【短編小説】『確率変動』羽野柾人+ChatGPT
──静かに終わり、
静かに続く世界の物語。
世界は、ゆっくりと閉じようとしていた。
誰もが薄々気づいていたが、誰も大して気に留めなかった。
人の声が少しずつ小さくなり、
笑いの響きが同じ空気を揺らす機会もなくなった。
数字は静かに下降し続けたが、
それを憂い嘆く人はいなかった。
まず、距離が変わった。
人の肩と肩のあいだに、見えない空気の層ができた。
拒絶と配慮の境目に生まれた、うすい空間。
それを埋めようとする者は、もういなかった。
つぎに、温度が変わった。
手のぬくもりが、記憶の中の出来事になった。
画面の光で満たされた部屋には、
息づかいの重なりが、途絶えて久しい。
そうして、未来の確率が静かに消えていった。
場所も、
声をかけるタイミングも、
すべて“保留”のまま時が過ぎた。
小さな靴、淡い色の髪飾り、
ピアノの発表会のドレス。
女の子のためのものが、少しずつ売れなくなった。
ただ、流通の統計に微かな傾きが現れ、
世界はほんのわずかに、
“均衡の外側”へと移動した。
地下鉄の発着時間が、一秒だけ早く進み、
信号はわずかに点滅を遅らせた。
誰も気づかなかった。
けれど、その小さなずれの中で、
声が届かずに消える瞬間が、確かにあった。
そんな微細な不整合が積み重なって、
都市は少しずつ眠り始めた。
争いもなく、叫びもなく、
ただ静かに、等号の中へと収束していった。
いつもより五分だけ早く、アラームが鳴った。
枕元に手を伸ばす。
四角い小さな画面が、
淡い光を放ちながら、昨日のままを映している。
noteの記事が開いたままだった。
タイトルの行間に、
知らない誰かの指先が残したスクロールの跡があった。
窓辺へ向かう足が、わずかに軽い。
カーテンを開けた。
窓に手をかける。
隙間から漏れる冷たい空気が頬を撫で、
ベランダで羽を休めていた小鳥が、
起き抜けの街へ羽ばたいていった。
幼いころに耳にした鳥の声。
そのさえずりが、
人類を滅亡の危機から救う──
再起動音だった。
小鳥の行き先で、
どこかで誰かが、
見知らぬ誰かに視線を向け、
何かが、ほんの少しだけ動いた。
世界は気づかない。
でも、確率は動いた。
誰もそれを奇跡と呼ばない。
ただ、一羽の鳥が飛び去り、
空が、少しだけ青く見えただけ。
──そして世界は滅びを逃れ、静かに続いていく。
