尿酸値だけが高くて、あとは健康なんだけど何か?
今年もやってきた健康診断の結果通知書。封筒を開ける瞬間のあの緊張感は、大人になっても慣れない。
パラパラとページをめくると、血液検査もコレステロールも肝機能も、見事なまでに「A」の文字がずらりと並んでいる。視力よし、血圧よし。どこからどう見ても、私は健康そのものの優良ボディだ。
……ただ一点を除いては。
視線を少し下に移した瞬間、美しく並んでいた「A」の列に、見覚えのない不穏な記号が混ざっていた。去年まではかろうじて「C」で踏みとどまっていたはずのその項目が、今年は堂々の「D」判定へと昇格(あるいは暴落)を遂げていたのだ。
項目の名前は「尿酸値」。
そこに印字されていた数値は、9.2。
確か基準値の上限は7.0だったはずだ。8.0を超えると「要治療レベル」と聞いた記憶があるが、私の数値はそれを遥かに凌駕し、9.0の大台すら突破していた。
「いやいや、待ってくれ」と思わず心の中でツッコミを入れる。周りの知人にこの結果をチラッと話すと、全員が示し合わせたように同じ顔をして言うのだ。
「え、9.2!? やばいって! 早く病院行きなよ!」
あまりの剣幕に一瞬ひるむものの、喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。
「いや……だって、痛くないし。」
そう、痛くないのだ。痛風の代名詞とも言える、あの「風が吹くだけで激痛が走る」という親指の付け根の地獄を、私はまだ経験していない。どこも痛くないし、体調は万全。痛くないのに病院に行って、何の話をすればいいというのか。「痛くなければいっか」という楽観的な思考が、脳内の大半を占めていた。
ただ、ひとつだけ小さな引っかかりがあった。
ここ2年ほど、右肩がどうにも痛いのだ。
最初は完全に「まあ、歳のせいか。いわゆる四十肩ってやつだな」と高をくくっていた。しかし、尿酸値9.2という凶悪な数字を突きつけられた今、心のどこかで不穏な影が囁き始める。
(……待てよ? これ、本当に四十肩か……? もしかして、すでに尿酸結晶が右肩に溜まり始めているんじゃないか……?)
痛風発作は足の親指だけとは限らないらしい。激痛とまではいかないものの、2年間もジワジワと主張し続ける右肩の痛みが、急に不気味な存在感を放ち始めた。
そもそも、なぜ私がこんな目(高尿酸値)に遭わなければならないのか。それがどうにも納得いかない。
世間一般のイメージで言えば、尿酸値が高い人間=「毎晩のようにレバーをつつきながらビールを浴びるほど飲むおっさん」だろう。
だが、私は違う。痛風の恐怖は昔から知っていたので、プリン体の代名詞であるビールにはかなり気を遣ってきた。飲むとしても「週に缶1本」程度だ。休肝日もしっかり設けているし、食生活だってそこまで荒れていない。
「酒も控えて、食生活も気をつけているのになんでだ?」
理不尽さに耐えかねて色々と調べてみたところ、衝撃の「真犯人」が浮上した。
犯人はビールでもレバーでもなく、私が健康のために毎日頑張っていた「筋トレ」だったのだ。
ダイエットと体力づくりのためにと、ここ最近汗を流していた筋トレ。実は、激しい運動によって筋肉のエネルギー(ATP)が分解される過程で、体内では大量の尿酸が生成されるらしい。おまけに、運動で汗をかいて体が軽度の脱水状態になると、血液の中の尿酸濃度は一気に跳ね上がるという。
良かれと思って始めた健康習慣が、裏で尿酸値を9.2まで爆上げしていたとは。まさに「恩を仇で返される」とはこのことだ。健康になろうとして病気のリスクを育てるという、あまりにも皮肉すぎるループに陥っていたのである。
「そこまでわかったなら、なおさら早く内科に行け」という声が聞こえてきそうだ。もちろん、私だって病院に行く選択肢を考えていないわけではない。
しかし、ここで立ちふさがるのが「病院の壁」である。
近所には内科が2つあるのだが、どちらも通院のハードルが高すぎるのだ。
病院A: 予約不可。とにかく受付に行ってから、激混みの待合室でいつ終わるとも知れない時間をひたすら待つスタイル。
病院B: 予約可能。ただし予約が取れるのは最速で2週間先。しかも予約して行ったにもかかわらず、受付から呼ばれるまでに結局1時間以上待たされるスタイル。
どちらを選んでも、まとまった時間と強靭なメンタルが削られることは確定している。元気いっぱいで「どこも痛くない(※右肩以外)」男が、この酷な二択に飛び込むには、かなりの決断力が要るのだ。
というわけで、私はひとつの決断を下すことにした。
いきなりあの激混み待合室へ突撃する前に、まずは「悪あがき」をしてみようと思う。
原因が筋トレと脱水にあるとアタリがついたのだから、まずは筋トレの負荷を一旦ぐっと減らす。そして、意識的に水分をガッツリ摂って、代謝を整えてみる。いわば「自分の体で人体実験」をしてみるのだ。
コンディションを整えたうえで、次の健診(あるいは次の機会)に挑んでみる。
……まあ、それでも数値が下がらず、あるいは右肩以外のどこかが本格的に痛み出したら?
その時は腹を括って、2週間先まで予約が埋まっているあの内科の扉を叩くことにする。それまではもう少しだけ、「尿酸値だけが高い健康体」のふりをして悪あがきを続けてみたい。

