イナビルを小児が2個吸ったら?(イナビル苦労話その2)
前回の記事ではインフルエンザ治療薬・イナビルの吸入指導で苦労した話を書きました。
粉末剤イナビルを小児が適切に吸入できるかというところで苦心することが多かった訳です。
続いて今回お話しするのは、私がミスをしてしまった経験談です。
イナビルの用量は10歳未満には1個(1容器)、10歳以上は2個(2容器)となっています。
あれはインフルエンザが流行して、毎日何人もイナビルを投薬していた時期でした。
問題なく吸入を済ませた小児の患者さんがお帰りになった後、記録を見直した私は、その子が10歳未満だったのにイナビルを2個吸入させてしまっていた事に気付いたのです。
一瞬、最悪の事態が脳裏をよぎりました。
当時私は薬剤師になって3年目。初めての大きなミスに動揺していました。
とにかく体調に異変などが出ていないかを確認するため、すぐに患者さん宅に電話しました。保護者の方に事情を説明したところ、特に変わった様子はないとのこと。
まずは電話にてお詫びをして、後ほどあらためて訪問することを約束しました。
といってもこの後はただ頭を下げるだけではなく、薬剤師として科学的な根拠にもとづく説明もできなければなりません。
処方医の先生にも報告しなければなりません。
メーカー(第一三共株式会社)のMRさんに連絡を取って状況を説明し、小児に2倍量を投与した事例がないか尋ねました。
すると、添付文書には記載されていないが臨床試験では、9歳以下の小児を対象としてイナビル1個と2個の両方で試験を行っており、その結果、有効性は同程度であり、副作用発現率についても2個の方が高くなる傾向は認められなかったとのこと。
それらの試験結果をもとに、10歳未満には1個を「推奨用量」としたということです。
(イナビルの医薬品インタビューフォームにはデータが記載されています)
それを聞いて少し安心はしたものの、ミスをしたのは事実ですし、もし有害事象が起きた場合に、2倍量投与との因果関係を100%否定できるものではないでしょう。
その後すぐに患者さん宅を訪問し、副作用的な兆候がないことを実際に確認したうえで、臨床試験データの内容も説明して、ご理解とご安心をいただくことができました。
ただしこの後、もし何か気になる体調変化などが出てきたらご連絡くださいとお願いし、あらためてお詫びをしました。
この件では、2倍量でも副作用発現率に差が認められないという臨床試験データがあり、実際に有害事象も起こらなかったため事なきを得ましたが、私にとっては大きな教訓、学びとなりました。
何か問題が起きた時には過剰にパニックにならず、かといって過小評価して甘く見ることもせず、科学的なデータを確認し、客観的な評価をもとに判断して冷静に対処すること。
医薬品なら添付文書の文面をそのまま読むだけ(雑な言葉で言えば、上っ面だけを見る)ではなく、その根拠となるデータ・情報まで調べて読み込んで、その薬の本質的なところを把握すること。
そうすれば、添付文書にはこう書いてあるがこの場合はどう考えれば良いのか、または書かれてはいないがこの場合はどう考えれば良いのか、などケースに応じて臨機応変に対応できるようになると思っています。
そのためには常に情報収集に努めることが大事ですね。日々、勉強です。
ところで今回の話は、私の薬剤師としての座右の銘
「薬剤師なら添付文書に縛られるな。
薬剤師なら添付文書を使いこなせ」
にも繋がっているのですが、その話はまたいずれ…。
