あの夜空の下で


夏の終わりは、
どうしてこんなにも人を過去へ
連れていくんだろう。
夜空を見上げるたび、
君と歩いた帰り道を思い出す。
「また来年も、一緒に花火を見ようね。」
あの日の約束は、
花火の音に紛れて夜空へ消えてしまった。
季節は何度も巡ったのに、
私の時間だけは、あの日のまま止まっている。
街は変わった。
駅前のコンビニも、 
待ち合わせしていたベンチも、
少しずつ姿を変えた。
それでも、空だけは変わらない。
同じ星が、同じ場所で光っている。
君もどこかで、この星を見上げているのかな。
そう思うだけで、少しだけ胸が温かくなった。
プラネタリウムのドームいっぱいに
映る星空を見ながら、私は気づく。
本物じゃない星でも、人は涙を流せる。
本物じゃない景色でも、
大切な記憶はちゃんと蘇る。
だからきっと、恋も同じなんだ。
終わった恋でも、偽物になるわけじゃない。
確かにそこにあって、
確かに誰かを幸せにしていた時間だった。
上映が終わる。
照明が少しずつ明るくなる。
周りの人は席を立っていくのに、
私は動けなかった。
最後の星が消えた暗闇の中で、
君の声だけが聞こえた気がした。
「笑って。」
振り返っても、もちろん誰もいない。
それでも私は、小さく笑った。
君が願っていた私になれるように。
外へ出ると、本物の夜空が広がっていた。
プラネタリウムよりも星は少ない。
それでも、一つだけ強く光る星があった。
「あれ、君かな。」
そんな都合のいいことを考えてしまうくらい、まだ少しだけ君が好きだった。
だけど、今日は違う。
君を探すためじゃなく、
自分の未来を見るために空を見上げていた。
あの日の恋は終わった。
でも、あの日の恋があったから、
今の私がいる。
失うことは、終わることじゃない。
誰かを本気で好きになれた証なんだ。
だから私は歩き出す。
次の季節へ。
次の恋へ。
そして、また誰かと星を見上げる日が来たら──
私はもう、寂しさじゃなく
「ありがとう」を夜空へ届けられる気がする。
君を忘れたわけじゃない。
君との思い出より、これから増える思い出が、少しだけ多くなっただけ。

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