シリーズ ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー 第3幕第4場 ~5重唱
第3幕4場の5重唱
“Selig, wie die Sonne” は、
ワーグナーが書いたアンサンブルの中でも
最も美しいものの一つです。
ヴァルターがザックスの前で歌った歌、
その3節目はエーファの前でもありましたが、
《幸せな朝の夢ときの歌》
とザックスによって命名されました。
この調べがスクスクと育つよう
これから洗礼式が行われます。
最年少の立会人のエーファから
祝いの言葉を述べます。
では5重唱全体の歌詞を見てみましょう。
(原語は後ろの譜例をご参照ください)
****************
エーファ
太陽が私の幸せに
笑いかけるように、
朝は喜びにあふれて
私の前に立ち現われました。
最高の慈愛に満ちた夢、
天を思わせる朝焼け。
この歌を作り上げた努力を
皆で讃えましょう。
優しくも気高い調べに
成長しますように。
そうすれば、私の心も
安らぎを得ることができるでしょう。
ザックス
この子の前で私も愛情を込めて
優しい歌を歌いたかった。
だが、この心の痛みは
耐え忍ばなくては。
ヴァルター
きみの愛が僕に
この歌を作らせたのだ。
これで僕の心は落ち着きを
取り戻すことができる。
マグダレーネとダーフィト
夢か現実か分からない。
何が起きたんだろう/でしょう?
エーファ
これはただの暁の夢だったの?
ヴァルター
僕はまだあの夢の続きを見ているんだろうか。
ザックス
あれは美しい夢だった。
エーファとヴァルター
あまりに幸せで考えることもできない。
僕に/あなたにそっと語りかけたこの調べは
何を意味していたのだろう/でしょう。
ヴァルター
この静かな部屋で生まれた歌を、
二人
マイスター方の集まりの中で
高らかに歌い、
ヴァルター
最高の賞に臨んでみよう。
エーファ
この歌が最高の賞を意味していますように!
ザックス
この歌を解明することなどできない。
この静かな部屋で私が書き取った
あの調べは
はっきりと私に告げた、
詩人としての賞によってのみ、
この調べは息づくのだ、と。
マグダレーネとダーフィト
これはただの暁の夢だろうか/でしょうか。
本当とは思えない。
ダーフィト
この場でもう職人に?
レーネは花嫁になるのか?
教会で式も挙げられるんだ。
いずれマイスターとも
呼ばれるようになるかと思うと、
頭がぐるぐる回るようだ。
マグダレーネ
ダーフィトはもう職人になったの?
私は花嫁なんだわ。
結婚できるようになったのね。
そうよ!まちがいないわ。
私がマイスター夫人と呼ばれるのも
遠くないなんて、
誰が思ったかしら。
****************
最初はエーファがしばらくソロで歌ったのち
ザックスの声が入り2重唱、
そしてヴァルターの声が柔らかく入声して
3重唱となります。
ダーヴィットとマッダレーネが最後に加わり
5重唱となります。
この声の加わり方がなんとも素敵です!
その音楽の全てをご覧いただきましょう。






この5重唱は「マイスタージンガー」のテーマである
「古くて新しい響き」
これに対するワーグナーが出した答えなのでは、
と私は感じるのです。
古い技法であるバッハ的な対位法の極致を示しつつ、
新しい半音階的表現を織り交ぜている、
この5重唱は作品テーマの象徴となっているのです。
またこの5重唱は3幕全体(約2時間かかる)の
ちょうど折り返しを過ぎたあたり、
大体70分くらいのところに置かれています。
3幕は2人の対話を中心においた室内劇として展開し、
4場まで来ると若干聴衆も疲れてくる頃かもしれません。
しかしここに感動的な5重唱がくることにより
聴衆の集中力が維持されることとなります。
すぐさま野外の場面、合唱の場面に移行し、
開放感を味わうことになりますので
長い3幕も問題なく聞き通せるという
ワーグナーの計算も働いていることでしょう。
