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Kindle1冊を18の作業に分けたら、AIに渡していい作業はちょうど半分だった

AIに原稿を丸ごと渡してみたことがある人なら、たぶん一度は同じ感想を持っている。

出てきた文章は、整っている。誤字もない。読みやすい。
なのに、読み返すと、どこかで読んだことがあるような気がする。
自分が書いたはずなのに、自分の本という感じがしない。

私も同じところでつまずいた。
私は、人が自分の経験を本や講座にするのを手伝う仕事をしていて、
これまでにKindleを19冊、商業出版を1冊、合わせて20冊を出してきた。
その最初の頃、「AIに全部やらせれば速いはずだ」と思って、本当に全部渡した。
結果は、速いけれど誰の本でもない原稿だった。

そこからしばらく、逆に振り切って、ほとんどを自分でやるようになった。
今度は終わらない。時間だけが溶けていく。

全部渡すか、全部自分でやるか。
この二択で考えているうちは、たぶんずっと苦しい。
本当は、その間に線がある。

そこで、一冊を出すまでにやっていることを、一度ぜんぶ書き出してみた。
頭の中で整理したのではなく、実際に一冊仕上げながら、手を止めるたびにメモした。
出てきたのは18の作業だった。

分けてみて、自分でも意外だった。
AIに渡していい作業が9つ、渡すと崩れる作業が9つ。
ちょうど半分ずつだった。

そして、崩れる9つには共通点があった。
どれも「作業」ではなく「決めごと」だったのだ。

誰に向けるか。何を捨てるか。どの順番で出すか。いくらにするか。いつ出すか。
これは手を動かす仕事ではなく、選ぶ仕事だ。
選ぶ仕事をAIに渡すと、返ってくるのは、いちばん無難な答えになる。
平均値が返ってくる、と言ってもいい。

平均値は、間違っていない。ただ、誰の心にも刺さらない。

逆に言えば、この9つさえ自分で握っていれば、
残りの9つは全部渡してしまってかまわない。
誤字の洗い出しも、表記ゆれの統一も、見出しの候補出しも、要約も、
自分でやらなければいけない理由は、実はどこにもない。

大事なのは、AIを使うか使わないかではない。
一冊を「一つの大きな仕事」として見るのをやめて、
18の作業に分け、一つずつ「これは作業か、決めごとか」と聞くことだ。

この記事では、その18の内訳と、線の引き方を書いていく。

■ 「AIに任せた本」が、なぜつまらなくなるのか

AIに原稿を渡すと、必ず何かが返ってくる。
空欄で戻ってくることは、まずない。

これが厄介なところだ。
何も返ってこなければ「ここは自分でやるところだ」と気づける。
でも、それらしいものが返ってくるから、そのまま使ってしまう。

たとえば「この本の読者は誰にすべきか」と聞くと、
「40代から50代のビジネスパーソンで、キャリアに悩んでいる方が中心となります」
といった答えが返ってくる。

間違っていない。ただ、この一文からは、顔が一人も見えてこない。
自分が本当に届けたかった相手は、
たとえば「金曜の夜、会社の飲み会の帰りに、電車で求人サイトを開いて、何も応募せずに閉じた人」
かもしれない。

その解像度は、AIからは出てこない。
なぜなら、それは情報ではなく、自分が見てきた景色だからだ。

AIが返してくるのは、世の中の答えの真ん中にあるものだ。
これを私は「平均値が返ってくる」と呼んでいる。
決めごとを渡すと、平均値が返ってくる。

■ 一冊を、18の作業に分けてみた

そこで、一冊を出すまでにやっていることを、実際に一冊仕上げながら書き出した。
頭の中で整理したのではなく、手を止めるたびにメモした。

出てきたのは18の作業だった。

〈AIに渡していい9つ〉

誤字の洗い出し
表記ゆれの統一
見出しの候補出し
要約をつくる
長さをそろえる
説明文の下書き
キーワード案
章タイトル案
図解の下地

〈渡すと崩れる9つ〉

誰に向けるか
何を捨てるか
事実かどうか
経験の解釈
章の切り方
出す順番
価格
出すタイミング
やめる判断

並べてみると、線がはっきり見える。
左の9つは、正解が外にある作業だ。
誤字は誰が直しても同じ結果になる。表記ゆれの統一もそうだ。
だから渡していい。というより、渡したほうがいい。ここに時間を使う理由がない。

右の9つは、正解が自分の中にしかない。
「何を捨てるか」に、世の中の正解はない。
「この経験は、こういう意味だったのだ」という解釈も、自分にしか出せない。

■ とくに渡してはいけない三つ

18のうち、私が特に気をつけているものを三つだけ挙げたい。

一つ目は「何を捨てるか」。
本づくりで一番効くのは、足す作業ではなく捨てる作業だ。
書きたいことを全部入れた本は、たいてい読みにくい。
でもAIに「削ってください」と頼むと、当たり障りのないところから削られる。
削ってはいけない、いちばん尖った一段落が、なぜかきれいに消えていることがある。
そこが本の心臓だったのに。

二つ目は「経験の解釈」。
出来事そのものは、渡していい。事実だからだ。
でも「あの経験は何だったのか」という意味づけは渡せない。
ここを渡した瞬間、本が薄くなる。
読者が本当に読みたいのは、出来事ではなく、その人がそれをどう受け取ったか、のほうだからだ。

三つ目は「やめる判断」。
これはあまり語られないが、大事だと思っている。
書き進めてきた企画を途中で止める判断は、AIには絶対に出せない。
AIは、進める方向にしか答えを出さない。「このまま進めましょう」と言い続ける。
止まる勇気は、人間の側にしか置いてない。

■ 「これは作業か、決めごとか」

線の引き方は、たった一言でいい。

これは作業か、決めごとか。

手を動かせば終わるものは作業。
選ばないと先に進めないものは決めごと。

作業は渡す。決めごとは握る。
それだけで、速さと自分らしさは両立する。

私も最初は、この線が引けていなかった。
全部渡して、誰の本でもない原稿ができた。
その反動で全部抱えて、今度は一冊が終わらなくなった。

分けられるようになってから、はじめて回り始めた。

■ これは、本だけの話ではない

18に分けるという発想そのものが、本以外にも効く。

会社の資料づくりでも、同じことが起きているはずだ。
「資料を作る」という一つの大きな仕事に見えているものを、
体裁を整える作業と、何を主張するかという決めごとに分けてみる。

体裁は渡していい。主張は握る。

たぶん、多くの人がAIを使って疲れているのは、
渡すべきものを抱えて、握るべきものを渡しているからだと思う。

経験は古くない。古いのは、活かし方だけだ。
そして活かし方の第一歩は、自分の仕事を細かく分けて、
「どこが自分にしか出せないところか」を見つけることだと思っている。

まずは今やっている仕事を、一つ、紙に分けて書き出してみてほしい。
思ったより、渡していい作業のほうが多いはずだ。

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私が書いてきた本から

『ChatGPT×Kindle出版』
AIを使って一冊を形にするまでの流れを、工程ごとに追った本。どこを任せてどこを自分でやるかの土台になります。

『ChatGPT×ロングセラーKindle出版術』
出して終わりにせず、読まれ続ける本にするための考え方をまとめた本。「何を捨てるか」の判断に触れています。

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