中国人は、本当に政府を支持しているのか?
「支持している」「怖くて何も言えない」――その二択では見えない、中国人の本音
このシリーズでは、ニュースだけでは分からない世界の人々の日常と、その背後にある社会の構造を見ています。
前回は、中国が台湾・尖閣諸島周辺・南シナ海で、なぜ全面戦争を起こさずに圧力を積み重ねるのかを見ました。
今回は、その中国を内側から見ます。
日本で中国の政治について話すと、しばしば二つの説明に分かれます。
一つは、
「中国人は政府を支持している」
という見方。
もう一つは、
「本当は不満だらけだが、怖くて言えないだけ」
という見方です。
では、どちらが本当なのでしょうか。
結論から言えば、
どちらか一方だけでは、中国社会を説明できません。
中国には、本当に政府を評価している人がいます。
不満を持っている人もいます。
政府は支持するが、地方政府には怒っている人もいます。
国家には誇りを持っているが、政策には文句を言う人もいます。
政治の話そのものを避ける人もいます。
そして、そのすべてが一人の人間の中に同時に存在することさえあります。
今回は、一人の会社員の日常から、
「中国人が政府を支持する」とは、一体どういう意味なのか
を見ていきます。
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夕食の席で、父と息子の意見が食い違う
上海郊外。
38歳の会社員、周明(ジョウ・ミン)は、週末に実家へ帰っていました。
父親は68歳。
母親は64歳。
夕食を食べながら、テレビでは中国の高速鉄道や新しいインフラについて報道されています。
父親が言いました。
「中国は本当に変わったな」
周明も頷きます。
父親の若い頃、故郷から上海まで移動するには大変な時間がかかりました。
今は高速鉄道があります。
街には地下鉄があります。
道路もきれいになりました。
スマートフォン一つで買い物も支払いもできます。
父親は言います。
「昔を知らない若者は、文句ばかり言う」
すると周明が笑いました。
「でも家は高すぎるよ」
父親は答えます。
「それは政府のせいだけじゃないだろう」
周明は続けます。
「地方政府は土地を売ってきたじゃないか」
少し空気が変わりました。
しかし父親は、
「政府の悪口を言うな」
とは言いませんでした。
むしろ、
「地方は問題が多い」
と答えました。
この会話には、
中国政治を理解する重要なヒントがあります。
父親は国家を高く評価しています。
息子は生活上の不満を持っています。
しかし二人とも、
「中国という国そのものを否定している」
わけではありません。
※周明とその家族は、公開されている研究・調査を参考に構成した架空の人物です。中国人の政治意識は地域・世代・所得・教育・職業によって大きく異なります。
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中国人は、本当に政府を高く評価しているのか
これは非常に難しい問いです。
中国で行われた長期調査では、中央政府に対する満足度が非常に高いという結果が出ています。
ハーバード大学アッシュ・センターが2003年から2016年まで中国各地で行った調査では、2016年時点で中央政府について「比較的満足」「非常に満足」と答えた人が95%を超えました。研究チームは、調査期間を通じて政府に対する満足度が全体として上昇したと報告しています。
ただし、
「95%なら、中国人の95%が共産党を熱烈に支持している」
と単純に理解してはいけません。
理由があります。
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本音を言える調査なのか?
中国は自由な選挙によって政権交代する政治体制ではありません。
政治的な発言にも制約があります。
そのため研究者の間では以前から、
「政府への満足度を尋ねられた時、中国人は本音を答えているのか」
という問題が議論されてきました。
権威主義体制では、
「政府を支持している」
と答える方が安全だと感じる人がいるかもしれません。
つまり、
社会的望ましさバイアス
です。
実際、政治的信頼に関する近年の研究も、中国の世論調査にはこうしたバイアスが存在し得ることを認めています。
では、
高い支持率は全部嘘なのでしょうか。
そこも違います。
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「怖くて支持しているだけ」でも説明できない
研究者は、直接「政府を信頼しますか」と聞く方法だけでなく、心理的な反応を測る間接的な方法も使っています。
その結果、中国の人々には自己申告とは独立した形でも政府に対する一定の「暗黙の信頼」が確認された研究があります。
つまり、
「中国人は怖いから全員嘘をついている」
という説明も単純すぎます。
本当に政府を評価している人は存在します。
では、
なぜでしょうか。
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父親が政府を評価する理由は「イデオロギー」ではない
周明の父親に、
「なぜ政府を支持するの?」
と聞いたとします。
おそらく、
社会主義理論について長々と語るわけではありません。
彼が思い出すのは、
自分の若い頃です。
道路が未舗装だった。
電話が家になかった。
遠くへ行くのが大変だった。
生活必需品も今ほど豊富ではなかった。
その時代から、
今の中国を見ています。
高速鉄道。
空港。
高速道路。
巨大都市。
スマートフォン決済。
EV。
世界的企業。
父親にとって政府の評価は、
政治思想より、
「自分の人生の中で国がどれだけ変わったか」
と結びついています。
ハーバードの長期調査でも、政府への満足度上昇は、生活水準の改善、公共サービス、反腐敗政策などへの評価と関連していると分析されています。
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「自由」より「国が良くなったか」で政治を見る人もいる
日本では政治を考える時、
言論の自由。
選挙。
権力分立。
報道の自由。
などが重要な評価基準になります。
もちろん中国にも、そうした価値を重視する人はいます。
しかし政治の評価軸はそれだけではありません。
生活が豊かになったか。
治安はいいか。
交通は便利か。
腐敗は減ったか。
国家が外国から尊重されているか。
こうしたことも政治評価になります。
だから、
外から見ると
「民主的ではないのになぜ支持するのか」
と不思議に見えても、
本人は別の物差しで政府を評価している可能性があります。
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中央政府は好き。でも地方政府には腹が立つ
ここからが、中国政治の非常に興味深いところです。
中国では昔から、
中央政府への信頼が、地方政府への信頼より高い
という傾向が繰り返し確認されてきました。
ある研究では、中央政府を信頼する人が8割を超える一方、地方政府への信頼はそれよりかなり低いという「信頼の階層差」が指摘されています。
周明もそうです。
中央政府については、
「大きな方向は間違っていない」
と思っています。
しかし区役所には文句があります。
住宅。
学校。
土地。
行政手続き。
地方役人。
日常生活で問題が起きるのは、中央政府より地方政府だからです。
そこで、こんな考え方が生まれます。
「中央は正しい。でも下がちゃんと実行していない」
この考え方は、中国政府にとって非常に重要です。
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不満の矛先を「地方」に向ける構造
例えば住民が、
土地を不当に取り上げられた。
補償金が少ない。
地方役人が腐敗している。
と感じたとします。
その時、
「共産党そのものが悪い」
ではなく、
「中央政府の政策を地方役人が曲げている」
と考えることがあります。
すると住民は、
地方政府に抗議しながら、
中央政府へ救済を求めます。
つまり、
政府に抗議することと、政府体制を支持することが両立する
のです。
外から見ると矛盾しています。
しかし本人にとっては矛盾ではありません。
「悪い役人を、良い中央政府に取り締まってほしい」
という論理だからです。
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中国では「政府批判」がすべて禁止されているわけではない
もう一つ誤解されやすい点があります。
中国では、
「政府を批判した瞬間にすべて削除される」
というイメージがあります。
実際には、仕組みはもう少し複雑です。
ハーバード大学などの研究チームが大量の中国SNS投稿を分析した有名な研究では、政府や政策に対する激しい批判そのものが必ずしも削除されるわけではなく、むしろ集団行動につながる可能性がある投稿が重点的に検閲される傾向が示されました。
これは非常に重要です。
「役所はひどい」
「この政策はおかしい」
という不満と、
「明日みんなでここへ集まろう」
では、
政府にとって意味が違うのです。
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不満そのものより「人が集まること」が怖い
一人が怒っている。
これは不満です。
一万人が同じ不満を持っている。
これは政治になります。
そして一万人が、
同じ場所へ集まろうとする。
ここで権力にとっての意味が変わります。
つまり中国の情報統制を理解する時、
単に
「悪口を消している」
と見るだけでは不十分です。
より重要なのは、
不満が組織化されることを防ぐ
という側面です。
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だから中国人は「政治の話をしない」のか
周明は会社の同僚と食事をします。
住宅価格について話します。
失業について話します。
給料について話します。
子どもの教育について話します。
しかし最高指導部についての話になると、
急に言葉を選びます。
「まあ……上には上の事情があるんじゃない?」
そして話題を変えます。
政府に不満がないからでしょうか。
必ずしもそうではありません。
話しても得をしないから
ということもあります。
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自己検閲は、命令されなくても起きる
検閲社会の重要な特徴は、
政府が毎回、
「この発言は禁止です」
と言わなくても機能することです。
人々が自分で、
これは言っていい。
これはやめておこう。
と判断し始めます。
ニュース記事が削除される。
SNSアカウントが停止される。
著名人が突然発信しなくなる。
そうした事例を見るうちに、
具体的な線引きを知らなくても、
「ここから先は危ないかもしれない」
と学びます。
経済に関する悲観的な発言さえ削除される例が近年報じられており、政治だけでなく経済議論にも発言上の制約が及ぶことがあります。
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では、沈黙は支持なのか?
ここが難しい。
政治について話さない人を見て、
「政府を支持している」
とも言えません。
しかし、
「怖くて沈黙している反政府派」
とも限りません。
周明の場合、
政治より、
住宅ローン。
子どもの学校。
両親の健康。
仕事。
の方が重要です。
彼にとって政治は、
人生の中心ではありません。
これはどの国でも同じでしょう。
ほとんどの人は毎日、
政治体制について考えて暮らしているわけではありません。
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「民主化したいですか?」と聞くだけでは見えない
国外から中国を見る時、
「中国人は民主主義を望んでいるのか」
という問いがよく出ます。
しかし普通の人の政治意識は、
そんな一問では測れません。
例えば周明は、
政府を選挙で選べた方がいいと思うかもしれません。
同時に、
「政治が混乱するくらいなら今の方がいい」
とも思うかもしれません。
言論の自由は増えてほしい。
でも、
大規模な社会混乱は嫌だ。
政府には不満がある。
しかし、
外国から中国を批判されると腹が立つ。
これらは全部、同時に成立します。
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なぜ「混乱」への恐怖が強いのか
中国社会では、
「乱」
という言葉が非常に重い意味を持ちます。
歴史の中で、
内戦。
革命。
政治運動。
社会混乱。
を経験してきたからです。
特に上の世代では、
「政治的自由より、まず社会が安定していること」
を重視する人がいます。
だから政府が、
「安定」
を強調する時、
それは単なるスローガンではありません。
一部の人々が本当に価値を感じる言葉でもあります。
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天安門を知らない若者もいる
中国の情報環境では、政治的に敏感な出来事へのアクセスは制限されています。
検索結果。
SNS。
教科書。
ニュース。
すべての人が同じ情報に触れているわけではありません。
長年の研究でも、中国の検索エンジンやネット空間で政治的に敏感な語句・人物が強くフィルタリングされてきたことが確認されています。
ここで重要なのは、
「中国人は騙されている」
と簡単に結論づけないことです。
私たちも、自分がアクセスできる情報の中で世界観を作っています。
違うのは、
アクセスできる情報の範囲を国家が強く管理している
という点です。
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それでも中国人は外国を全く知らないわけではない
中国人は海外旅行をします。
外国企業で働きます。
留学します。
VPNなどを使って海外情報を見る人もいます。
日本のアニメを見ます。
米国の映画も見ます。
海外ブランドも買います。
そして興味深いことに、
国際関係が悪化しても、政府の外交姿勢と個人の消費行動が一致しないことがあります。
2026年のAP通信の報道では、日本や米国との政治的緊張が続く一方で、中国の若い消費者の間では日本の飲食店やキャラクター、米国ブランドなどへの人気が続いている様子が報じられています。
つまり、
国家を支持することと、日本文化を好きなことは両立する
のです。
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愛国心は「政府への服従」と同じではない
周明は中国人であることに誇りを持っています。
中国企業が海外で成功すると嬉しい。
宇宙開発のニュースを見ると誇らしい。
外国から中国が馬鹿にされたと感じれば腹が立つ。
だからといって、
すべての政府政策に賛成しているわけではありません。
住宅政策には不満があります。
若者の就職も心配です。
インターネット規制についても、
「もう少し自由でもいい」
と思っています。
しかし外国人から、
「中国は全部おかしい国だ」
と言われると、
政府を批判していた周明が、
今度は中国を擁護します。
なぜでしょうか。
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家族の悪口を、自分では言えても他人には言われたくない
これは日本人にも少し分かる感覚かもしれません。
自分の会社には文句がある。
でも外部の人から、
「最低の会社だね」
と言われると不愉快になる。
自分の家族には不満がある。
でも他人に家族を馬鹿にされると腹が立つ。
国にも似た部分があります。
中国人自身が中国政府を批判することと、
外国人から中国全体を批判されることは、
心理的には別なのです。
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国家の成功は、自分の成功でもある
中国の急成長を経験した世代では、
国家の発展と個人の生活改善が同時に起きました。
だから、
「中国が強くなった」
という話は、
抽象的な国家主義だけではありません。
自分の人生そのものと重なることがあります。
祖父母は貧しかった。
両親の生活は改善した。
自分は大学へ行った。
子どもは海外旅行もできる。
その変化を、
「国が発展したから」
と感じれば、
国家への誇りは自然に生まれます。
中国の若者を対象とした研究でも、国家の台頭や政治的安定に対して強い楽観やナショナル・プライドを示しつつ、社会問題への批判的認識も同時に持つ傾向が報告されています。
ここでも、
誇りと不満は同時に存在する
のです。
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では経済が悪くなったら、支持もなくなるのか?
ここは中国政府にとって非常に重要な問題です。
もし政府への支持の大きな理由が、
「生活が良くなったから」
なら、
経済成長が鈍ればどうなるのでしょうか。
住宅価格。
若者の就職。
地方財政。
人口減少。
こうした問題が続けば、
父親世代の
「明日は今日より良くなる」
という感覚を、
若い世代が持てなくなる可能性があります。
実際、近年の中国では、経済への悲観的な分析や若者の不満が政治的に敏感になっていること自体が、政府が社会心理を強く意識していることを示しています。これは推測ですが、経済的成果が政治的正当性の重要な一部である以上、経済への信頼低下は当局にとって単なる景気問題以上の意味を持つと考えられます。
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父親と息子では、政府を見る目も違う
周明の父親は言います。
「中国ほど早く発展した国はない」
周明は答えます。
「でも僕たちは家を買うだけで大変だよ」
父親は、
昔との比較
で中国を評価します。
息子は、
現在の期待
で中国を評価します。
これは大きな違いです。
父親にとって、
昔より豊か。
だから成功。
息子にとって、
大学を出た。
働いている。
なのに生活が楽ではない。
だから不満。
同じ中国を見ていても、
比較する基準が違います。
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そして孫の世代は、さらに違うかもしれない
もし周明の子どもが、
生まれた時から高速鉄道もスマートフォンも高層ビルもある社会で育ったら、
それらは政府の「成果」ではありません。
最初から存在する普通の風景です。
その世代が政府を評価する時、
見るものは変わります。
仕事があるか。
住宅を買えるか。
自由に生きられるか。
老後は安心か。
社会は公平か。
つまり、
過去の経済成長だけで支持を維持することは、
時間が経つほど難しくなる可能性があります。
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「中国人は洗脳されている」で終わらせると何も見えない
中国を外から見る時、
一番簡単な説明があります。
「洗脳されているから政府を支持する」
確かに中国には情報統制があります。
検閲もあります。
政治活動への制限もあります。
しかし、
それだけで14億人近い人々の政治意識を説明することはできません。
本当に政府を評価する人もいる。
情報統制の影響を受ける人もいる。
不満を持つ人もいる。
政治を気にしない人もいる。
国家への誇りを持つ人もいる。
外国への反発から政府側へ寄る人もいる。
地方だけを批判する人もいる。
その全部を、
「支持」
という一文字にまとめてしまうと、
中国人の本当の姿は逆に見えなくなります。
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逆に「全員、政府に怯えている」でもない
反対側の説明も同じです。
中国には政治的なリスクがあります。
だから人々が発言を控える場面もあります。
しかし、
人々が毎日恐怖だけで暮らしていると考えるのも現実から離れます。
仕事へ行く。
恋愛する。
子どもを学校へ送る。
旅行する。
外食する。
ゲームをする。
家を買う。
普通の日常があります。
政府は、
その日常の背景に存在します。
人によっては強く意識する。
人によってはほとんど意識しない。
政治体制だけを見て中国社会を見ると、
そこにいる普通の人間が消えてしまいます。
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「支持する」とは、何を支持しているのか
ここが今回の一番重要な問いです。
中国人に、
「政府を支持していますか?」
と聞いた時、
その「支持」は何を意味するのでしょうか。
共産党の理念?
習近平政権?
社会主義?
国家の統一?
経済発展?
社会秩序?
今より混乱しないこと?
外国に負けないこと?
それらは全て別のものです。
だから、
「支持率○%」
という数字だけを見ても、
その人の心の中までは分かりません。
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夜。周明は父親と散歩する
夕食後。
周明と父親は家の近くを歩きました。
高架道路の向こうを高速鉄道が走っていきます。
父親が言いました。
「俺が若い頃、この辺は何もなかった」
周明は、
「知ってるよ」
と答えます。
父親は続けます。
「だから俺は、この国はよくやったと思う」
周明は少し黙りました。
そして言いました。
「僕も、中国が嫌いなわけじゃないよ」
「でも、良くないところまで良いと言う必要はないでしょう」
父親は笑いました。
「それはそうだ」
短い会話です。
しかし、
この中に中国人の政治意識の複雑さが詰まっています。
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政府を支持しながら、政府に文句を言う
外から見ると、
矛盾に見えます。
しかし私たちも、
日本という国を嫌いでなくても、
政府へ文句を言います。
会社を辞めるつもりがなくても、
会社へ不満を持ちます。
家族を愛していても、
家族と喧嘩します。
所属することと、
全面的に賛成することは、
同じではありません。
中国でも同じです。
ただし、
政治的な発言が許される範囲が日本とは大きく違います。
その制約の中で、
支持。
不満。
沈黙。
愛国心。
諦め。
期待。
が混ざり合っています。
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中国人は、本当に政府を支持しているのか?
答えは、
「支持している人もいる。ただし、その意味は私たちが想像するほど単純ではない」
です。
経済成長を評価している。
社会秩序を評価している。
中国が強くなったことを誇りに思っている。
中央政府を信頼している。
一方で、
住宅には不満。
地方行政にも不満。
仕事にも不安。
情報統制を窮屈に感じる。
そういう人もいる。
つまり、
中国人の政治意識は、
「共産党支持」か「反共産党」か
の二択ではありません。
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本当に見なければならないのは、支持率ではない
中国政治について、
私たちは数字を求めます。
支持率は何%なのか。
反政府派は何%なのか。
しかし中国のような政治体制では、
その数字を測ること自体が難しい。
だから本当に重要なのは、
数字より、
人々が政府に何を期待し、何に怒り、何を恐れ、何を誇りに思っているのか
を見ることです。
周明の父親は、
昔より豊かになった中国を見ています。
周明は、
今の生活の難しさを見ています。
二人とも中国人です。
二人とも中国を嫌っていません。
二人とも政府について同じ考えでもありません。
これが、
ニュースの「中国国民」という一言では決して見えてこない、
中国人の本当の姿なのです。
⸻
次回予告 第38回
中国の若者は、どんな恋愛をしているのか?
マッチングアプリ、親の期待、家と年収――それでも「好きな人と一緒にいたい」
第32回では、
なぜ若者が結婚しなくなったのかを見ました。
しかし、
結婚しない=恋愛しない
ではありません。
中国の若者も恋をします。
告白します。
別れます。
嫉妬します。
マッチングアプリも使います。
しかし恋愛の先には、
家。
仕事。
戸籍。
収入。
親。
結婚。
という現実が待っています。
次回は、
「好き」という感情と、中国社会が求める条件がぶつかった時、若者は何を選ぶのか
を、一組のカップルを通して深く描きます。
