1階革命。グランドレベル2025年の総括と展望。「自走」をめざし「状況」を生み出す設計者へ。まちや建物のゴールはどこにあるのか?
2025年も、多様なプロジェクトに挑戦する一年となりました。振り返ってみると、一連のプロジェクト群で改めて見えてきたのは、建物やまちの「完成」を「自走のインストール」に置き換えるということでした。
施設や場所には竣工やオープンがつきもので、一般的には「完成」と表現されます。でも、そこははじまりに過ぎず、生まれたての赤子そのものです。そこから何を施すか、何を経験していくかで、どのようないかような場所にもなりえるのです。
21世紀に入るころから、「余白」という言葉が設計デザイン界隈でも多く語られるようになりました。しかしそのほとんどが、予めも設けられた「余白」と呼ばれるスペースに、多様な振る舞いが想定されているというものでした。そうではないのではないか。私たちは、そんな想いで人々が能動的になれる空間づくりのプロトタイプをつくりました。それが、「喫茶ランドリー」(2018)でした。

それから約8年。私たちが立ち上げてきたものたちが、単なる空間の造形ではなく、緩やかに「自走するプロセス」を獲得していくことを目指して設計するという、極めて稀有なアプローチだったということが、より明確になってきました。
1. 「運営」という代謝、「完成後」の価値へ
グランドレベルを創業した2016年当時、「1階づくりはまちづくり」というモットーに理解と共感を示す人々はほとんどいませんでした。国交省が「ウォーカブル」を推進し始めるのはその4年後のことです。

この10年で、歩行者空間・公共空間の議論はより増えてきました。意識もされるようになってきましたが、改めて今、世界の先進地のそれをリサーチしてみると、それでもなお世界と日本の解像度の差に、まだまだ大きな遅れを感じざるを得ません。
それは「人々の活動」をいかに持続させ、「自走」させる日常として定着させられるか。その「質」をどこまで見据えてデザインするかという認識の差のように読み取れます。「造って終わり」のハードウェア中心の思考から抜け出しマネジメントなのだとうたうものの、実態は「イベント開催」のようなものが関の山、という事例が後を絶ちません。そこにはひとひとりから沸き起こる想い喜びや、小さなカルチャーの息吹を感じることはほとんどありません。
その中で、弊社が手がけてきた8年目を迎える「喫茶ランドリー」(墨田区千歳の私設公民館的喫茶店)、1年半運営を回しきった「オラ・ネウボーノ」(墨田区立川のシェアカフェ型まちのフードコート)、そしてこの9年間につくってきた数十のプロジェクトで得られた「設計デザイン」と「運営デザイン」の知見は、極めて大きな武器になると改めて考えるようになりました。

利用する人、管理する人、日々入れ替わり続ける試みや出来事。それらを「固定化しないこと」を力に変えて、変化を受け入れ続ける。その運営のあり方そのものが、長期的な価値を支えるレジリエンス(しなやかさ)となります。都市・まちにおける場所や施設が、自律的な代謝をしはじめたとき、それは持続可能な都市・まちののインフラへと昇華していく。2025年、その確信はより強固なものとなりました。
2. 点から面へ、「一階のひらかれ方」の進化
日本の「効率」や「防犯」を優先するあまり、街に対して閉鎖的になりがちな一階のあり方へのアンチテーゼとして、私たちは全国で「設計デザイン」と「運営デザイン」をセットで提案する活動を続けてきました。その最新の進化形として2025年に誕生したのが、宮城県仙台市の「NAS DESIGN STUDIO」と、愛媛県今治市の「ミヤウラ商店」、そして墨田区立川の「たてよんひろば」でした。
「NAS DESIGN STUDIO」は、弊社としては珍しい1階ではない上階のプロジェクト。閉じがちなダンススタジオを、まちにひらいていきたいというクライアントご夫婦の想いに応えるべく新しい挑戦となりました。

一方、愛媛県今治市の大三島に建つ元薬局の建物をリノベーションした「ミヤウラ商店」は、上階にシェアハウスを持ちながら、1階にランドリー・物販・カフェを重ねていきました。どちらもあえて「用途が定まりきらない状態」を維持することで、新しい使われ方を生む土壌を昇華させたものとなっています。



また、2025年は「点」が「面」へと広がりを見せた一年でもありました。 「オラ・ネウボーノ」(2024)のクライアントである萬富さんと周辺エリアのあり方を議論しはじめ、隣地の複数街区全体の「グランドビジョン」をつくりました。その後、協働パートナーにブルースタジオを迎え、より密度の高い計画へと深化。開発の入り口として2025年11月にオープンしたのが「たてよんひろば」です。これは遊休地を安易に駐車場にするのではなく、あえて投資を行い、24時間街にひらかれた広場へと作り替えるという、勇気あるチャレンジです。


この場所が来年どう使われ、どう育っていくか。その運営のあり方を地域の人々と共に構築していくプロセスは、まさに「自走する街」への挑戦そのものと言えます。単なる不動産活用の枠を超え、建物と広場、そして人々の活動が境界なく溶け合う風景は、日本のまちづくりにおける「一階」の定義を根底から書き換える、小さくとも極めて稀有な事例となっていくはずです。

3. 本質を突く「目的」を防ぐ「プロセス」のデザイン
これまで多くのプロジェクトに触れてきましたが、目的を見失い、デザインの方向性を見誤ってしまいそうなシーンを私たちは何度も目にしてきました。今年の終盤、代表の田中とのよく対話したトピックが、「目的を紡ぐプロセスのデザイン」でした。
「何のためにそれをつくるのか」「そこから何を得たいのか」という根本的な問い。これらを私たちが外部から定義して与えるのではなく、クライアントと共に、その土地や組織などの文脈から丁寧につむぎ出されるべきものです。
この「目的を紡ぐプロセス」をデザインの根幹に据えることができれば、設計中はもちろん、オープン後の運営においても、常に立ち戻るべき指針(タッチストーン)が明確になります。だからこそ、現場で突発的な事態が起きても、最適でライブ感のある、何より「楽しい」対応を継続していくことが可能になる。
もちろん、このことはこれまでの実践してきましたが、より体系化していくことを2026年に向けた私たちの大きな挑戦しようと。プロジェクトをより円滑に、そして新しい解法へと舵を切る。本当の意味で人々の生活に貢献できるものを生み出すために、私たちはそのための「ツール」「サービス」作りを開始したいと考えています。
4. 「管理」を捨て「愛着」を育むデザイン
まちづくり、施設作りの現場では、多くの場所で「管理」という名の制限を目にします。しかし、人が人間らしくより豊かに生きていける世界を目指すとき、本来、人々の行動や感情を制するような「管理」という概念は必要ないはずです。
大切なのは、その場所でいかに心地よいコミュニケーションを誘発し、人々の営みをファシリテートしていくか。私たちが向き合っているのは、硬直化した「管理システム」ではなく、そこにある「感情」をいかに解き放つか、という問いです。
今年、グッドデザイン賞を受賞した「JAPAN / TOKYO BENCH PROJCET」内の最新プロジェクトとなった茨城県笠間市の「友部駅前ベンチプロジェクト」(2025)は、まさにその実践でした。

駅前にFandaline シリーズを設置すると同時に、VUILDと共につくったDIYベンチを活用したワークショップを通じて「愛されるための関わり」をデザインを行いました。市民が自らテーブルに花を飾り、子供たちが自分の作ったベンチを探しに街を歩くような、「感情のインフラ」へとつながったことは大きな成果でした。

こうした「使う側」の体験を最大化する試みは、ワークショップという形で、各地でも関わりました。佐賀市で関わった「公共空間×オトナ実験室」プロジェクト(佐賀県県土整備部まちづくり課・「おとなこどもランド」実行委員会の協働)では、再開発後の公園や空地が活用されない課題に対し、市民向けにカジュアルに公共空間を借りて使い切るまでの実践を伴走しました。代表 田中のレクチャーから準備期間を経て、当日の実践までを市民が自ら体験する。こうした「街を使いこなす当事者」になる体験は、街の風景を内側から変えていく力になります。

また、ネイ&パートナーズジャパンと取り組んだ板橋区加賀のワークショッププロジェクト「かがまちスコレー」では、土木デザインを中心としたエリア再開発のはじまりに、市民が楽しく課関わる手触り感のあるデザインに挑みました。全3回のワークショップでは、企画のみならずツール作りから徹底。当日、参加者がどのような気持ちでワークに臨み、そのテンションがいかに理想的に「楽しく」なるか。そこまでを設計しアドバイスを行うのが、私たちの役割でした。


さらに、組織設計事務所の安井建築設計東京事務所「美土代クリエイティブ特区」の1階の運営サポートや、福岡県豊前市の「公民館プロジェクト」(アミタとの協働)では、組織の内側からのマインドセットを促しました。
「美土代クリエイティブ特
一年でした。結果、2年目とは思えないほどの多様な使われ方を、ほぼ彼らの手で実現していきました。

「公民館プロジェクト」のひとつ横武公民館は。空間の使い方や運営のアドバイスを元に、館長自らがさまざまに実践を重ねてくださった一年となりました。館長による定期的なフリーコーヒーの活動は、やがて地域の皆さんの協力の我が広がるきっかけとなり「地域食堂」が開催されるようになっていきまました。
クライアント自らが「最初の踊り子」として歩み始めることに、私たちが並走する。コントロールを捨て、対話と共感によって場をひらいていくこの関わりは、「ひらかれた1階」を実現するための、確実な道筋です。
いろどりが生まれ続ける世界をつくる
こうして2025年のプロジェクトを振り返ると、そこに貫かれていたのは「つくる側」と「使う側」という二項対立を融解させ、両者を「目的を共にする当事者」へと変容させていく意志そのものだったかもしれません。
現在進行中の、佐世保市の銀行建築を再生し「食」を中心とした地域拠点を立ち上げるプロジェクト。横浜市都筑区の大規模分譲マンションの一階につくる地域活動拠点。そして、江東区北砂で取り組む複合型福祉施設の1階。これらすべての在り方においても、この思想が根幹となります。
竣工し、場所が立ち上がり、設計者の手が離れた後にこそ、その建築や場所の本当の人生が始まります。海外の先進事例をただ追うのではなく、日本の不自由な文脈において、いかに「自走する公共」「自走する1階」の景色を定着させていけるか。
私たちは2026年、新しいクライアントの皆さまと一緒になって、揺るぎない「目的」を紡ぎ、さらに新しく楽しいデザインの発明と、自由な日常を生み出していきたいと考えています。設計者の手が離れた後に、一番豊かな時間が流れる。そんなまちや施設をを、共につくっていきましょう。

YouTube番組「サシデとモトコ」もはじまった2025年でした。こちらについてもまた改めて。
大西正紀(おおにしまさき)
ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をアクティブに設計デザインする株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリー&オラ・ネウボーノ オーナー。
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