独立したら、1000万円と親友が消えた話EX-3|最後の姿
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Aの言動は、だんだんおかしくなり、
ついていけなくなった。
こうして並べてみると、
なんでもっと早く見切りをつけなかったんだろうと思う。
でも、実際にじわじわと体験すると、
なかなか気づけない。
いつのまにか、戻れないとこまで来てしまった。
──そんな感覚だった。
2024年4月|ポートレート
「撮影と編集、先に練習しよう」
ある日の朝、Aはそう言ってきた。
事業を広めるにはSNSが必要だ。
作っている側が、ちゃんとしているところを見せたい。
そういう理由だった。
「女性のポートレートをやりたい。
でも俺、女友達いないからモデル雇うしかないかな」
Aは頭を抱えながらそう言っていた。
すこし引っかかった。
順番が違うだろうって。
でも、口には出さなかった。
アカウント育てるには時間かかる。
今動かないといけない。
……まあ、たしかにな。
「じゃあ、友達に声かけてみるよ」
そう提案すると、
Aは嬉しそうな顔をした。
「それは助かる。お礼は払うから探してみてよ」
声をかけた中の4人がOKしてくれて、
全員分の撮影日が決まった。
1人目の撮影の、前日。
突然、連絡が入った。
「ごめん、やっぱキャンセルで」
「え、なんで?もう明日だよ?」
「ちょっと対応しないといけない問題があって」
それだけだった。
さすがに友達に申し訳なくて、
キャンセル料を渡すことにした。
「悪いね。立て替えてもらった分は今度返すから」
Aは、軽くそう言った。
前日のドタキャンは、1人で終わらなかった。
次の予定、その次の予定。
前日になると、
「ごめん、やっぱキャンセルで」
結局、お願いした全員に頭を下げて、
キャンセル料を払った。
友人は「大丈夫だよ!」と言ってくれたけど、
僕だったら大丈夫じゃない。
幸い、友人関係にヒビは入らなかった……と思っている。
このときに立て替えたお金は、
1円も返ってきていない。
2024年6月|Bという人物
ある日、中学時代の友達から連絡が来た。
「まる、今Aと仕事してるって聞いたけど、本当?」
「そうだよ。どうかした?」
少し間があって、返事が来た。
「Bっていう知り合いが、一緒に仕事してたらしい。知ってる?」
そんな話、聞いたことはなかった。
Bという名前も知らない。
「入金がなくて、連絡も取れないらしい。
できれば、繋いでもらえないかなって」
そのままAに聞いた。
「こんな連絡きたけど。どうなってんの?」
Aは一瞬だけ黙って、
明らかに面倒くさそうな顔をしていた。
「あーー……あの件ね」
少しの間があった。
「成果物に対して支払う契約なんだよね。
完成してないから、支払いは発生しない。
このクオリティじゃ、やり直してもらわないと」
そうなんだ、と返す前に、
Aはさらに続けた。
「正直こっちも迷惑してるんだよね。
できるって言うから頼んだのに、実力が合ってなくてさ。
面倒だから、連絡きてもブロックしてて」
……そうか。
「事情はわからないけど、
訴えられたりして支障が出るのは困るよ」
「Bさんの支払いを先に済ませてあげて。
俺の分は、そのあとでいい」
そう伝えると、Aは黙ってうなずいていた。
2024年7月〜8月|今までの分
「来週から、入院することになったから」
この時期、今度は母が入院した。
父を亡くして、それなりに時間は経ってた。
それでも、気持ちは“またか”とずんと重くなる。
一週間、二週間。
予定よりも退院は延び、
入院費のことが気になった。
最悪のケースを考えて、早めにAに連絡をした。
「母親が入院してさ。
もしかしたら、まとまったお金が必要になるかもしれない」
するとAは、僕が言い切る前に言った。
「あー、じゃあ追加で300万くらいでいい?」
……意味がわからなかった。
今までの支払いもできてないのに。
「300万くらい」って、どういうことだろう。
「追加の話じゃない。
今までの未払いを、入金してほしい」
そう伝えるとAは、いつもの調子で言った。
「じゃあ来週、持ってくるわ」
そして、数日後。
「まる、これ」
差し出されたのは、お金じゃなくて一枚の紙。
「……何これ?」
「それに書いてある分を、書いてある日までに払うから」
思わず、笑ってしまった。
また、「待って」か。
それからしばらくして、
母は無事に退院することができた。
あの日の紙は、今も僕の手元にある。
なんの効力もない、ただの紙切れとして。
2024年9月|カメラの購入
Aは突然、50万円を持ってきた。
現金を持ってきたのは、
このときが初めてだった。
「カメラ選びを手伝ってほしいんだよね」
某企業からの撮影依頼が急ぎで入ったらしい。
「その条件なら、80万円くらいするよ。予算足りないから無理。」
「もうスケジュールも決まってるんだよね。
残りの30万、立て替えておいてくれない?」
「いや、なんでよ。予算内のカメラにしよう。
無理して買うものじゃないじゃん」
Aは、少し被せるように言った。
「他の仕事にも使うしさ。
妥協して買うと、どうせすぐ買い替えることになる」
「それに、早くしないと練習する時間もない。
お金はすぐに持ってくるから、頼むよ」
不満はあったけど、
お客さんに迷惑はかけられないと思った。
「お客さんのために立て替えるだけだからね」
そう念押しして、カメラを購入した。
その仕事が実際に来ることは、なかった。
2024年10月|東京のイベント
「東京で、クリエイターが集まるイベントがある。
俺が旅費を出すから、行こう」
また、突然電話がかかってきた。
「まるの彼女にも営業を手伝ってほしい。
自由時間も作るから観光してもいいよ」
嫌な予感はしていた。
だから、彼女には、正直に言った。
「Aのことだから、ドタキャンになるかもしれない。でも、準備だけはしておこう」
そう話すと、彼女はうなずいてくれた。
飛行機の時間、イベント申し込み、ホテル。
一通りの確認をして、Aは最後にこう言った。
「当日の朝、迎えに行くから」
彼女は、東京に行けるかもしれない、と嬉しそうな表情をしていた。
わざわざ実家までスーツケースを取りに帰ってもらい、
数泊分の準備をしてもらった。
そして、当日の朝。
「ごめん。出発、明日に変更でいい?」
もう、驚きもしなかった。
ああ、やっぱりな。
「わかった。じゃあまた明日」
彼女には「明日にするらしいよ」とだけ言った。
──翌日。
「ごめん。やっぱキャンセルで」
だろうね。
そう思いながら、
僕は何事もなかったかのように、また机に向かった。
彼女は悲しそうにしていた。
東京の友だちと会う約束をしていたり、
行きたいお店もチェックしていたかもしれない。
でも、そのときの僕には、
思いやりの気持ちはもう残っていなかった。
“こっちだってずっと振り回されてるんだ”
不満そうな彼女を見て、
「そんな感じならもういいよ」と
Aに対するいらいらを、そのままぶつけた。
2024年11月|マンションの購入
少しずつ寒くなってきたころ。
また、いつものようにAが突然こう言った。
「事務所を構えようと思ってさ。マンション、買った」
……ああ、そう。
10月の東京のことがあってから、
僕はもうAと真面目に向き合う気はなかった。
でも今回は、
いつもと少しだけ様子が違った。
「Cが不動産に就職したの、知ってるよね?」
Cは地元の友達で、Aとは同じ中学。
僕は別の中学だったけど、
昔はよく一緒に遊んでいた。
「Cのところで手付金を払ってきた。あとは住所変更と本入金と、鍵をもらうだけ」
ちゃんとした会社が間に入っている。
手付金を払ったという具体的な話。
初めて“それっぽい証拠”が出てきた。
「いつ頃から入れるの?」
「12月末くらいかな。その時に、まるの報酬も払うから」
マンションを契約するくらいだから、
やっと資金繰りの目処が立ったんだな。
さすがにCとCの会社にまで、迷惑はかけないだろう。
とりあえず待つことにしよう。
キリのいい、12月末まで。
2024年12月|意味
「Paypayが不正利用されてさ。税務調査が入ったんだよね」
「この前のカメラの50万、辻褄合わせのために返してもらえる?」
不正利用。税務調査。辻褄合わせ。
意味は、もう考えなかった。
「いいけど。じゃあもう、カメラは俺のってことで」
それだけ言った。
結局、80万円のカメラを、自分で買っただけだった。
最悪、生活に本当に困ったら、売ればいい。
そのくらいの気持ちだった。
「来週には鍵を貰ってると思うから。
そのときに今までのお金も全部持ってくる」
来週、入金がなかったらもう終わりにしよう。
これが、僕が見た最後のAの姿になった。
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【つづき(第6話)はこちら】↓
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