共生の黎明 #42 第13章 第3節:ちいさな約束の場所 連続小説
古い校舎の窓から差し込む春の光が、職員室の木の机にやわらかく落ちていた。
その一角で開かれていた会議では、いま、ある新しい試みが話し合われていた。
それは、地域で広がりを見せている「アヤ/ユラ」の仕組みを、この小学校でも、子どもたちと教職員の間で試験的に取り入れてみようという提案だった。
「ありがとう」や「助かったよ」の気持ちを、
日々の学校生活のなかでやり取りできるような、そんなかたち。
たとえば、教室の掃除を手伝ってくれた子や、
誰かの落とし物をそっと届けてくれた子に「ユラ」を送る。
そのすべてが数値になるわけでも、記録に残るわけでもない。
けれど、それがそのまま誰かの心に届くのなら。
ある先生がふとつぶやいた。
「こういうのが、ほんとの“道徳の授業”かもしれないですね」
周囲には小さなうなずきが連なる。
子どもたちの間で芽吹く“ありがとう”の循環が、
やがて地域に、家庭に、広がっていくかもしれない。
そんな想像に、誰もが少し微笑んでいた。
会議の終わり、
校長がゆっくりと、しかし確かな声で言った。
「“ひらかれた窓”は、私たちの心の中にも必要なんです。
まずは、ここから始めてみましょう」
春風が、窓辺のカーテンをそっと揺らした。
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