芥川賞が描いた性と身体②(2017-2024)|2000年以降の芥川賞⑩
前回は、2003年『蛇にピアス』(金原ひとみ著)、2007年『乳と卵』(川上未映子著)、2012年『冥土めぐり』(鹿島田真希著)、2015年『異類婚姻譚』(本谷有希子著)を取り上げながら、2000年代から2010年代前半の芥川賞が描いた「性と身体」を見てきた。
近年の芥川賞では、このテーマはさらに大きな存在感を持つようになる。
身体は単なる肉体ではない。
老い、障害、病気、ジェンダー、出産、死。
人間が生きることそのものと結びついた問題として描かれている。
今回は、2017年『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子著)、2023年『ハンチバック』(市川沙央著)、2024年『サンショウウオの四十九日』(朝比奈秋著)を取り上げる。
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2017年『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子著)
主人公は七十代の女性。
夫に先立たれ、一人暮らしを続けている。
本作が描くのは老いである。
身体は少しずつ衰えていく。若い頃には当たり前だったことができなくなる。
しかし老いは喪失だけではない。
主人公は過去を振り返りながら、自分自身と対話を続ける。
身体の変化を受け入れながら生きる姿が力強く描かれている。
芥川賞において「老い」を真正面から描いた代表作の一つだろう。
2023年『ハンチバック』(市川沙央著)
近年の芥川賞を象徴する作品である。
主人公は重度の障害を抱えながら施設で生活している。
社会は障害者を保護の対象として見ることが多い。しかし本作はそうした視線を拒否する。
欲望もある。性もある。怒りもある。
主人公は一人の人間として存在している。
身体をめぐる文学は数多く存在するが、本作ほど真正面から身体と欲望を描いた作品は少ない。
2020年代の芥川賞を代表する一冊と言ってよいだろう。
2024年『サンショウウオの四十九日』(朝比奈秋著)
近年の芥川賞作品の中でも特に印象的な一作。
本作では身体そのものが物語の中心に置かれる。
人はどこまでが自分なのか。身体と人格は一致するのか。生と死はどこで分かれるのか。
作品はこうした根源的な問いを投げかける。
家族小説としても読めるが、それ以上に身体と生命をめぐる文学として強い印象を残す。
『乳と卵』や『ハンチバック』とは異なる方向から、身体というテーマに挑んだ作品である。
身体は文学の最前線になった
2000年代の芥川賞では、身体は若さや性、結婚と結びついて描かれることが多かった。
しかし近年になると状況は変わる。
『おらおらでひとりいぐも』は老いを描いた。
『ハンチバック』は障害と欲望を描いた。
『サンショウウオの四十九日』は生命そのものを問い直した。
身体は誰もが持っている。だからこそ、そのあり方は人によって大きく異なる。
近年の芥川賞は、その違いを隠すのではなく、むしろ積極的に描いてきた。
2000年以降の受賞作を振り返ると、「性と身体」は芥川賞を代表するテーマの一つであることがよく分かる。
そして現在もなお、このテーマは新しい形で更新され続けているのである。
次回は「土地と記憶」をテーマに、『時が滲む朝』『乙女の密告』『しんせかい』『百年泥』などを取り上げながら、場所と記憶を描いた芥川賞作品を見ていきたい。
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