さよならをおしえて② 映画『blur : Live At Wembley Stadium』

映画『blur : Live At Wembley Stadium』。このライブ・ドキュメンタリーについて、何をどう書くべきだろうか。結局、三度観た。一度目は、あの日の会場に集まったファンと同じく、興奮と歓喜をもって。二度目は、意識的に冷めた視線で。そして三度目は、あの日起こったことが何だったのかを、ゆっくりと考えるために。
ブラーのライブ映像作品はいくつかあるが、公式映像としては、再結成後の2009年に発表された『blur : Live at Hyde Park』が間違いなくベストだ。本作を観た後でも、その評価は私の中で変わらない。
しかし、この日のライブが特別な意味を持っていたことは間違いない。2日間で15万人を動員し、バンド史上最大のライブ・パフォーマンスとなった。まさに、ブラーというバンドが歩んできた道程の集大成ともいえるステージだ。

先の原稿にも書いたウォームアップ・ギグで、思いもよらないレア曲を演奏した後に組み立てられたセットリストは、最初は正直、意外性に欠けるように思えた。しかし、よくよく見ると、実に巧みに練られた曲順であることがわかる。
Blur at Wembley Stadium, 2023.07.08
☆The Debt Collector
① St. Charles Square
② There's No Other Way
③ Popscene
④ Tracy Jacks
⑤ Beetlebum
⑥ Trimm Trabb
⑦ Villa Rosie
⑧ Stereotypes
⑨ Out of Time
⑩ Coffee & TV
⑪ Under the Westway (First time live since 2014)
⑫ End of a Century (Preceded by applause for Freddie Mercury)
⑬ Country House
⑭ Parklife (with Phil Daniels)
⑭ To the End
⑯ Oily Water
⑰ Advert
⑱ Song 2
⑲ This Is a Low
---Encore---
⑳ Lot 105
㉑ Girls & Boys
㉒ For Tomorrow
㉓ Tender (with London Community Gospel Choir)
㉔ The Narcissist
㉕ The Universal
ちなみに『blur : Live At Wembley Stadium』に収録されているのはウェンブリー公演の初日
2023年7月8日のステージ。翌9日のステージは未収録である
そのため、先行リリース/配信されたアルバム『Live At Wembley Stadium』よりも楽曲数が少ない
ステージは、明らかに“Parklife”を意識した「オイ!」の掛け声と、「I fucked up(僕はやらかした)」という自嘲的なラインが、いかにもブラーらしい“St. Charles Square”で幕を開ける。続く2曲目“There's No Other Way”から6曲目“Trimm Trabb”まで、彼らのキャリアを丁寧になぞるように楽曲が並ぶ。そして、7曲目“Villa Rosie”で『Modern Life Is Rubbish』時代へと立ち戻り、“Under the Westway”へ――緩やかにバンドの歩みを辿りながら、原点へと回帰していく。美しい循環。まるでメビウスの輪のようだ。


本作を観れば気づくだろう。特に最前列に詰め寄せたファンの多くが、とても若いことに。ブラーとしてのライブは8年ぶり。つまり、彼らの中には、この日が「初めてのブラー」という人も少なくないはずだ。それを思えば、このステージがブラーの歴史の中でベストか否か、あるいは過去と比べてどうだったかを語るのは、あまりに無粋というものだろう。
実際のところ、全盛期と比べて彼らの「できなくなった」ことを語るのは簡単だ。しかし重要なのは、このステージを観た一人ひとりがどの曲に、どのパフォーマンスに、自分が心から愛してやまないブラーを見たのか、だ。
途中、デーモンは変わらぬ自嘲めいた口調で観客に語る。
「こんな老いぼれがステージで必死になってるのは、滑稽だと思ってるんだろ?」
「まあ、いいさ。担ぎ出した君たちが悪い――ありがとう、愛してる」

本作のハイライトはどこか。当然、それは観た人それぞれによって異なるはずだ。あなたが涙したのは、どの曲だろう。思わず歓声を上げたくなったのは、どの瞬間だっただろう。
これから観る人のためにも、私個人の“特別なシーン”は、あくまで箇条書きに留めておきたい。
・“Popscene”でグレアムが眼鏡を外す瞬間。
・“Beetlebum”のギターのカッティング。
・「ここはロンドンだから、この曲をやらないわけにはいかないな」というデーモンのMCで始まる“Under the Westway”。
・グレアムがこの日唯一マイクを通した「娘のペッパーに!」。
・再び歌詞が更新された“End of a Century”。
・高く放り上げたギターを絶妙に受けそこなって、ぐちゃぐちゃになりながら“Advert”を弾くグレアム。
・本編ラスト、“This Is a Low”の頭から終わりまで。
・すべての笑顔。
・アンコール最初の曲が“Lot 105”であったこと。
・“Tender”で観客の大合唱に包まれ、ただ笑顔でステージに横たわるデーモン。
・ラスト曲“The Universal”での「あとは君たちにまかせた」。

そして、終演。エンドクレジットとともに、“Sing”が流れ始める。再び、あの美しい循環が現れる。

2日間にわたって15万人が、それぞれの想いを胸に、ブラーのステージを観る。その意味の大きさを、改めて考える。彼ら一人ひとりの人生の中に、ブラーの音楽が息づいている。彼らの思い出の中に、そして、これから見る誰かの風景の中に。
4人が舞台を降りても、彼らの音楽は今日も世界で鳴り続ける。あなたもまた、ふと彼らの曲を口ずさむだろう。音楽とはなんと不思議なものだろう――そんな当たり前のことを、思わず書き出してしまいそうになる。彼らがいなくなっても音楽は残り、響き続ける。その響きはゆるやかに連なっていく。私たちの頭上には、今も、メビウスの輪が輝いている。

【追記】 全世界のブラー腐女子が大絶叫した「デーモンとグレアムのキス事件」は公演二日目の出来事のため、極めて残念ながら本作には収録されていない。忘れがたき記念として、そして私自身がいつでも見返せるように、このページに残しておきたい。
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