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【論文メモ80】実践共同体のブローカーによる企業外の実践の企業内への還流プロセス(石山 2013)

 今回は、自分が所属する組織と実践共同体を行き来するプローカーについての論文。
 大学院の質的研究法の授業で読んだもの。M-GTAのプロセスを厚めに書いてみた。



取り上げる論文

タイトル:実践共同体のブローカーによる, 企業外の実践の企業内への還流プロセス
著者名:石山恒貴
ジャーナル:経営行動科学 26(2):115-132
発行年:2013年

概要

知識の取得や「協働構成的な仕事(co-configuration work)」の増加に伴い、企業の枠を超えた学習の影響が注目されている。本研究では、企業外の実践共同体に参加するブローカーが、どのようにして外部の実践を企業内の実践共同体へ導入するのか、そのプロセスを分析した。15名のブローカーへのインタビュー調査を通して、以下の主要な発見が得られた:
ブローカーは、協働構成的な仕事に適したスキルを獲得している。

ブローカリング(仲介行為)は、企業内において対立を引き起こすが、最終的には外部の実践を導入することに成功している。

これにより、企業はブローカーの重要性と、新しい実践を内在化するためのブローカリングの役割を理解することが求められる。


関連する先行研究

(1)実践共同体における学習

実践共同体(community of practice)とは、「共通の関心・問題・情熱を共有し、知識・技能を深める人々の集団」(Wenger, McDermott & Snyder, 2002, p.33)。

Lave & Wenger(1993)は、共同体への参加を「正統的周辺参加(legitimate peripheral participation)」と位置付け、学習は中心的実践への移行過程であるとした。

正統的周辺参加には多様な軌道がある:
・徳舛(2007):若手小学校教師が急速に中心実践を担い、教師らしいアイデンティティを獲得。
・Blåka & Filstad(2007):不動産業者・助産婦の新参者は社会文化的暗黙知の習得が求められ、個人の背景が学習に影響。
・山内(2003):複数共同体間の重なりによる複雑な参入・離脱の軌道。
・Hodges(1998):共同体における権力構造により、周縁的に留まり「非同一化」を志向するケースも。

(2)実践共同体のブローカー

・ブローカー(broker)とは、複数の実践共同体にまたがる「多重成員性」を持ち、一方の実践を他方に伝播・仲介する存在(Wenger, 1998)。

多重成員性による学習効果が指摘されている。

・松本(2010, 2011):陶芸作家や教育会社の教室指導者が複数共同体を使い分け、学習を促進。
・Gherardi & Nicolini(2002):建設現場の安全活動における視点の違いをブローカリングで橋渡し。

ただし、Wengerがアイデンティティ形成を個人の問題に委ねる点については、高木(1999)が批判。共同体の実践を無視した「個人の認知的達成」としてしまうことへの懸念が示されている。

リサーチクエスチョン(仮説)

本研究のリサーチクエスチョン(RQ)は以下の2つ

RQ1: 企業外の共同体(越境先)と企業内の共同体(越境元)との間でブローカリングを行うことにより、ブローカーはどのような学習を行うのか。RQ2: ブローカーが企業外の実践を企業内に伝播・還流する際に、組織と個人においてどのようなプロセスが観察されるのか。

調査方法

・対象者: 筆者が関与する企業外の3つの共同体(職種専門型、自主勉強会型、アカデミック派生型)から、15名のブローカーを選出。
選定基準: 社内に対し外部共同体で得た実践を実際に還流している人物。
方法: 半構造化インタビュー(1~1.5時間)を2012年4月~9月にかけて実施。録音許可がある場合はICレコーダーを使用。
対象者属性: 年齢20代〜50代、性別混合、越境共同体の所属数は最大40。

分析方法

・手法: 木下(2003, 2007)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)
手順:
インタビュー内容から具体例(バリエーション)を抽出。
  分析ワークシートに「定義」「バリエーション」「理論的メモ」を記載。
   類似・対極・未生成概念の比較を行い、理論的飽和まで分析。

・成果:22の概念と、それを統合した5つのカテゴリーを生成。


結果

(1)RQ1

企業外の共同体(越境先)と企業内の共同体(越境元)との間でブローカリングを行うことにより、ブローカーはどのような学習を行うのか。

①専門性の習得(カテゴリーⅠ)
・ブローカーは企業内では得られない最新の専門知識を取得。
・異質な価値観との交流により、自身の専門知識の枠組みを再構築。

②ノットワーキングスキルの習得・熟練(カテゴリーⅡ)
・即興的・流動的な関係構築に必須なスキルを獲得(例:初対面での観察力、多様な意見の聴取、地位や役職を超えた対話能力)。
・特に「否定的な意見を含めた積極的傾聴」や「多様性の中での独自意見の主張」が鍵。

■インタビュー引用:概念7 「社会的地位、立場の捨象」
(越境が怖い人は)自己開示が怖いとか、どう思われるのが怖いとか、じゃないです かね。劣ってると思われるとか。自分と他の人が違ってもかまわないということです。キャリアとか、能力とか、ポジション とか、年収とか,みんな違うわけで。でも、 ある時から気にしなくなったな。相手が社長であれ、一個の人間なんで。相手にしてくれないなら、それで結構です、というこ とで。 (共同体II、F)

カテゴリーⅢ:共同体スキルの習得・熟練
・共同体の運営や新参者支援、メンバーの多様性維持など、実践共同体の維持運営に貢献。
・「サロン化(固定化)」を避け、異質性の維持が重要視された。

■インタビュー引用:概念10 「新参者の紹介」
実は子供のころ,すごく人見知りで,そ ういうのだめだったんですけど,だから心 のどこかで,初回に行く時って,すごく緊 張する。それで○○○(越境先共同体の名前)も,(最初に来る人に)私に申し込ん でもらうようにしたのは,それがわかるか ら。 (共同体III,O)

(2)RQ2

ブローカーが企業外の実践を企業内に伝播・還流する際に、組織と個人においてどのようなプロセスが観察されるのか。

④企業内への実践の還流プロセス(カテゴリーⅣ)

・初期段階で企業内から「反発」を受ける(例:「かぶれている」との批判)。
・それに対し、関連付けやメタファーの活用、主要ステークホルダーの巻き込み、学習環境整備など多面的に工夫。
・結果として、還流の成功に至る場合も多い。

■インタビュー引用:概念14 他共同体実践の還流に対する反発
かぶれじゃないんですけど,(外部の実践の)覚えていることを勝手にやっている と思われると嫌だった。(外部の実践だけ でなく特定の)要素をいれればいいが。「変 なこと覚えてきて」って言われるんです ね。「そういうことは,うちでは必要ない から」って。周りがそんなようなムードだ と,うまくいかないじゃないですか。周りが動かないとだめなんですね。 (共同体 III,M)

⑤還流プロセスを通じた自己変容(カテゴリーⅤ)

・当初は異なる価値観への「戸惑い」あり。
・次第に多様な価値観を意義あるものとして受容。
・スキルを社内業務にも応用可能に。
・「ブローカリングの日常化」が進行し、社内・社外の両方で複数の共同体を横断する存在となる。

■インタビュー引用:概念19 複数価値観に対する意義の認識
アウェイ感はある程度大事だと思いますね。外にいかなきゃいけないっていう のは,やっぱり自分のメンタルモデルと か,自分に無いものとかをこう,自分でこ わすとか,自分では得られなかった情報を出し入れするというのが,たぶん僕の目的 にはなっていると思うんで。ある程度のア ウェイのところで人に会うのは必要かな, と。 (共同体I,D)

(4)(5)のプロセスをまとめたのが以下の図表である。

感想

 実践共同体での活動をどう社内に取り入れていくかは、結構難しいなと大学院に通いながら感じており、内容的にもすごく面白く参考になった。ノットワーキングスキルの重要性はこの論文書かれた当時よりも増しているだろう。研究手法を知る意味でも参考になった。

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