1-2. できないのは、子どものせい? スキナーと学習の設計
教える機械は、授業参観から生まれた
1950年代の初め、ハーバード大学の心理学者B・F・スキナーは、娘の算数の授業を見学しました。
先生が黒板で計算の仕方を説明する。
子どもたちは、同じ問題を一斉に解く。
すぐに答えが出る子ども。
最初の一問で、手が止まる子ども。
先生は机のあいだを回りますが、一人ですべての子どもを同時には見られません。子どもが間違いに気づくのは、何問も解いたあと。答案が戻るのは、翌日になることもありました。
これでは、できる子には遅すぎて、できない子には速すぎる。
けれど、これは教師の教え方の問題なのでしょうか。
理解の速さも、つまずく場所も違う子どもたちを、一人の教師が同じ時間に、同じ方法で教える。そもそも、この仕組みに無理があるのではないか。
スキナーは、子どもの能力より先に、教わる条件を疑いました。
測定から、設計へ
ソーンダイクは猫を使い、箱から脱出するまでの時間を測りました。
その三〇年ほど後、スキナーはラットやハトを実験用の箱に入れ、餌を出す条件も変えながら同じ行動を決められた時間内に何回繰り返すかを記録します。
ラットならレバーを押す。ハトなら円盤をつつく。こうした一つひとつの行動を「反応」と呼びます。
反応するたびに餌を出す。
決まった回数の反応のあとに出す。
一定の時間が経ったあと、最初の反応で出す。

決まった回数のあとに餌が出ると、速いペースで反応を続ける。
一定の時間が経ってから餌が出る場合、餌を食べた直後は反応が減り、時間が経つにつれて増えていく。[1]
行動のあとに起きた結果によって、その行動の起こりやすさが変わる。
これが有名な「オペラント条件づけ」です。
オペラント条件づけを、教室へ
研究室では、行動のあとに返す結果を、細かく調整できる。
けれど教室では、子どもが問題を解いても、正しいかどうかがわかるのは何時間もあとです。
このタイムラグを、なくせないだろうか。
問題に答える。
その場で正解を確かめる。
できたら、次の問題へ進む。
オペラント条件づけを教室に持ち込む。
そのためにスキナーがつくったのが、ティーチングマシンです。[2]

窓には、一つの問題だけが表示される。
学習者は、自分で答えを書く。
レバーを動かすと正解が現れ、その場で答えを比べられる。
正しければ、その問題は終わり。間違えれば、あとでもう一度。
問題は、いきなり難しくならないよう、小さな段階に分けられました。一人ひとりが、自分の速さで進むこともできます。
いまなら、パソコンで簡単にできる仕組みです。
スキナーはこれを、紙と歯車でつくりました。
ただし、機械をつくっただけでは、何も教えられません。
最初に、どの問題を出すのか。どのくらいできたら、難しくするのか。
測るだけで終わらず、測った結果を教え方の設計へ返す。
その設計がうまくいっていたかどうかを教えてくれるのが、子どもたちの反応です。
バツ印は、誰に向けられるのか
バツ印は、子どもだけに向けられるものではなくなりました。
子どもの能力を測るだけではなく、教え方を見直す手がかりにする。
もちろん簡単な問題から順番に出すだけで、どんな学習もうまくいくわけではありません。後の研究では、プログラム学習と従来の授業で、成績が大きく変わらない結果も出ています。[3]
正答できることと、意味がわかることも同じではありません。
それでも、スキナーが残した問いは消えていません。
あの日、教室で最初の一問に手を止めていた子ども。
能力が足りなかったのかもしれない。
けれど、もしかしたら教わる条件が合っていなかったのかもしれない。
子どもにバツ印をつける前に、教え方を問い直す。
スキナーが教育に残したのは、その視線でした。
ハーバード大学で共同研究を進めた米国の心理学者チャールズ・B・ファースターとB・F・スキナーは、主にハトを対象に、餌を与える回数や時間間隔を変え、反応の変化を継続的に記録した。餌を与える条件ごとに、反応の速さや休止、再開に異なるパターンが現れることを示した。Ferster, C. B., & Skinner, B. F. (1957). Schedules of Reinforcement. New York: Appleton-Century-Crofts.
ハーバード大学の心理学者B・F・スキナーは、学習者が一問ずつ自分で答え、直後に正解を確かめ、自分の速度で進むティーチングマシンを発表した。教材を小さな段階に分け、学習者の反応を記録しながら問題の順序や難しさを改善する方法も示した。
Skinner, B. F. (1958). “Teaching Machines.” Science, 128(3330), 969–977.ミシガン大学の教育研究者チェンリン・C・クーリック、バーバラ・J・シュワルブ、ジェームズ・A・クーリックは、中等教育におけるプログラム学習の評価研究四八件を統合した。プログラム学習と従来の授業を比べると、期末試験の成績や教科・授業への態度に、平均では大きな差が見られなかった。
Kulik, C.-L. C., Schwalb, B. J., & Kulik, J. A. (1982). “Programmed Instruction in Secondary Education: A Meta-Analysis of Evaluation Findings.” The Journal of Educational Research, 75(3), 133–138.
【書籍の紹介】教育工学が明かす大人の教わる技術
「いまさら」を「いまから」に。
大人になっても変わり続ける人は、特別な才能がある人ではありません。
教わったことを素直に受け取り、自分で試し、次へつなげる力を持つ人です。
『教育工学が明かす大人の教わる技術』は、「教わる力」をつけるための技術を、教育工学を中心に、教育心理学、学習科学、認知心理学、組織心理学などの知見から、現場で使える手札へ翻訳しました。
40のスキルに体系化した、大人の学び直しのための一冊です。
