AIネイティブとシニアとの黄金期: AI時代を世代と世代が手を取り合う時代へ
< 笠木治郎吉(1870 - 1923)『提灯屋の店先』>
本記事は、『World Happiness Report 2024』が明らかにした日本の若年層と高齢層の幸福度格差を起点とし、AIネイティブ世代の出現、シニア層との相互補完的な関係性に触れながら、世代間協働による共創社会の展望を描こうとしたものです。
低い日本の幸福度と、「世代間格差」
先日、2024年版の『World Happiness Report』を読む機会がありました。
本レポートは、国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network, SDSN)」によって発行され、毎年3月20日の「国際幸福デー(International Day of Happiness)」に合わせて公表されています。そのため、2025年版も既に出ているのですが、2024年版の『World Happiness Report』は、従来の国別ランキングに加え、世代間における幸福度の差異に焦点を当てた点で読み応えがありました。
2024年版における日本の幸福度総合ランキングは143カ国中51位であり、前年の47位から順位を下げました。(そして、2025年版では、55位へとさらに下げています。) この順位低下の背景には、経済の停滞における生活満足度の実感の希薄さが関係しているのではないかと指摘されています。
しかし、ここで注目すべきは、年齢層によって幸福度に著しい違いが見られる点です。レポートによれば、日本における60歳以上の高齢者層の幸福度は世界36位と比較的高い水準にある一方で、30歳未満の若年層は73位と大きく順位を下げています。両者の差は37ポイントに及び、これは調査対象国中でも際立って大きい格差になっています。
この結果は、本レポートの中でも、日本が「高齢者が最も幸福で、若者が最も幸福でない国」であると明示的に指摘されています。こうした構造的な幸福度の乖離は、単なる世代間の主観的満足度の差というよりも、不確実な未来への不安、経済的・社会的な機会格差を反映している可能性が高いとも述べられています。
10代の「IQからEQへ」と呼べるAI認識と、「AIネイティブ」
2024年11月、博報堂DYホールディングス Human-Centered AI Institute ( https://hcaii.com/ )は、全国の15~69歳の生活者を対象に「AIと暮らす未来の生活調査」を実施しました。この調査は、生活者の現状のAIに対する意識や利用状況に加え、将来的な期待や意向を明らかにすることを目的に行ったもので、結果から生活者にAI関連サービスが急速に浸透していることや、公私含めた様々な活用が確認され、高い期待意識も確認できました。
調査結果の分析を通して、特に若年層、中でも10代のAIに対する態度と使用傾向に独自の特徴が見出されました。従来のよく言われる「デジタルネイティブ」とは異なる、新たな概念としての「AIネイティブ」が浮かび上がってきていると見て、別途、記者発表会も行っています。
例えば、10代の60%以上がAIを日常的に使いこなしている一方で、AIに対する不安も同時にどの世代よりも高く抱いていることが示されています。今の20代〜30代前半のデジタルネイティブ世代は、デジタル技術をそのリスクも心得て活用する世代であったことに対して、10代はAI技術を創造的に活用しながらも、AIに社会が制御される懸念も大きく持つという両面性を有しています。
また、調査では、以下のような数値も報告されています:
10代の過半数(50.9%)がAIを「バディ(相棒)」として捉えている
10代女性の16%が、親や友人ではなくAIに個人的な相談をしている
10代全体の28%が、AIに恋人になって欲しいと思っている
これらの結果は、AIとの関係性を単なる道具としての機能的側面にとどめず、情緒的パートナーとしての存在へと認識を広げている兆候とも言え、「AIネイティブ」という新しい世代像が出現していることを示唆するのではないかと思料しています。
これまでの主に20代以上のデジタルネイティブ世代は、インターネットの発展と共に成長し、次々と登場する情報サービスに触れながら社会へと参画してきました。彼ら彼女らは、ビッグデータを背景とした GAFAM 等が提供する高度なアルゴリズムに対してある種のIQを感じ、敬意を払いながらも、積極的・日常的に検索エンジンやソーシャルメディアを駆使し、情報処理能力に優れた世代としてそのポジションを確立してきました。
それに対して今の10代は、AIに対して「気持ちの理解」、「寄り添い」といったEQ的な側面を感じ取っており、検索エンジンによる情報処理とは対照的に、対話型AIによる感情的なやりとりや共感を重視する傾向を持っています。こうした傾向は、AIとの主観的・心理的距離の近接性を意味し、従来のテクノロジー観に一石を投じているとも言えます。AIに機能的効率性だけでなく感情的連携を求める、あるいは、AIを「道具」から「存在」だと見る、という認識の変容は、今後のAIやその社会実装のあり方にも影響を与えるパラダイムシフトであり、人とAIの関係の中にダイナミズムをとらえる視点が重要になるのではないかと思うのです。
AIとの共進化関係と、「コンパニオン・スピーシーズ」
生成AI登場以前の2019年に、筆者は、「AIネイティブなる世代に向けて」という note 記事を書きました。もう6年以上前の記事です。
記事の中では、Deep Learning にフォーカスし、取り上げていますが、Deep Learning が従来のITのモジュール型アーキテクチャのアプローチではうまく扱えないことを述べていて、AIは喩えるなら「とても活きのいい大型新人」であると指摘しました。生成AIに対して最近よく言われる喩えでもありますね。その上で、「AI技術はツールではなく、ポケモンのようなもの」とも表現しました。
更に喩えるなら、AI技術はツールではなく、ポケモンのようなもので、AI 技術を使う人には、ポケモンのトレーナーのような感じの振る舞いやマネジメントが大切になってくるかもしれません。つまり、ポケモンにどういう餌を食べさせるか、というトレーナーの基本があって、それはAI にどういう学習データを食べさせるかとうことになりますし、...(中略) …逆に変なものを食べさせないとか、偏食させない(過学習を避けるために)とか、が出てきます。ちゃんと適量食べさせるとか。むしろお腹いっぱい食べさせるとか。そしてポケモン(モデル)は進化して、時に一発ですごい進化をして、とんでもない精度を出したりする。ただ、ポケモンの細かいところは制御できない。戦いは、ポケモンに任せていくしかなく、ポケモン中心にどう戦うかを考えていくことになる。
これは、テクノロジーに対する人間側の受け止めや思考様式に、アップデートが求められているということではないかと思っています。今日のAIはDeep Learning、すなわち、機械学習ベースであり、それゆえ明示的なルールの集合ではなく、膨大なデータセットを通じて統計的な確率分布を学習するものです。この分布は静的ではなく、訓練データと環境との相互作用によって動的に変容し続ける。このような仕組みを前提にして現代のAIと接する世代は、従来のアルゴリズム的思考やアーキテクチャ的思考や決定論的な論理構造ではなく、モデル的・確率的な思考を初期から内面化することになります。これにより、AIの設計・活用における発想自体が質的に異なるものへと移行します。その変化の一つが、前述したAIネイティブとも呼べる10代の、AIに感情的連携を求める、あるいは、AIを「道具」から「存在」だと見る、という形で表れているということなのかなと。
このような思考様式の変容の結果、AIをただ使うのではなく、AIを育てるという感覚にも近づきます。そのため、AIネイティブ世代を「AIのトレーナー」と見て、その役割を『ポケモン』に登場する「育成と進化」のメタファーを用いて説明できるのではないか。この note の記事を書いたときはそのように考えました。AIは固定的な何かではなく、進化しうる存在であり、その進化を誘導するのが人間であるという、生成的な関係性が示唆されます。そしてその関係は、双方向的でもあります。
この「AIを育てる」という視点は、人とAIの共進化的関係性を描くものだと思っています。これは Donna Haraway が 「コンパニオン・スピーシーズ(companion species)」という概念で表現した人間と非人間の相互形成関係にも通じています。
コンパニオン・スピーシーズとは、直訳すると「共に生きる種」ということで、文字通り「コンパニオン(仲間、伴侶)」となる「スピーシーズ(種)」を意味します。人間と他の種(特に Haraway は犬を例としました)が、種の違いをこえて、単なる支配・被支配の関係ではなく、相互に影響を与え合い、共に歴史を形作ってきた存在であることを強調する概念です。人間が一方的に動物を飼いならしたり利用したりするのではなく、動物もまた人間の生き方や社会、文化に影響を与え、相互に変化してきた関係性(co-shaping)を重視します。
この相互に影響を与える関係は、共に暮らし、働き、遊び、進化してきた歴史的な関係性全体を形成しています。単なる共生(symbiosis)を超え、互いの存在そのものが深く結びついているのです。Haraway は、自身の飼い犬との具体的な関係性を出発点に、この概念をフェミニズム、ポストヒューマニズム、科学技術論等の文脈で展開し、人間と非人間(動物、機械など)との境界や関係を問い直すための重要な視点を提供しています。
これは以前、双極思考(Polarity thinking)として説明したアプローチに近く、近代的な思考に通底する、自然と文化、人間と動物といった二項対立の境界線を問い直し、それらが複雑に絡み合っている現実を描き出そうとしています。
このような文脈において、AIネイティブは、技術に順応した存在ではなく、技術を共に成長させる実践主体として再定義されるのではないでしょうか。
実際、現在の10代がAIとどのように関わっているかを見ると、当初予見していたAIネイティブ像をこえる部分(感情的寄り添い)はあるものの、従来世代とは異なる認識枠組みでAIを捉え、活用する特徴が現実に登場している点において、新たな時代の到来を確認することができます。
そして、この話を、「AIは従来の技術とは異なる。そして、それを実践できるAIネイティブ世代が登場している」という発見の共有だけにとどめずに、従来世代の学び直し、リスキリングの話にもつながってくるのではないかということも後で述べてみたいと思いますが、ここではいったん、note 記事の以下の引用を示しながら、次の話題へと移っていきます。
新たな技術を「ツール」や「一つのファンクション」としてとらえると、既存の枠組みの中に押し込んでしまうため、うまくその驚異的なパフォーマンスを引き出すことができず、エンジニアリングの価値を発揮しきれなくなってしまうでしょう。その価値を引き出せる若い世代の活躍が必要です。そして人生100年時代、旧来の教育を受けてきた世代にも従前の、長い間常識だとされていたり、この業界の基礎だとされていた知識の枠組みや発想にとらわれない、新たな学びが重要となっています。
AIによる平均化の罠と、「独自性」
さて、AIはその技術の進化・発展をとめることなく加速させ、いまや広告におけるパーソナライズ、医療での診断、自動車の操縦から都市エネルギーの最適化まで幅広く活用されており、生成AIは、文章、画像、音楽や映像、企画からプログラムに至るまで、人間の知的生産活動や創作活動を支援・代替しうる性能を示しています。これにより、これまで技術的・資源的な制約によって実現が困難だった多様な表現が、より多くの個人にとっても実感できるものとなりました。
従来であれば高度な専門性や時間、労力を要したタスクが、AIとのコラボレーションを通じて迅速に行えることとなり、創作の裾野も広がっています。誰もがAIを用いて絵を描き、作曲し、物語を書いて、動画を作成し始めています。これは、人間の創造行為に新たな可能性をもたらすという点で、極めて肯定的に評価されるべき側面を含んでいます。
一方で、一般的に生成AI、とりわけ大規模言語モデル(LLM)が行っていることは、「人がある質問をしたとき、どのようなレスポンスが確率的にもっともありえそうかを踏まえて、回答を作成する」ということです。生成AIが、このように根源的に「大量データの統計的学習」によって成り立っている以上、その生成されるコンテンツは、「最大公約数的な回答」=最も確からしい平均的な出力へと収束しやすい構造的限界を孕んでいます。
この点は、創造性の本質が「独自性」や「逸脱性」にあることを考えた場合、深刻な懸念材料となります。実際、個人がAIによる支援のもとにアウトプットを生み出しても、結果としてそれが他者の成果と類似性を帯びやすくなる現象は、すでに生成コンテンツの量産現場で顕著です。AIを用いて作成されたアウトプットはどれもこれも似通った凡百なものとなり、人の知的生産活動・創作活動はスパムの海であふれるというディストピアです。
マーケティングの領域で著名な Harvard Business School の Youngme Moon 教授は、競争や量産化によってどの製品も画一的になりうる市場においては「違い」を生み出せるかどうかがクリティカルな能力となると説いています。
生成AIによってどのアウトプットも画一的になりうる恐れのある今、このような懸念を克服するためには、単にAIを「使う」ことにとどまらず、いかにAIに違いを生み出させるか。違いを生み出す違いとしてのディレクションを行っていくことが重要になります。言い換えるならば、AIが返してくるアウトプットに対して、ユーザー側が意図的な構造・制約・フレームワークを与え、平均化に抗するような方向性の提示が必要です。例えば、世に訴えたいユニークなメッセージ、異質なスタイルや要素の組み合わせ、自分ならではの感情的文脈、文化的逸脱、他の人はもっていない経験や視点、それらをインプットやプロンプト設計に組み込むことで、AIに対して独自性を持つ出力を導くことが求められるということです。
AI領域の有識者である、日立製作所フェロー・ハピネスプラネット代表取締役CEOの矢野和男さんと先日議論をしたのですが、その中で、矢野さんもAIを用いた創造的成果において「独自性」は不可欠な要素だと語られてました。
生成AIが生産活動のアシスタントとして広く利用される現代においてこそ、アウトプットの個性や差異性は、AIではなく人間の側の「問いの立て方」「導き方」に依存する部分が大きくなっています。AIの使いこなしにおいて最も問われるのは、技術力やツール操作の巧拙ではなく、どのようにAIと共に「他と異なるもの」を作り出すかという構想力と批評的眼差し、それを生み出せる自身の中にある「違い」ともいえるかと思います。
シルバーワーカーの黄金期と、「暗黙知」
調査会社のガートナーの著名アナリストである Daryl Plummer 氏が、2023年11月に提示したビジョン「7 Disruptions You May Not see Coming in 2023-2028」の中で、7つの破壊的な未来を紹介しています。
独特の切り口で分析された内容でいずれも興味深い予測ですが、そのうちの一つに「The Golden Age of the Silver Workers (シルバーワーカーの黄金期)」というものがあります。

これは、AIの浸透により、シルバーワーカー(高齢の熟練人材)が高い生産性で価値を提供するハイパフォーマー人材へと変貌する時代が訪れるという予測です。
大量のデータに基づいて学習されたAIは、様々な領域での多くのタスクにおいて、平均的な人材のパフォーマンスをやすやすとこえることができます。しかし、AIが担えるのはあくまでもデータ化されている明示的知識(explicit knowledge)に基づくものであり、それは単なる情報の統計的羅列にすぎません。熟練人材は、データ化されていない経験や、非構造的・文脈依存的で言語化困難な「暗黙知(tacit knowledge)」を保有しています。この Plummer 氏の予測は、AIにこの熟練人材の暗黙知を掛け合わせていくことで、他の世代が実現できない価値を創出することができるという主張であり、企業のブレークスルーの鍵をも握りうるとするものです。
ところで、生成AIの普及は、企業内のデータ、ドキュメント等の知識資源の活用方法を再編成しつつあります。ファインチューニングでLLMに企業のデータを学習させる方法や、RAG(Retrieval Augmented Generation)というテクニックでデータ・ドキュメントを検索したり、連携させたりする方法が、多くの企業で導入されていることは以下の記事で書きました。
ですが、企業内の重要なノウハウの多くは、データやドキュメントとしての形式知になっていないという問題があります。いわゆる企業の属人化の問題であり、暗黙知の問題です。ここで、上記の熟練人材の暗黙知をどう生かすかというテーマにつながってきます。
Michael Polanyi が著書「Tacit Dimension(暗黙知の次元 言語から非言語へ)」(1966)の中で「人は語ることができないことも知っている」というテーゼを提示していますが、AIとの対話によってそれをどのように引き出すかがポイントになります。生成AIシステムとのインタラクションを通して、高度な経験を有する熟練人材(シルバーワーカー)の暗黙知を積極的に活用していく、もしくは明らかにしていき、形式知へと変換していく、そのようなアプローチが重要になるということです。
組織的AI人材育成と、「世代間連携」
人材が持つ暗黙知を活用していくことが重要ではありますが、そのためには人材がAIを使いこなすことが前提にもなります。新しいテクノロジーに関する人材育成、リスキリングの重要性については、以前以下の記事でも書きました。
2024年度、博報堂DYグループでは、延べ8,500人以上の社員がAI人材育成トレーニングに参加したというプレスリリースを行いました。これは、一部のAIエキスパートだけでなく、あらゆる社員がAI活用を行うことで、全社的な能力変容を推進する動きでもあります。
トレーニングの開発は、現場で実際にプロジェクトを牽引しているクリエイター、マーケター、ストラテジックプランナー、AIエキスパートがリードし、行っています。理論だけでなく実践知を組み合わせ、創造性を高めるためのAIリテラシーとプロフェッショナル能力の向上を企図しています。そして、さらなる施策として我々が考えているのは、AIを使いこなす若手層と、暗黙知を保有するシニア層とのコラボレーションです。
先日、博報堂DYグループであるアンドデジタルCTOの岡村さんと行った対談の中でも、企業が新しい価値を生み出す可能性として若手社員とベテラン社員の組み合わせによるシナジーに触れました。
世代間の違いも重要な要素だと実感しています。若手はAIツールの操作に長けている一方、ベテラン社員は豊富な業務知識を持っています。この組み合わせが、新しい価値を生み出す可能性を秘めているんです。
若手人材は、AIのパフォーマンスを最大限に高める術に詳しく、使いこなしている存在です。
熟練人材は、長年の経験によって培われた業務知識・顧客知識・業界知識を持ち、AIのパフォーマンスをさらに高めうる文脈的対応・判断を行える存在です。若手人材と熟練人材が手をとることで、AIの可能性をさらに解き放っていく。組織におけるAI人材育成は、テクノロジーへの理解を深めるだけでなく、世代間の創造性や知識の再統合を促進するものとして進めていくことが肝となるでしょう。
幸福度の差の少ない国々と、「世代間協働」
ここで冒頭であげました、World Happiness Report に今一度戻ろうと思います。『World Happiness Report 2024』の様々なデータを眺めていた際に、アイスランド、オランダ、スイスの3つの国に関心を惹かれました。
これらの国々は、アイスランド(3位)、オランダ(6位)、スイス(9位)と総合的な生活満足度において高い評価をそれぞれ受けているのですが、とりわけ注目すべきは、若年層(30歳未満)と高齢層(60歳以上)の幸福度の差がきわめて小さい点です。
アイスランド:若年層4位/高齢層5位(差1ポイント)
オランダ:若年層9位/高齢層7位(差2ポイント)
スイス:若年層13位/高齢層14位(差1ポイント)
このような世代間の幸福の平準化は、単に福祉制度の整備や人口規模の安定といった要因に還元されるものではなく、より深層的な社会的支え合いの文化や関係性の質が関係していることが、レポートからも浮かび上がってきます。これらの国々に共通するのは、親子間や世代間の関係性の良好さ、そして人々が孤立していない社会であるということです。幸福度は、個別的要素の集合というよりも、人間関係の質や相互依存の密度によって支えられているのではというところが見えてきます。例えば、親世代と良好な関係を築けている若年層は心理的な安定と自己肯定感を享受でき、結果として他の世代とも交流し、若い世代も高齢者も社会的に孤独を感じずに生きられる、ということです。
日本の幸福度ランキングが2023年の47位から2024年には51位へ(そして2025年に55位へ)と後退した背景には、若年層の満足度の低下があるとされてます。これは、経済的停滞や将来不安が大きいわけですが、あわせて世代間の断絶や社会的孤立も心理的な要因として作用していると考えられます。
この点で、若年層と高齢層の協働と共感の再構築は、日本における幸福度の反転の狼煙ともなりえます。若者はAIを使いこなし、高齢者は経験や暗黙知を有する。ここに、AIを媒介とした「知の共創空間」を形成する意義が生まれます。
未来の働き方は、単なるリモートや自動化による「効率化」ではなく、世代間の多様な知識と感性がAIを通じて融合する「共創空間」の構築によって特徴づけられるべきなのかもしれません。
組織内での心理的安全性と学び合いの文化の形成。若年層によるAIリテラシーの伝播と技術的導入の加速。熟練人材による経験知・文脈知の提供と判断の質の向上。そして、AIによる創造とコラボレーションの支援。最終的にそのような空間の構築が、来たるべき「人間中心のAI(Human-Centered AI)」の本質なのかもしれません。AIが単に「人間の代替となる道具」としてではなく、「人間と人間をつなぎ、相互理解を媒介する存在」として機能する未来社会は、このような世代間の協働によって可能になるのでしょう。
終わりに (未来へ)
「World Happiness Report 2024」が明らかにしたように、現代日本社会は世代間における幸福度の著しい格差を抱えています。若年層は高齢層に比べて生活満足度が低く、不安感を多く抱えつつも、AIに感情的な寄り添いを感じながら積極的に活用する「AIネイティブ」として新たな可能性を有している。一方で、高齢層は相対的に幸福度が高いが、AIリテラシーやテクノロジー活用に対する抵抗感や未使用の傾向があり、今後のAIを活用したビジネスにおいての懸念がある。であるが、業務や人生経験を通じて蓄積された暗黙知(tacit knowledge)を保有しており、その知見はデータ化されていないパフォーマンスの源泉となりうる。
このような構図の中で、単なる世代間の比較や断絶に留まらず、この2つの資質を交差させ、若者がシニアにAIの使い方を教え、シニアが若者に経験や洞察を伝えるという、相互補完的な関係を築くことが、次世代に向けて大切でしょう。
本記事のタイトル画像なのですが、収集家 高野光正氏のコレクションにある笠木治郎吉作の「提灯屋の店先」。提灯屋三世代が協力し、提灯を作り、飾る日常の姿が描かれています。
この絵のように、世代と世代が手を取り合い、コラボレーションをしていく。そしてその媒介としてAIが存在する。「世代間協働 x AI」という視座で様々な取り組みを進めることが、日本社会の幸福度にも貢献する、進むべき道筋ではないか。そう考えています。
関連文献
Sustainable Development Solutions Network. (2024). World happiness report 2024. Retrieved from https://worldhappiness.report/ed/2024/
博報堂DYホールディングス. (2024). AIと暮らす未来の生活調査. Retrieved from https://www.hakuhodo.co.jp/news/info/113311/
Mori, M. (2019). AIネイティブなる世代に向けて. Retrieved from https://note.com/masayamori/n/n61f93076442e
Haraway, D. (2003). The companion species manifesto: Dogs, people, and significant otherness. Chicago: Prickly Paradigm Press.
Polanyi, M. (1966). The tacit dimension. London: Routledge & Kegan Paul.
Moon, Y. (2018). Different: The new rules of competition. Harvard Business Review, 96(1), 50-57.
Plummer, D. (2023). 7 disruptions you may not see coming in 2023-2028. Gartner. Retrieved from https://www.youtube.com/watch?v=rVbvcIFeLYw
博報堂DYグループ 生成AIに関する専門知識獲得・活用促進のための体制整備を加速 グループ各社の生成AI教育関連研修にてのべ8,500名超の従業員が参加. Retrieved from https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/news/corporate/2025/03/5342.html
