【ショートショート】『四次元の視線』
『四次元の視線』
私は、どうしても同級生の制服の内側が
見たかった。
理由なんて、うまく言えない。
ただ、狂おしいほどに見たいと思った。
けれど、当然ながら見えない。
布が、そこにあるからだ。
「隠されている」という事実が、
私の渇望を煽っていた。
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ある日、私はふと思いついた。
「次元を超えて見れば良いんじゃないか」
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三次元において、物質はすべてを遮る。
壁も、扉も、皮膚も。
それらは「境界」として、私の視線を跳ね返す。
けれど、四次元という高みから見下ろせば、
話は別だ。
すべての立体は、単なる「断面」に成り下がる。
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私は、悩み、考え、無になった。
思考の深淵に潜り、概念の殻を剥き続けた。
一枚一枚。
それは、世界にかかっていた薄い膜を、
一枚ずつ剥いでいく感覚だった。
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最後の一枚がつるんと剥けた時だった。
彼女が、そこに立っている。
けれど、それは私が知る「彼女」ではなかった。
前も、後ろも、横も、そして拍動する内臓さえもが、同時に、等距離に存在していた。
遠近感も、表裏も、プライバシーも、そこにはなかった。
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服は、確かにそこにあった。
けれど同時に、その内側にある柔らかな曲線も、骨の髄も、すべてが同時に「露出」していた。
隠されている場所など、最初からどこにもなかったのだ。
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私は、見た。
見えた。
すべてを、手に入れたはずだった。
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なのに。
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心は、凪いだままだった。
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胸の高鳴りも、
あのとき指先まで痺れるようだった情熱も、
霧が晴れるように消え失せていた。
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そこに広がっていたのは、
古今東西の書籍なんかでは足りない情報だった。
彼女はもはや、神秘を纏った存在ではなかった。
ただの、連続した分子の重なり。
内側と外側の区別すら、情報の羅列にすぎない。
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私は、冷たい恐怖に襲われた。
「……これが、全てなのか」
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そのとき、彼女と目が合った。
いや、目だけではない。
彼女の全存在が、同時にこちらを「認識」していた。
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「あなたも、見えてるのね」
彼女は、透明な声で言った。
「それで、満足した?」
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私は、答える術を持たなかった。
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次の瞬間、世界は静かに、
元の場所へと収まった。
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彼女は、制服を纏って立っている。
何も見えない。
その向こう側がどうなっているか、
もう私にはわからない。
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でも。
その「わからなさ」に触れた瞬間、
氷ついていた私の胸が、
不意に、熱く跳ねた。
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私は、静かに息をのむ。
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「……やっぱり」
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そこから先は、言葉にならなかった。
ただ、以前とは決定的に違う温度だけが、
私の胸を焦がし続けていた。

おしまい
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