共生の黎明 #92 第19章 第1章:交差する想い 連続小説
H市庁舎の朝は、少しずつ変化していた。
かつては、日々の業務に追われるように始まっていた庁内も、今では始業前に廊下で立ち話を交わす職員の姿が目立つようになっていた。
そこには、あの日の会議を経て生まれた小さな信頼の芽が、静かに育っている証があった。
地域連携課の一室で、課長補佐が手元の書類をそっと置いた。
「…来ましたね」
彼が言葉にしたのは、一通のメールだった。
件名には「地域間連携に関する協議の打診」とあった。
差出人は、A市の地域振興部。
そして、CCにはF市の名も連ねられていた。
内容はこうだった。
先行して「まちの環」モデルを導入した両市から、今後の正式な参加を視野に、三市合同での協議の場を設けたいという申し出だった。
課長補佐はそのまま市長室へ向かった。
市長は静かに文面を読み終え、目を閉じた。数秒の沈黙ののち、低い声で言った。
「……このタイミングで、彼らから打診が来たことの意味は、大きいですね」
「はい。私たちの中で始まった変化が、外にも伝わっていた証だと思います」
市長は頷き、机の上の端に置いてあったファイルを手に取った。
それは、庁内検討会議で交わされた議論の記録だった。
市民の声、職員の思い、それらが交差し重なった証の束だった。
「一つの自治体ではできないことも、連携すれば可能になるかもしれません。私たちのまちが、それを証明する番ですね」
窓の外では、街路樹が春の風に揺れていた。
変化は、いつも静かに、けれど確かに近づいている。
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