ショートショート【楽観的なあなたが嫌いでした】
ある朝、僕の右手がいなくなっていた。
手首より先がどこにも無い。おそるおそる右手が無い箇所を細目で見てみたが、ツルリと皮膚があるだけで、惨たらしい断面にはなっていなかった。
スマホのアラームが鳴り、手探りでスマホを探し当てるも、全然掴めなかったことで、右手が無いことに気がついた。仕方なく左手でアラームを止めたら、左手は少し不服そうだった。
それはそうと利き手の右手がいなくなると僕はすごく困る。イラストレーターとしての仕事にも支障が出るし、日常生活もまあ色々と不便だ。
とりあえず、家の探せるところにはいなかった。さすがに外に行くことはないだろうと思いつつ、玄関の鍵が掛けられている所を見ると、鍵が無かった。僕はそこに絶対に鍵を掛けた自信があったので、右手は鍵を持って、外に行ってしまったのだろう。ちなみに玄関の鍵はちゃんと閉まっていた。僕の右手らしい行動だった。
僕は片手で(しかも利き手じゃない左手)、苦戦しながらも身支度を済ませた。まさかここまで不便だとは思わなかった。特に着替えが大変だった。今日はストライプのシャツを着ようと思っていたが、片手でボタンを留めるのも外すのも難しく、ボーダーのTシャツに変更せざるを得なかった。
僕の右手は、なぜ僕の元を離れたのだろうか。働かせ過ぎたのだろうか。いや待て。そもそも手が勝手に何処かへ行くなんて聞いたこともない。いったいどういうことだ。不可解過ぎる。
兎にも角にも、今僕がしなくてはならないのは、右手の捜索ということだ。まったく世話のかかる。今日はゆっくりと映画など観て過ごすつもりだったのに。
とはいえ、なんの手かがりも無く、闇雲に探したところで見つかるわけがない。体力の無駄遣いというものだろう。ましてや右手の行きたいところなんてわかるわけもない。脳はこちらにあるのだから。
というか、そもそも探す必要はあるのだろうか。右手は家の鍵を持っているし、ちゃんと施錠もして出かけている。もしかしたら何か用事を済ませたら、この家に戻ってくるんではないだろうか。
うん、きっとそうだ。右手には右手のやりたいことがあるかもしれないし、僕は僕で今日の予定をこなそうじゃないか。
なにしろ僕には左手という優秀な相棒がいるのだから。
さ、映画を観に行こう。
(了)
