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誰でもいいから(ショートショート)

「あー、そこのパン屋。お前が犯人だ」
 ドラマの中でしか見たことのない、関係者を全員集めての謎解きが、今、目の前で行われていた。
「けっ、証拠があんのかよ」
 エプロンをつけたパン屋がしらを切る。
 商店街の真ん中で人が殺されたこの事件では、担当した刑事がどこからともなくあの怪しい探偵を連れてきて捜査を手伝わせた挙げ句──このシーンと相成った。
 刑事はやる気なし。何なんだ?
 さらに怪しいのは集まっている皆さんだ。私は手紙で呼び出されただけで何の関係もない。きっと他の人もそうだろう。
「ある。まずは立地だ。近くに制服の可愛いチェーンのパン屋があるのにここに店を開くなんておかしいだろう。売上は悪いはずだ」
「そりゃ確かに悪いが、俺の経営手腕と殺人は関係ないだろうが」
「まだある。乏しい売上の割に子供が3人、しかも男の子ばかりだ。食費がかさんで大変なはずなのに、奥さんはまた妊娠している。不自然極まりない」
「だからうちの家族計画と殺人に何の関係があるんだよ!」
「最後は味だ。基本中の基本、食パンがマズすぎる。あんまりマズすぎて人死にが出るぞ」
「てめえ!」
 パン屋が探偵に殴りかかる。右ストレートが顔面にクリーンヒットした。探偵が吹っ飛ぶ。
「傷害の現行犯逮捕だ!」
 居合わせた刑事が暴れるパン屋を制圧して手錠をかけると、警察署に連れて行ってしまった。
 そうして騒ぎは収まり、一人また一人と去っていき、探偵と私だけが残った。
「あの……探偵さん。本当にパン屋さんが犯人なんですか?」
「知らん」
 えっ? 私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あの刑事がパン屋が怪しいと睨んだんだよ。でも証拠がない。でもこうして逮捕されたわけだから、警察はパン屋にガサ入れし放題って寸法だ」
「あー……」手紙で人を集めて煽って殴らせて逮捕させる手口か。「探偵さんのお名前は?」
「ふ……人呼んで別件探偵さ」
 ただの別件逮捕じゃないか。何をそんな格好付けて。
 私の冷ややかな視線を受け流しながら、別件探偵は唇の端から血を流しつつ去っていった。
 ちなみにパン屋は無罪だった。

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