月には甘酸っぱさが分からない|シロクマ文芸部
月の味覚は人と違う。なぜか酸っぱさをほとんど感じることができないのだ。甘味や辛味は、人並みに分かる。試しに今日も夕飯にきゅうりの酢の物を作ってみたが、やはり酸味は全く感じられなかった。
月には憧れの人がいた。同じ大学の1年先輩である剛だ。バイト先も同じで、まるで兄妹のように仲が良かった。
しかし、剛には他に好きな人がいた。片思いだったが、月は剛の純粋な気持ちを大事にしようと決めていた。告白もせず、剛とたまに一緒に遊ぶときに楽しい時間を過ごすだけにとどめていた。
ある日、いつものように剛と大学の食堂でランチをとっているとき、彼が好きな人に告白して振られたことを知った。剛の表情は苦悶に満ちていた。
励ましたい気持ちはあったものの、月にできることは何もない。できることといえば、ただそばにいて話を聞くことくらいだ。そのとき一緒に食べたみかんアイスの酸っぱさは、やはり月には分からなかった。酸っぱいって、いったいどういう感じなんだろう?
それから数日後、剛は月を映画に行こうと誘った。月は嬉しかったが、剛の気持ちがよく分からない。どうして私を誘うの?あなたの気持ちは落ち着いたの?
映画を観に行った帰り、二人はその辺りでは有名なケーキ屋で、一番人気のいちごショートを食べることにした。月は、いちごの酸っぱさなんて分からないからつまらない、と内心思っていた。
しかし、普段ショートケーキを食べても何も感じない月が、そのときはなぜかいちごの甘酸っぱさをはっきりと感じたのだ。
「ああ、これが今剛先輩が感じているものなのかもしれない」
そう思った途端、月は
「つ、剛先輩、わたし、今いちごの甘酸っぱさを感じました!」
と、店じゅうに響きわたるほどの大きな声で叫んだ。
「本当に?良かったじゃん!これで月も初恋の味を知ったわけだ」
と微笑む剛。
それを聞いて、月はもっと甘酸っぱさを感じようと、残りのケーキを食べた後、剛のケーキのいちごまで奪って頬張った。
「剛先輩は、何も分かってない。わたしは初恋の味くらい、もう知ってるんです!」
「分かってるよ」
剛はそう言って、ポンポンと月の頭を撫でた。
「今まで言うの我慢してくれてたの、知ってる。本当にごめん。もう少し時間が欲しいんだ。もう少しだけ、待って……」
月は何も口にしていないのに、今まであれだけ感じなかった酸っぱさが、口の中いっぱいに広がるのを感じた。
小牧部長、久しぶりによろしくお願いいたします!
(部長への私信)
先週noteでは投稿していなかったのに、Xでの投稿を週刊シロクマに載せてくださってありがとうございました!お心遣いが嬉しかったです。
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8月以来のぎっくり腰をやってしまったので、読むほう少しお休みしています。すみません…。
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