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2000年以降、芥川賞は何を評価してきたのか|2000年以降の芥川賞①

芥川賞というと、「難しい純文学の賞」というイメージを持つ人が多いかもしれない。

実際、『道化師の蝶』『abさんご』『東京都同情塔』のように、言葉や小説の形式そのものに挑戦する作品も受賞している。

しかし2000年以降の受賞作を一覧にしてみると、見えてくる景色は少し違う。

芥川賞は単に難解な文学を評価してきたわけではない。

孤独、家族、労働、身体、土地——現代を生きる人々が抱える問題を、それぞれの時代の言葉で描いた作品を選び続けてきた賞だった。
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テーマ別に見る芥川賞

本シリーズでは受賞作を便宜上、孤独と自意識・家族と喪失・労働と格差・性と身体・土地と記憶・未来社会と実験文学・幻想と純文学の7つに分類した。

もちろん複数のテーマにまたがる作品も多い。分類はあくまで読書案内のための目安である。

分類すると次のようになる。

テーマ/作品数

孤独と自意識/9
家族と喪失/11
労働と格差/11
性と身体/7
土地と記憶/9
未来社会と実験文学/4
幻想と純文学/13

最も多かったのは「幻想と純文学」だった。しかしそれに続くのは「家族と喪失」「労働と格差」である。

芥川賞は純文学の賞でありながら、現実を生きる人間の苦しさや切実さを描く作品を数多く選んできたのである。

2000年代――自意識と家族の時代

2000年代前半には『きれぎれ』『蹴りたい背中』『ひとり日和』など、自意識や孤独を描いた作品が相次いだ。

一方で、『中陰の花』『猛スピードで母は』『土の中の子供』など、家族や喪失をテーマにした作品も目立つ。

現在振り返ると、この時期の芥川賞は「個人」と「家族」をめぐる文学が中心だったと言えるだろう。

2010年代――身体と労働の発見

2010年代に入ると、芥川賞のテーマはさらに広がる。

『苦役列車』は社会からこぼれ落ちた男の生を描き、『コンビニ人間』は現代社会に適応できない個人の姿を描いた。

また、『乳と卵』『異類婚姻譚』など、身体やジェンダーを主題とする作品も存在感を増していく。

孤独や家族だけでなく、労働や身体というテーマが前面に出てきた時代だった。

2020年代――多様化する芥川賞

近年の芥川賞はさらに多様である。

『ハンチバック』は障害と身体を描き、『彼岸花が咲く島』は言語と共同体を描いた。

『東京都同情塔』や『DTOPIA』は未来社会や制度そのものを主題にしている。

かつての芥川賞が私小説中心の賞だとすれば、現在の芥川賞は社会、身体、土地、テクノロジーまで含めた幅広いテーマを扱う賞へと変化している。

テーマを代表する作品

孤独と自意識
2003年『蹴りたい背中』(綿矢りさ著)

若者の孤独と他者への違和感を鮮烈に描いた代表作。

家族と喪失
2022年『荒地の家族』(佐藤厚志著)

震災後を生きる家族の喪失と再生を描く。

労働と格差
2016年『コンビニ人間』(村田沙耶香著)

働くことと社会への適応を問い直した現代の代表作。

性と身体
2023年『ハンチバック』(市川沙央著)

身体と欲望を正面から描き、大きな反響を呼んだ。

土地と記憶
2020年『首里の馬』(高山羽根子著)

沖縄という土地に刻まれた記憶を静かに描く。

未来社会と実験文学
2023年『東京都同情塔』(九段理江著)

ザハの新国立競技場がある未来。制度と言葉が支配する近未来社会を描いた話題作。 

幻想と純文学
2012年『abさんご』(黒田夏子著)

言葉そのものの可能性を追求した、芥川賞史上でも特異な作品である。

芥川賞は「現代を生きる人間」を描いてきた

2000年以降の受賞作を並べると、芥川賞は決して難解な作品だけを選んできたわけではないことが分かる。

孤独な若者もいる。家族を失った人もいる。働く人もいる。身体に苦しむ人もいる。そして土地の記憶や未来社会を描く作品もある。

テーマは違っても、その中心にいるのは常に人間だった。

これから各テーマを見ていくと、芥川賞がこの25年間で何を描き、何を評価してきたのかがさらに見えてくるだろう。まずは「孤独と自意識」から振り返ってみたい。

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