ネガティブ感情との付き合い方
Mentor Forという会社で、メンターを育成し、様々な企業で働く人にマッチングをする、という仕事をしています。中でも、「ネガティブな感情の取り扱い方」は、メンターが1on1で最もよく向き合っているテーマの一つではないでしょうか。
職場に感情を持ち込むのはよくない。
リーダーなら冷静であるべき。
ネガティブ感情を持つことはマイナスだ。
嫉妬するなんて恥ずかしい。
そういった見えないルールが、多くの職場に根付いています。でも、感情を持たない人なんていません。問題は、「感情があること」ではなく、「どう扱うか」です。
ネガティブな感情を否定したり、抑え込んだりするほど、それは別のかたちで表面化してきます。パートナーへの八つ当たり、自分自身への過剰なダメ出し・・・・
では、どうすればネガティブな感情とうまく付き合うことができるのでしょうか?このnoteでは、私自身が経験してきた失敗や試行錯誤、そしてメンターたちとの対話の中から見えてきた「ネガティブ感情の取り扱い方」について、少しずつ言葉にしてみたいと思います。
メンターとして、あるいは対人支援の場面で人と向き合った際にも、ぜひ参考にしてみてください。
感情とは何か
「プルチックの感情の輪」をご存知でしょうか。プルチック氏は、人間にも動物にも共通する8つの基本感情を一次感情として、2つの基本感情から生まれる混合感情を人間特有の二次感情としました。もう少しわかりやすく言うと、一次感情は生得的・普遍的な基礎的な感情であり、二次感情は複数の一次感情や社会的・文化的要因が絡み合って生じる、より複雑な感情です。
8つの一次感情(対になっています)
✔️ 喜び ↔ 悲しみ
✔️ 信頼 ↔ 嫌悪
✔️ 恐れ ↔ 怒り
✔️ 驚き ↔ 期待《予期》
二次感情の例
嫉妬・羨望(Envy / Jealousy)
他者と自分を比較し、「自分が持っていない」「奪われたくない」と感じることで、怒り・悲しみ・悔しさなどが複合。
罪悪感(Guilt)
自分の行動が良心や社会的規範に反したと感じるときに生じる後悔や自責。
憤慨・憎悪(Resentment / Hatred)
不当な扱いや被害に対する怒り・嫌悪・恨み。
心配・懸念(Worry / Concern)
将来や不確定要素に意識が向き、不安・恐怖・悲しみが混在。
憧れ・切望(Longing / Yearning)
手に入らないものに対する喜びの影・悲しみ。
誇り(Pride)
自己や所属集団への肯定的評価による満足・高揚・他者との比較意識。
などなど・・・。これらの感情は、単なる「怖い」や「悲しい」ではない、複雑で人間らしい心の動きです。一次感情が「瞬間的な反応」だとすれば、二次感情は「社会の中で生きる人間の思考と経験が織りなすもの」だとも言えるかもしれません。
ネガティブ感情は悪なのか
二次感情の中でも、ネガティブな感情に焦点を当てていきましょう。アメリカの社会神経学者ジョン・カシオッポ氏が行った、情報処理を司る大脳皮質での電気的活動を調べる実験によると「人は、ポジティブな刺激よりも、ネガティブな刺激の方が強く反応する」ことが明らかになりました。また、昔学んだ組織心理学の授業でも「職場におけるネガティブな感情の共有はあっという間に広がり、組織を崩壊させる」と言われていました。
つまり、ネガティブ感情をどのように処理していくかは、個人のメンタルの健全さだけでなく、チームや組織の健全性にも直結するということです。
私たちはよく、ネガティブな感情を「持ってはいけないもの」「見せてはいけないもの」として扱いがちです。けれどその感情を感じたこと自体は悪ではなく、感じたあとにどう扱うかが重要です。
嫉妬を抱えて自分や他人を責め続けるのか。不安をごまかすために他者を巻き込み負のエネルギーでコントロールしようとするのか。
それとも、その感情が何を教えてくれているのかを見つめ、必要な境界線を引いたり、行動の方向を変えたり、誰かに言葉で助けを求めることができるのか。つまり、ネガティブな感情を、必要な変化を知らせるためのメッセージと捉え、そして前向きな変化として動くことが大事なのではないでしょうか。
健全な嫉妬と病的な嫉妬
例えば・・組織の中で「足の引っ張り合い」になりがちな代表的な感情、嫉妬について見てみましょう。
嫉妬とは、他者と自分を比較し「自分が持っていない」「奪われたくない」と感じ、それにより怒り・悲しみ・悔しさなどが複合する感情・・とされています。しかしその嫉妬にも、健全な嫉妬と病的な嫉妬があるそうです。
健全な嫉妬
・自分より優れた他者を見て、自分もそうなりたいと願い、前向きな行動を引き出す感情状態、「模倣」「努力」「内省」につながる心理反応
・「自分もやれるかも」という希望的認知と行動とがセットになっている
他者の成功を見ると脳の報酬系が刺激され、それを「自分の可能性」として処理しドーパミンが分泌されることで行動意欲が高まるそうです。
メンターは、「少し先を行くロールモデル」ですが、そのロールモデルと接して、「あの人も出来たんだから、私にもできるかも!」と前向きに捉え
自分が行動する原動力としていける状態がまさにこれですね。
一方で、病的な嫉妬について紹介します。
病的な嫉妬
・「その人の存在自体を許せない」「持っているものを壊したい・奪いたい・貶めたい」という、敵意・攻撃・悪口・陰口・被害妄想が結合した情動反応
・他者の成功を「自分の劣等の証」として受け取り、抑えきれない防衛感情に変換し、相手を心の中で引き摺り下ろすことで安心しようとするメカニズム、自己肯定感が低い人に見られる
・他者の優越性を目の当たりにすると、自分は無力だと感じる(自己肯定感の崩壊)、そうした事実を直視できず、相手を下げることで「自分の価値は守られている」と錯覚しようとする心の防衛反応
この病的な嫉妬は、似たような同質性の高いグループの中で「共感による連携・同盟」という方法で連鎖・増幅し、破壊的な集団心理を形成すると言われています。
特に怖いのは、このような感情の同調圧力が強まるほど、言っている人たちは現実を客観的に見る力や、健全なフィードバックを受け入れる力を失っていくことです。やがて「自分の内面を見つめて成長する」よりも、「共感される不満を言い続ける」方が心理的報酬を得やすくなり、結果として「成長し・変われる機会」を、自ら手放してしまうのです。
だからこそ、組織には、「追うべき目標は同じだが、属性や価値観は多様」なメンバーが必要で、DE&I推進が必須なのです。
自分や他者のネガティブ感情にどう向き合うか
ここまで見てきたように、ネガティブな感情は「なくすべきもの」でも「恥ずかしいもの」でもなく、何かを知らせてくれるメッセージです。問題は、それをどう扱うか、どう見つめるか、どう言葉にするかにあります。
私自身もそうですが、誰しも「つい感情的になってしまった」「あとから冷静になって後悔した」という経験があるのではないでしょうか。ネガティブな感情に向き合うには、次の3つのステップを意識すると、自己理解や関係性の改善に繋がりやすくなります。
① ラベルを貼る:いま、私は何を感じているのか?
まずは、自分の内面に湧き上がった感情に“名前”をつけること。「イライラしている」だけで終わらせず、それは「悲しみなのか、悔しさなのか、寂しさなのか、置いていかれたような感覚なのか」。言語化することで、感情を客観視することができ、距離が生まれます。プルチックの感情の輪を参考にしてもいいかもしれませんし、最近私はmuuteという、ジャーナリングを通じて思考や感情を分析するアプリなどを活用しています。
② 判断せずに認める:「感じていい」と許可を出す
感情には、正しい・間違っているはありません。それは自分の中に“起きた”という事実にすぎないのです。まずは「そう感じたんだな」と、自分に一度OKを出すことから始めます。
③ 行動を変える:感情に支配されず、意図的に反応する
感情に引っ張られるのではなく、感情を情報として受け取り、次の行動を選びなおす。たとえば嫉妬を感じたなら、その相手を貶めるのではなく、「私もああなりたい、この人はどんなことをしたらこうなれたんだろう?」と思えた瞬間に、成長エネルギーに変わります。
他者のネガティブ感情とどう関わるか?
1on1などの支援の現場で、他者のネガティブ感情とどう向き合えばよいのでしょうか?
大切なのは、解決しようとしすぎないこと。相手が怒っていたり、不安そうだったりすると、すぐにポジティブに変換してあげたくなります。でも、それは必ずしも相手にとって必要な反応ではありません。そして上記と同様、どのように行動や変化に繋げていくかをガイドしてあげましょう。
まとめ:感情にのまれず、感情とともに生きる
ネガティブな感情は、人生のノイズではなく、ナビゲーションです。
無理に消そうとするのではなく、「これは自分に何を教えているんだろう?」と問いかけてみる。その繰り返しが、自己理解の深まりと他者との信頼関係の源になります。
メンターは、まさに対話と助言によって「認知の変化」をもたらしてくれる存在です。メンタースキルを学ぶことは、自分や他者の感情の取り扱い方を学ぶことにもなります。
ということで最後はお知らせです。
Mentor Forが主催しているビジネス・キャリアメンターアカデミーでは
定期的に無料のキャリアデザインワークショップ&ビジネス・キャリアメンターアカデミー講座説明会を行っています。
一緒にキャリアについて考えたい、メンタースキルについて興味がある、という方はぜひこちらからお申し込みください。

