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術中に用いる鎮痛薬:フェンタニル・レミフェンタニルからPCA・NSAIDsまで

はじめに

手術中の鎮痛管理は麻酔管理の中核のひとつです。「鎮痛が不十分なまま手術が進む」と患者は術中覚醒したり、血圧・心拍数が上昇して循環動態が不安定になります。一方で鎮痛薬を過量投与すると呼吸抑制・低血圧・覚醒遅延を招きます。
このバランスを適切に保つために、麻酔科医は複数の鎮痛薬を特性に応じて使い分けています。本稿では術中・術後に使われる主な鎮痛薬を、その薬理・使い分け・投与経路ごとに整理します。

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1. フェンタニル(Fentanyl)

基本事項

フェンタニルはμオピオイド受容体に作用する合成オピオイドです。モルヒネと比べて脂溶性が高く、速やかに血液脳関門を通過するため作用発現が速い(静注後1〜2分)のが特徴です。
代謝経路:主に肝臓のCYP3A4によりnorfentanylに代謝され、尿中排泄されます。活性代謝物はなく、腎機能障害の影響を受けにくいとされます。
作用時間:持続投与時は脂肪組織への蓄積によりCSDTが延長し、長時間投与後の覚醒が遅れる可能性があります。

主な副作用
呼吸抑制(最重要。拮抗薬はナロキソン)
・悪心嘔吐
・掻痒感(特に髄腔内・硬膜外投与)
・便秘・尿閉
・胸壁硬直(大量急速投与時)

臨床的な使い方

術前・麻酔導入時に1.5〜8 μg/kgを静注し、術中は必要に応じて25〜50 μgを追加投与します。作用時間は30〜60分程度で、短〜中時間の鎮痛補完に適しています。投与回数が増えると作用時間が延長するため、術後鎮痛にも用いられます。
ICUでの使用:鎮静(デクスメデトミジン・プロポフォール)と組み合わせた持続鎮痛として使われます。ただし長時間投与では蓄積に注意し、定期的な鎮痛評価(NRS・BPSスコアなど)に基づいた用量調整が重要です。


2. レミフェンタニル(Remifentanil)

基本事項

レミフェンタニルはフェンタニルと同様μオピオイド受容体作動薬ですが、構造中にエステル結合を持つ点が決定的に異なります。
代謝経路:血漿中および組織中の非特異的エステラーゼにより加水分解されます。肝・腎機能の影響をほとんど受けません。代謝物(GR90291)は活性がほぼなく、腎排泄されます。
半減期:作用部位(効果部位)の半減期は約3〜5分と極めて短い。投与終了後3〜10分で効果が消失するのが最大の特徴です。CSDTもほぼ一定で、長時間投与後でも覚醒遅延を起こしません。

主な副作用
呼吸抑制(急速投与で顕著、フェンタニルよりも強い)
・徐脈・低血圧(迷走神経刺激・血管拡張)
・胸壁硬直(大量急速投与時)
・オピオイド誘発性痛覚過敏(Opioid-Induced Hyperalgesia: OIH:長時間・高用量投与後に術後疼痛が増強する現象。術後鎮痛の早期確立が重要)

臨床的な使い方

持続静注で使用するのが基本です。術中は〜2 μg/kg/minを手術侵襲の強さに応じて調整します。浅麻酔時にはボーラス投与することもあります。近年ICUでも使えるようになりました。

フェンタニルとの使い分け:

レミフェンタニル使用時の注意点:
投与終了とともに鎮痛効果が消失するため、手術終了前にアセトアミノフェン・NSAIDs・フェンタニル追加・神経ブロックなど術後鎮痛を確立しておく必要があります。


3. IV-PCA(静脈内患者自己調節鎮痛法)

概念

PCA(Patient-Controlled Analgesia)とは、患者が疼痛を感じたときに自分でボタンを押して鎮痛薬を追加投与できる鎮痛管理方法です。IV-PCAは静脈内投与によるものです。フェンタニルやモルヒネが使用されます。

設定の基本要素

メリット・注意点

メリット:患者が疼痛に応じて自律的に鎮痛を調整できるため、過不足が生じにくい。看護師の介入頻度を減らしながら良好な鎮痛が得られる。
注意点:代理操作(家族がボタンを押す)は過量投与リスクがあるため厳禁。呼吸抑制・過鎮静のモニタリングが必要。腎機能低下・高齢者ではモルヒネの活性代謝物蓄積に注意(フェンタニルの方が適することが多い)。


4. フェンタニルの区域麻酔への応用

くも膜下投与(髄腔内)

前稿「脊髄くも膜下麻酔」で詳述していますが、フェンタニルの髄腔内投与(10〜25 μg)は局所麻酔薬の効果発現前の早期鎮痛補完と術中の内臓牽引痛の軽減に有用です。
脂溶性が高いため速やかに脊髄組織に吸収され、作用持続は2〜4時間と比較的短い。モルヒネと比べて遅発性呼吸抑制のリスクは低いですが、術後も一定時間のモニタリングは必要です。

硬膜外投与とPCEA(患者自己調節硬膜外鎮痛)

フェンタニルは硬膜外腔への持続投与や単回投与でも使われます。硬膜外から投与されたフェンタニルの一部は脊髄に直接作用し、一部は全身循環に吸収されます。
PCEA(Patient-Controlled Epidural Analgesia)は、硬膜外カテーテルを使ったPCAです。通常は局所麻酔薬(ロピバカイン0.1〜0.2%など)とフェンタニルの混合液を使用します。

PCEAの代表的な設定例

  • ロピバカイン 0.1〜0.2% + フェンタニル 2〜4 μg/mL

  • 背景注入:3〜8 mL/h

  • ボーラス:2〜4 mL

  • ロックアウト:15〜30分

硬膜外鎮痛は全身投与に比べてオピオイド消費量を大幅に削減でき、腸管蠕動の回復・術後肺合併症の軽減・早期離床にも寄与することが示されています。


5. アセトアミノフェンとNSAIDs:非オピオイド鎮痛薬

術後鎮痛においてオピオイドへの依存を減らし、副作用を軽減するために非オピオイド鎮痛薬を組み合わせる「マルチモーダル鎮痛(Multimodal analgesia)」が標準的なアプローチです。その中心的な薬剤がアセトアミノフェンとNSAIDsです。

アセトアミノフェン(Acetaminophen / Paracetamol)

作用機序:末梢・中枢両方に作用しますが、詳細は完全には解明されていません。セロトニン系・エンドカンナビノイド系・COX阻害(弱い)などが関与するとされています。抗炎症作用はほとんどなく、解熱・鎮痛が主な作用です。

特徴
消化管・腎臓への副作用がほとんどない
・抗血小板作用なし → 術後出血リスクに影響しない
・静注製剤(アセリオ®)は術中・術後に広く使われる
・肝毒性に注意(用量依存性。1回1g、1日4g以下)

術後投与の標準:1g/回・6時間おきの定時投与が推奨されます。定時投与により鎮痛薬の血中濃度が安定し、オピオイド消費量を有意に削減できます。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

作用機序:COX(シクロオキシゲナーゼ)を阻害し、プロスタグランジン合成を抑制することで抗炎症・鎮痛・解熱効果を発揮します。
代表薬:フルルビプロフェン(ロピオン®)、セレコキシブ(COX-2選択的)
特徴
抗炎症作用を持つ点がアセトアミノフェンと異なる
・オピオイド消費量を30〜50%削減できる
・消化管潰瘍・腎機能障害・抗血小板作用(術後出血リスク上昇)の可能性あり

使い分けの要点

実臨床での考え方:消化管・腎機能・出血リスクに問題がなければNSAIDsとアセトアミノフェンを定時で組み合わせ(交互投与など)、オピオイドをレスキュー的に使う戦略が推奨されます。腎機能低下・消化管リスクが高い患者にはNSAIDsを避けてアセトアミノフェン主体にします。


まとめ


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