意味ではなく、「おしゃべり」とはそういうものだということです)
私も台湾に住んでいた時、しばしば台湾人ばかりのおしゃべりに一人で加わり、聞き取れたり聞き取れなかったりしながら、そこにいたことがあります。ある時、みんながどっと笑ったので、いっしょに笑ったら、「今の冗談、わかったの?」と聞かれ、「わからないけど、みんな笑ってるのがおもしろいから笑った」と答えたところ、「わかんないのに、笑ってる!」と大笑いされたことがあります。聞き取れないことのふがいなさや、その場の全員に笑われた恥ずかしさを感じつつ、作り笑いでやりすごした苦い思い出……。
No No girlsという番組はガールズグループオーディションなので、JISOOちゃんは常に3人~10人くらいの女の子たちのおしゃべりに参加しています。独学で日本語学習を続けているとは言え、日本語教材には出てこないようなスラングや流行り言葉のオンパレード。話題の移り変わりも早く、ことば遊びのようなフレーズ、その場のノリで生まれたような造語も頻繁に聞かれます。もし、このガールズトークが中国語でなされていて、私がここに入っていたら、50%わかればいいほうではないかなというくらいのスピード感と語彙量、話題の変わり方でした。
もしかしたら、JISOOちゃんにも私のように「わからなくても、とりあえず笑っておく」という場面もあったかもしれません。実際にどのくらい聞き取れていたのかは聞いてみないとわかりませんが、動画を見る限り、JISOOちゃん自身が話題をふったり、聞かれたことに答えているシーンもあるので、おそらく本当に会話に参加できるくらい聞き取れているのだと思われます。
これは言語能力記述文では「熟達した日本語話者同士の活気に富んだ会話についていくことができる(B2)」はもちろんクリアし、「幅の広い慣用句や口語体表現が理解できる、言語使用域の移行を正しく認識できる(C1)」、「熟達した日本語話者にかなり速いスピードで話されても、生であれ、放送であれ、どんな種類の話し言葉も実質的に容易に理解できる(C2)」に達しているように見えます。
JISOOちゃんの日本語能力の高さはこんなところからも予想できます。
上記以外にも、細かいことを言い出せばきりがありません。例えば、オーディション参加者(ネイティブ日本語話者)が「このグループのメンバーはみんなふわふわだ(おそらく性格がきつい人がいないという意味)」と話していた数日後(?)のシーンで、JISOOちゃん自身がグループのメンバーのことを「ふわふわだから」と話しているシーンがあります。この「ふわふわ」は辞書やオノマトペ辞典に書いてある意味から派生した独自の使い方なのに、場面から意味を推測し、使ってみることで自分のものにしているんだなあと感心しました。
まとめ
私は声を大にして(特に私のJISOO推し学生に)言いたい。
JISOOちゃんのすごさは文法の正確さや語彙の豊富さだけにあるわけじゃないんですよー!JISOOちゃんのすごさをもっと知って、あなたも私も外国語の文法や語彙だけにとらわれず、もう一段上を目指していこうねー!
そして、あなたのおかげで、HANAを知り、No No girlsを知り、JISOOちゃんを知ることができました。ありがとーー!!私もふわふわのJISOOちゃんが好きになりました。
というわけで、今後ともHANAのJISOOちゃんに注目していきたい(推していきたい)と思います!
そして、No No girls を見て、JISOOちゃんがこんなに日本語が上手になったのは、本人の努力もさることながら、環境がとてもよかったのじゃないかと思ったので、次はそのことを書いてみたいと思います。長々と読んでくださってありがとうございました。
