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ウズベキスタンの二兎を追う

ウズベキスタンが呼んでいる。
ウズベキスタンに呼ばれている。

11月の初めに友人の紹介で知り合った女性が、仕事でちょくちょくウズベキスタンに行っている人だった。

一緒に食事をしたのだが、会話の端々に「ウズベキスタン」が顔を出し、ウズベキスタン愛を滲ませていた。何度も行くので、行くたびに好きになっている様子だった。

「どんな国?」と聞いたら、
「野菜がとてもおいしい。牛肉もおいしい。あと、人がいい」と言われた。

野菜と牛肉と人が良い国、ウズベキスタン。
感じの良い店員さんがいるケバブ屋みたい。

そう言えば、夏にテイクアウトしたケバブ屋で店員さんと話したとき、出身はウズベキスタンだと言っていた。流暢な日本語を話す人で、トルコ語は話せないと言っていた。

その話をしたら、「ケバブ屋で働いているの、トルコよりウズベキスタンの人多いのよ」とウズベキスタン通の彼女は言った。彼女調べによると、「特に名古屋はほぼウズベキスタン人」らしい。それだけ日本に来ているウズベキスタン人が多いということだろうか。

ウズベキスタンについて調べてみると、「世界の朝ごはん TASTE THE WORLD」というコンセプトカフェ(と呼んでいいのだろうか)が「10、11月はウズベキスタン」を特集していることがわかった。

ウズベキスタンはシルクロードの中間に位置し、多くの旅人、商人、技術者が行き交う、東西の交易の中心地として繁栄を極めたことから、「シルクロードの宝石」とも呼ばれました。食文化においてもヨーロッパから中東、東アジアまで、幅広い地域から伝わった多様な料理を楽しむことができます。10月と11月のTASTE THE WORLDはそんなウズベキスタンを、朝ごはんを通して旅します。

世界の朝ごはん TASTE THE WORLD

機会があれば行ってみたいと思っていたら、11月の終わり、しばらく会っていない友人から「どこかで朝ごはん食べませんか」とお誘いがあり、チャンス到来。

東京にいくつかある「世界の朝ごはん」。銀座店へ行ってきた。席数12なので、店の前でしばらく待ってから案内される。お店というよりダイニングキッチンのよう。

8人がけテーブルに詰め合わせて着席。隣の人との距離が近い。誰かの家の食卓を囲んでいるホームパーティー感がある。

テーブルには三角に折った「Uzbekistan(ウズベキスタン共和国)」紹介リーフレット。ウズベキスタンは「親日国」らしい。「人がいい」のは、「日本人が好き」から来ているのかもしれない。

ワンプレートでウズベキスタンの味をちょっとずつ楽しんだ。「ノン」と呼ばれるパンにマスカルポーネチーズみたいな「カイマク」やコムハニーを塗って食べる。ラタトゥユみたいな煮込みに半熟卵を落とした「シュクシャカ」、サラダ、ドライフルーツとナッツ。温かいものは温かく(パンもぬくぬく)、冷たいものは冷たく、一つ一つおいしく、満足感が高い。

追加で「マルコフチャ」をシェアした。「旧ソ連領に住んでいた朝鮮にルーツを持つ人々が白菜の代わりにニンジンを使って作り始めたと言われるキムチの一種」らしい。キムチというよりキャロットラペ。辛くなく、ビネガーの酸っぱさがクセになる。

ドリンクはバターを溶かしながら飲む塩ミルクティー「シルチョイ」。

ウズベキスタンの主食といえるパン「ノン」に、遊牧民の重要な栄養源だった乳製品「カイマク」とハチミツ、野菜のトマト煮込みに卵を落として仕上げた「シャクシュカ」、ウズベキスタンらしいブドウ入りのサラダ、ドライフルーツとナッツを合わせたワンプレート。そのほか、牛肉や玉ねぎをパイ生地で包んだ人気のストリートフード「サムサ」や中央アジアから北アフリカまで広く愛されている焼き菓子「パフラヴァ」、ナバット(ロックキャンディ)を溶かしながら飲むお茶など、ウズベキスタンならではのサイドディッシュやデザート、ドリンクもご用意しました。

世界の朝ごはん TASTE THE WORLD

「パフラヴァ」という木の実たっぷりの焼き菓子もシェアした。ねっとりして甘いので、半分でちょうど良かった。

割高感のあるお値段だけど、ウズベキスタンに行ったと思えば、リーズナブル。期間限定で現地の味を体験できる付加価値プライス。万博メシの番外編という考え方もある。

周りは海外からの旅行客と思われる人たちばかり。通常メニュー(「UK」「USA」「TAIWAN」)を注文している人が多かった。慣れ親しんだ故郷の味を求めているのだろうか。

聞こえてくるのは英語、フランス語、中国語。友人はろう者なので、わたしたちは日本手話で話していた。

「久しぶりに銀座に来て、中国人が少ないと思った」と友人。

中国からの来日キャンセルが相次いでいるとニュースで報じられているが、普段は中国人観光客が存在感を発揮している銀座に来て、減っているなと感じたと言う。

「そう言えば、減ってるかも」とわたし。

「やっぱり? 中国語聞こえてこない?」

友人にそう言われ、そっかと気づいた。見た目だけだと、どこの国の人かはっきりしないから、「視覚的に減ったと感じたけど、聴覚的にもそうなの?」と確かめたのか。

店に来るまでの道を思い返し、「確かに、今日は中国語を聞かなかった」と伝えた。わたしは中国語を勉強しているので、聞こえてくると耳が反応して、聞き取れる単語を探してしまうのだが、聴覚的にも減っている。

そして、「外見から想像する言語と実際に話している言語が必ずしも一致しない」ことにもあらためて気づいた。

アラブ系の顔立ちの男性二人は訛りのない英語を話していた。日本人だと思った女性二人はアメリカのアクセントの英語を話していた。肌の濃淡と年代が混ざった親子と思われる男女4人はフランス語だった。

「お隣のグループはフランス語を話してる」などと友人に音声情報を伝えた。

使わないうちに忘れていた「英語(イギリス+語)」「中国語(中国+語)」「フランス語(フランス+語)」の手話表現が錆び錆びの地層の底から浮かび上がる。

「フランス」は立てた親指で体の前に弧を描くような形を「裁判を象徴している」という由来と共に教わったが、友人は中指、薬指、小指を立てて、体の前で内から外にピンと弾いていた。ひとつの単語にもいろんな表現がある。

「世界の朝ごはん」をきっかけに、いろんな国や言語に目を向け、想いを馳せられた。15時までやっているのでランチにもなるが、「朝ごはん」というとっつきやすい切り口が面白い。2か月ごとに切り替わり、次の12、1月はルーマニアだそう。

ルーマニアといえば、体操選手のナディア・コマネチ(Nadia Comăneci)。と言って通じる人、どれくらいいるだろうか。

ウズベキスタンに呼ばれて、ウズベキスタンの朝ごはんを食べに行ったその日、晩ごはんの席でもウズベキスタンに呼ばれた。

高校時代の同級生と根津の「さかなのさけ」に飲みに行き、「今日、ウズベキスタンの朝ごはんをたべてきた」とお酒担当の「おいちゃん」に話したところ、「僕が今かぶってるこの帽子、ウズベキスタンのやつやで」と言うので驚いた。「うちのお客さんのお土産や」と言う。

おいちゃんは、いつも頭にフィットするタイプの帽子をかぶっているのだが、この日の帽子は初めて見るもので、おニューなんかなと思っていた。

「二兎」の一升瓶を撮った写真にウズベキスタン土産の帽子をかぶったおいちゃんが小さく写っていた。

「二兎」の裏側のラベルには「二兎を追うものしか二兎を得ず」と書いてあり、「ええ言葉や。わたしの座右の銘『買わない宝くじは当たらない』みたいや」などと話していた。

大阪の船場、東京の六本木を経て現在は根津にある「さかなのさけ」。おいちゃんが出す日本酒ととぼけた味わいの会話とえっちゃんの作るお出汁のきいた肴が絶品のお店。

席はカウンター席のみ。しばらくして、一人で飲みに来た女性がわたしの隣に座った。

「この人、帽子の贈り主」

ほいという感じで、おいちゃんにお隣さんを紹介された。

え⁉︎  さっき聞いたばっかりのウズベキスタンの帽子の人⁉︎

「帽子のこと聞きました! ウズベキスタンに行ってらしたんですか?」

食いつくように話しかけ、お土産話を聞かせてもらった。「サマルカンドっていう響きが好きで、前から行きたかった国」で、「安全で旅行しやすかった」そう。

言葉はウズベク語で、ロシア語もある程度通じるらしい。都市の観光地では英語が通じるが、地方に行くと通じない。それでもなんとかなったという。何を言おうとしているか、汲み取ろうとしてくれる人が多いのかもと想像した。

「ウズベキスタンは親日らしいですね」と今朝の朝ごはんのお店で仕入れたばかりの話をすると、
「どこの国でも日本が好きって人、多いですよ」と旅慣れたその人は微笑んだ。

「ウズベキスタンのどこが良かったですか?」と聞くと、「この町のこれ」という具体的な名所や名物ではなく、「どこに行っても良かった」というのが11月の頭に会ったウズベキスタン通の人の話と共通していた。

牛肉は、やはりおいしいらしい。長距離移動の電車のコンパートメントで一緒になった上海からの若い女の子4人組からフルーツをもらったという話も、良かった。

「(都市間移動の)電車の予約がなかなか取れなくて、予約サイトが使いづらくて、一からやり直さないといけなくて」

ほう、どこぞの国の万博の予約サイトみたいな感じですか。

「まず電車の予約を取ってから宿を取ったほうがいいと事前に聞いて、そうしました」

ホテルは電車より取りやすい。なるほど。レビューを見て、日本人ばかりでないところを選んだそう。

「日本人観光客は結構多いんですけど、円からの両替ができなくて。クレジットカードのキャッシングで出せるんですけど、現金だけの人は困ってました」

ウズベキスタンに行くときは覚えておこう。

「ウズベキスタンによく行っている人と今月知り合って、興味を持ったんですけど、ウズベキスタンに行ってきた人とここでも会うなんて、呼ばれてますね」と言うと、「機会があれば、ぜひ行ってみてください」と熱くお勧めされた。

その人の話からもウズベキスタン愛が伝わってきたが、固有名詞は出てこない。歴史や地理で学ぶような有名な史跡や景観はないけれど、行くとますます好きになる国。行けばわかる。行かなくちゃわからない。ウズベキスタンの良さは現地に飛び込んで感じるものなのかもしれない。

ウズベキスタンの朝ごはんの話をしたら、ウズベキスタンの帽子につながって、ウズベキスタンのお土産を贈った人につながって、ウズベキスタン旅行の話を聞かせてもらえた。

朝ごはんでもウズベキスタン。
夜ごはんでもウズベキスタン。
二兎を追うものしか二兎を得ず。

特別な磁場でも働いているのかと思うくらい、「さかなのさけ」は出来すぎた出会いがよく起こる。「このピースがはまれば、この人とこの人がつながる」というピースが見つかりやすい。兎を追いかけていたら、兎をつかまえられるようになっている。

求めよ、さらばウズベキスタン。
Ask, and something about Uzbekistan shall be given to you.

ちなみに過去にウズベキスタンを話題にしたことあったっけと日記内検索をかけたら、2件だけヒットした。日暮里のペルシャ料理店「ZAKURO」でウズベキスタン料理を食べられると書いてあった。

日本イラン合作映画『風の絨毯』(監督:カマル・ダブリーズィー)の縁でプロデューサーの益田祐美子さんと何度か行った店。サイトを見ると、「イラン・トルコ・ウズベキスタン料理の『レストラン ザクロ』」と名乗っている。

ウズベキスタン料理を口にはしたが、それ以上は踏み込まなかった。ウズベキスタンとイランの位置関係も知らなかった。日本と中国と韓国がごっちゃにされるように、イランとトルコとウズベキスタンがごっちゃになっていた。

わたしとウズベキスタンとの関係は、それくらい遠く淡かった。今、人生でいちばんウズベキスタンに近づいているのは間違いない。

ところで、『風の絨毯』の予告編がYouTubeに上がっていた。見ての通りのイラン映画。わたしが書いた脚本はイランの脚本家がほぼ上書きし、益田さん曰く「スープになって溶けた」。

もうひとつ、ところで。ウズベキスタンの国旗🇺🇿。

上の空色の帯は「青天と純水の象徴」。
真ん中の白色は「平和と純粋さの象徴」。
下の緑色は「天恵の自然の具現」。
各色の間を走る赤色の細い帯は「生命力を象徴」しているらしい。

青と白と緑の組み合わせが「よく知っている何かに似ている」と既視感を覚えていたのだが、今日、これではないかと気づいた。

ファミリーマートのロゴ。

ウズベキスタンの人がファミリーマートを見たら、懐かしさや親近感を覚えるのだろうか。

これからファミリーマートを見るたび、ウズベキスタンに呼ばれてしまうかもしれない。

2025.12.13追記。
座・高円寺2階にあるカフェ アンリ・ファーブルの本棚を見ていたら「こっきのえほん」が目に留まり、手に取った。

1ページを割いて取り上げられている国旗ではなく、「ほかにもたくさん世界の国旗」の中にウズベキスタンの国旗があった。

ページをめくると、「ウズベキスタンよりファミマな国旗」を見つけた。それがシエラレオネ。

緑、白、青の並び順もファミマ。

絵文字で比べると
ウズベキスタン🇺🇿
シエラレオネ🇸🇱

シエラレオネの独立が1961年、ファミリーマートの登場が1978年らしい。

シエラレオネは赤道の少し上,アフリカ大陸の西のほうにある国。西は海、北と東はギニア、南はリベリアに接している。

ちょうど今、ピクミンブルーム(Pikmin Bloom)でファミリーマートの特別イベントをやっていて、ファミマ仕様のピクミンを集めているところで、行く先々で「こんなにファミマがあるのか!」と驚いているが、シエラレオネの人たちは、「街のあちこちに国旗そっくりな看板がある!」とドキドキするかもしれない。


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脚本家・今井雅子📚言葉遊びが好きな物書き 目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。