手を洗うたびに、心が荒れてゆく|シロクマ文芸部
「手を洗うたびに、心まで綺麗になれます」
そう謳った本を最近本屋で見つけて購入した。
その本によると、手を美しくすると清廉潔白な心までもが手に入るらしい
手が綺麗になっていく過程で、心の澱が溶けて真っ直ぐな心を持てると書いてあった。
わたしはその日から、ことある毎にゴシゴシと隅々まで手を洗うようになった。
食前や帰宅後はもちろんのこと、どこへ行ってもトイレへ行き、気が済むまで手を洗う癖がついた。
手はどんどん清潔になってゆく。
美白効果もあるような気がして、嬉しくて毎日気が済むまで洗うようになった。
おかげで彼氏と手を繋ぐのが嬉しくなり、愛情がさらに深まっていく気がした。
ある日、朝起きていつものように手を洗おうとすると、右手の親指にあかぎれができているのに気づいた。
それでも手を洗わないと気が済まない。家の中に大量にあるハンドソープを思い切り泡立てて、あかぎれを気にすることもなく隅々まで洗った
もちろんあかぎれはどんどんひどくなっていったし、痛みも日に日に強くなる。
仕方なくドラッグストアで良さそうなあかぎれ用の薬を買ってきて、満遍なく塗った
しかしあかぎれは一向に治らない。
当たり前だ。薬を塗る以上に手を洗っているのだから。
いつの間にか、わたしは潔癖になりすぎて人と握手することができなくなってしまった。
付き合っていた彼氏とも手が繋げなくなったし、電車のつり革やドアの持ち手も触れないくらい潔癖はひどくなっていった。
おかげで今度は除菌スプレーまで携帯せざるを得なくなった
あかぎれはもちろん全く治らない。
ついに皮膚科にまでかかる羽目になってしまった。
手が荒れたせいで、あんなに好きだった彼氏にも振られてしまった。
もういい。
わたしはその本を古本屋に売った。
わたしの手はどうなるの?
怖くなり、いつの日か手を洗うのをキッパリやめてしまった。
1ヶ月後、古本屋を覗いてみると、あの本は棚から消えていた。
誰が買ったんだろう。不思議な、でもなんだか恐ろしい気持ちが胸に押し寄せてきた。
不安に駆られながら、持参した本を持って買い取りカウンターへと足を運んだ。
するとわたしと同い年くらいの女性が本を持って順番を待っていた。
女性の手を見ると、わたしに負けないくらいボロボロに荒れている。
怖くなって女性が抱えていた本に目をやった。
それはわたしが売った、
「手を洗うたびに、心まで綺麗になれます」
と書かれた、あの本だった。
小牧部長、今回もよろしくお願いいたします。
わたしがこのような小説を書くのは、初めての人には意外かもしれませんね。
まあ、なんでも書くということで……。
わたしが生きづらさ研究家を名乗った経緯については、こちら
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