支配のルージュ ~小説で堕とされる私~ 第31話 (最終話)目覚め
“お披露目”から一夜明けて。
カーテンの隙間からは、やわらかな朝の光が差し込んでいた。
美伊子は、ゆっくりとまぶたを開けた。
(……寝てたの?)
昨夜、朱雀からのメッセージを見て以来、興奮と不安で眠れなかったはずだ。
それでも、いつの間にか意識を手放していたらしい。
夢の続きを追うように、スマホを手に取る。
画面には、やはりたった一行だけ、こう書かれていた。
《Rouge。明日十時、〇〇駅の東改札にいます。会いにきなさい。》
(……会いに、きなさい。)
その言葉を読むだけで、身体が震える。
恐怖でも、羞恥でもない。
もっと静かで、深い震え。
魂の震え。
美伊子はベッドから身を起こした。
薄いシーツが滑り落ち、肩口から胸元に朝の冷気が触れる。
鏡を見る。
胸には、朱雀の証がルージュで刻まれたまま。
そこに触れると、かすかな痛み。
皮膚の下――いや、もっと奥、心臓のすぐそばに。
「生きる」痛みだ。
(朱雀さま……ここにいるんですね。)
小さく微笑みながら、鏡の中の自分を見つめた。
そこにいるのは、あの空虚を抱えていた美伊子ではない。
「朱雀のもの」だ。
彼女は静かに引き出しを開け、ルージュを取り出した。
指先でふたを開ける。
赤い軌跡が、朝の光の中で輝く。
唇にゆっくりと朱雀の色を塗る。
鏡の中の女が、朱に染まった唇で、静かに言った。
「――これから行きます。朱雀さま。」
美伊子は、覚醒した。
(完)
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