耳を塞ぐと、5000円より大事なものを失う
4月から自転車のイヤホン走行に青切符が適用された。罰則は5000円。視覚的に一発でわかるから、見つかったらほぼ言い逃れができない。ぼくは大賛成だ。何なら、イヤホンを奪い取っちゃえとすら思っている。
耳は、目より先に危険を知る
なぜイヤホンが危ないか。危険回避が遅くなるからだ——と言われているが、それだけじゃない。
音は方向を持っている。前から来るのか、左から来るのか、右から来るのか。視覚が追いつく前に、耳がその位置を教えてくれる。異音が聞こえた瞬間、身体は反応する。「なんか変だ」という感覚は、音から来ることの方が多い。
京都は50メートルおきに交差点がある。田の字地区の中は特にひどくて、目では追い切れない。だからぼく自身、車の気配を音で感じながら走っている。電気自動車でも、1500〜2000Hzあたりの独特のコンバーター音がある。ボワーン、スーッという持続音。それを拾えるかどうかが、判断の速さに直結する。
20dBの差が、生死を分ける
外でイヤホンをすると、自然とボリュームが上がる。周囲の環境音に負けないよう、音源を60〜70dBで聴くことになる。
その結果、背景音が20〜30dB聞こえなくなる。数字だけ見ると小さい差に思えるが、危険を知らせる音はたいてい背景に潜んでいる。大音量じゃない。むしろ静かで、持続的で、異質な音だ。それが消える。
さらに怖いのは、選択的聴取の問題だ。物理的に音が届いていても、特定の音楽や音声に集中していると、脳が周囲の音を遮断する。耳は開いているのに、聞こえていない状態になる。ノイズキャンセリング機能はその上に加わる。物理的にも心理的にも、二重に耳が塞がれる。
オープン型も骨伝導も、例外じゃない
「カナル型じゃないから大丈夫」は通らない。オープン型も、骨伝導型も、基本的には取り締まりの対象だ。条例によって書き方は違うが、耳に何かをつけている時点でアウトと思っておいた方がいい。
事故になったときも不利になる。現場検証でイヤホンが確認されれば、過失の判断に影響する。保険、入院、損害賠償——どの場面でも、自分の首を絞めることになる。
イヤホンを外すと、世界が戻ってくる
イヤホンを禁止したいわけじゃない。電車内、室内——使っていい場面は少なからずある。
ただ、常日頃イヤホンをしている人は、外した瞬間に気づくはずだ。こんなにたくさんの音があったのか、と。その音の中に、危険を知らせるものが混ざっている。それを習慣的に消し続けていると、感度そのものが鈍くなっていく。
ぼくは歩きながら配信するとき、イヤホンをしない。交差点では一瞬黙る。耳で気配を確かめてから、また喋り始める。それだけのことだ。でも、その「それだけのこと」を習慣的に手放している人が、今この瞬間も街中に溢れている。イヤホンを外してみると分かる。世界はこんなに音に満ちていたのか、と。その音の層の中に、危険を知らせるものが必ず混ざっている。
5000円の罰則より、その感覚を取り戻す方が、よほど価値があると思っている。
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